7-42 未知のギフト
軽口を終えたところで俺たち三人は再び背中合わせになり周囲を警戒する。
状況的には多少消耗しているが、3人ともダメージはほぼ受けてない。伏せてるアディーラは言わずもがな。
対して黒豹族の方は死者もけが人も出ているがまだやる気はあるようだ。
アマツやオルフェを呼んでもいいが、これで全員とは言い切れない以上キャンプ地の守りを薄くするわけにはいかない。
やはりここは3人+1人でなんとかするしかないか。
相手方も実は近距離もいける弓手と中距離もこなせるボクサーを相手にしていたことを理解して攻め手に欠いているのか、先ほどからやや遠巻きにこちらを囲んでいる。
俺の矢もコウの飛ばすパンチも回避に専念されるとあまり効果はない。
どうする? ここでアディーラを投入して一気に決めるか? いや、相手の底がまだわからない今は出すべきじゃないか?
「チャージもできたし、こないならこっちからいかせてもらおうかな?」
俺の考えがまとまる前に、一歩踏み出し輪から抜けたのは薙刀を回すスケイラ。
「合わせる」
そういってコウもスケイラの後ろにつく。
ちょっ!? 二人が同じ方向向いたら、必然的に俺が二人の後ろを守らなきゃダメじゃん!
「せぇい!」
そんな事情などお構いなしに、気合と共にスケイラが薙刀を振うとスケイラの前方一面に吹雪が巻き起こる!
うぉっ、寒っ!
いつぞやの盗賊共を相手にした時と比べて火力……いや、冷気が強い。
後ろにいてもこの冷気だ、まともに食らった連中は悲鳴を上げる間もなく凍り付く。
中途半端な吹雪だと逃げられると判断したか?
「仕留める」
相手がアクションを起こすより早く、すかさずコウがパンチを放ち吹雪をまともに食らって凍り付いた数人を打ち据える。
動きを止めて撃つ、遠距離の基本だな。
「リチャージ!」
「心得た」
そう叫んだスケイラが下がり、代わりにコウがスケイラを守るように前に立つ。
なるほど、二人は二人で連携が取れてるってわけか。
3人の中で範囲攻撃を持っているのがスケイラだけなので、彼女を主軸に攻める作戦は悪くない。
この二人と一緒に戦うのは初めてだから、連携に少々不安はあるが……
ま、二人が動きやすいよう背中を守るだけでも十分か。
攻める二人と離れすぎないように後に続き、後ろから攻めようとしている連中をけん制する。
?
多分、索敵障壁を使いつつもバックアップのために全体を見てたからだろうか取り囲む連中に違和感を覚えた。
スケイラが範囲攻撃の吹雪という手札を切ったのに、距離を取りつつもスケイラの前方に連中が寄ってきている気がする。
まるでスケイラに攻撃してください、見てくださいと言わんばかりの配置だ。
それを意識して俺の正面に視線を戻せば、そこも他と比べて敵の密度が濃い。
当然前後に人が寄れば側面は薄くなって――
!!
真横! 前にいる連中を盾にして俺たちから見えないように”何か”を手に持ち操作している奴がいる!
俺が気が付いたのと同時にそいつは”何か”を地面に落とした。
その方面に障壁を張りつつ、まだ気が付いてない二人に警告を入れるべく肺に空気を入れて、
「気をつけろ! 何かやってくるぞ!」
警告の言葉を発するのと同時に、"何か"から広がった結界のような空間に俺ごと飲み込まれた。
……体に異常はない、索敵障壁は機能したままだから魔法も普通に使える。
少なくともこの空間には俺たちだけじゃなくて、黒豹族も入っているから致命的なシロモノではないと思うk
ひえっ! また冷気が背中にきた! ちめたい!
どうやらスケイラがいつの間にか再び吹雪を放ったようだ、スケイラもコウも警告を無視して正面の敵と戦っているのか
いや! なんで冷気がくるまでスケイラが吹雪を起こした事に気が付かなかった!?
確かに味方の動きは最小限わかればいいから、そこまで気合を入れて感知してるわけでもない。1発目を撃ったのがわかったのはスケイラの気合の入った声と吹雪の風切る音が聞こえたから……
っ! いや、吹雪の音どころじゃねぇ! 普段は無意識でも聞こえる草が風に吹かれてなびく音や、周りのちょっとした喧騒も含めて今は何もかも聞こえない!
これがさっき広がった空間の効果か!?
あいつが何か操作してたのがわかったからこれは魔法じゃない、おそらくは俺が知らないギフトの一種だろう。
しかし、音が聞こえなくなっただけなら俺には索敵障壁があるから特に影響はない。
実際空間に取り込まれてすぐ俺の死角から誰かが何かを投げたが、飛んでくるものをばっちり感知できてるから柔軟障壁で受け止めた。
障壁に阻まれ勢いをなくした何かは、柔軟障壁を消すと重力に引かれて地面へと落ちる。
受け止めた時ぱっとみて金属に見えたが、それが地面に落ちてもやはり何も聞こえなかった。
弓を撃つ合間を見計らって投げつけられたものを見てみれば、丸目の形状に刃物を取り付けられたそれは八方手裏剣のようなものだった。