7-37 子供の時の約束は律儀に守られるのか?
「むぅ、腹が減ってるのは事実。仕方ない、アイリちゃんここはいったん休戦で」
「ええ、そうですね」
カニエスさんはケバブに目がいって、怖い笑みを浮かべるアイリにまったく気が付いていない。
二人は素直に差し出されたケバブを受け取った。
「どうしても父様は信じたくないようですから、一つだけ真実をお教えしますね」
ケバブを受け取ったアイリはそのまま俺の腕を取り身を寄せた。
「私はもう仙人様のモノですから。仙人様が死ぬときは私も一緒に死ぬんです」
ちょっ! アイリィーー! いいかたぁぁぁぁー---!!
いやちょっとまってそれ! 嘘じゃないけどその言い方!
確かにアイリはこの前ダンジョンモンスターになったから、マスターである俺のモノと言えば間違いじゃないし、もしダンジョンコアが破壊されたら俺もろともアイリも消滅するけど!
「うわぁー! アイリちゃんだいたーん!」
アイリの行動になんか沸く戦士たち。
特に女性陣からの歓声がすごい。
「いやぁー、引っ込み思案だったあの子が信じられないねぇ! 三日会わざれば刮目してみよっていうのは本当だったんだねぇ!」
ケバブを食べ終えたエアデールさんも酒を飲みながら無責任にはやしたてる。
それは男子じゃないのか!? というか同じ格言があるのか!?
「それにしてもこの酒もうまいねぇ! アマツちゃん! これはなんていう酒だい?」
「んーと、確かククノチはラクゥとかゆーてたか?」
「へぇー! 馬乳酒よりもよっぽど強くていいねぇ!」
ラクゥはブドウの蒸留酒だから度数は45度ほどあるはずなんだが、それをストレートでがぶ飲みするとはククノチとは気が合いそうだなぁ。
「まぁ、アタイの事は放っておいて、それよりあんたはあっちの相手をしないとねぇ?」
ケラケラ笑いながらエアデールさんがある方向を指さす。
その先を目で追ってみれば
「……」
そこにはケバブを持ったまま俯いて震えるカニエスさんの姿。
ついでに言うなら一部の戦士達からも嫉妬と言うかそんな視線を感じる。
「一つだけ聞かせてくれ。アイリちゃんの言ったことは本当か?」
意図的に誤解させるような言い回しをしているが。
「……間違ったことは言ってない」
ここでムキになって訂正したら、むしろこっちの信頼を損なうリスクがある。
カニエスさんはこちらの返答を聞いたのちしばし固まっていたが、
「アイリちゃんをとられたぁぁぁぁー--!!!」
いや! 取ってない! いや、結果的にそうなっちゃったとはいえ取ってはいない……はず。
「あはははは!」
一連の流れを見ていたエアデールさんのツボに入ったらしく豪快に笑うエアデールさん。
そんな状態なのに、手に持っている杯の酒を1滴たりともこぼさないあたりただものじゃない。
「これでもう、決闘で仙人様が勝ったらもう認めるしかないよねぇ!」
決闘!? どういう事だってばよ!?
「何、大したことじゃないよ。あの人昔っから”アイリを娶りたかったらこの俺を倒してみろ!”って吹聴しまくってたからねぇ」
「そうだ! 恩義はあるが、それはそれ、これはこれ! このわしに決闘で勝てたら認めてやろう!」
ちょっとまって! 勝手に話を進めないで!
「よかった。これで仙人様が父様を倒せば万事解決ですね!」
心底嬉しそうに言うアイリ。
いや、その理屈はおかしい。
「アイリちゃんはパパの事応援してくれないのかい!?」
「いえ、応援するしない以前に勝負にもなりませんよ。子犬が狼に勝てるわけがないでしょう?」
いやあの、それが事実だとしても君のお父さんをボコるのはちょっと……
「仙人様、後遺症を負わない程度にしていただければ何も問題ないんですよ」
にこやかに言ってるけどアイリちゃん目怖っ!
実はカニエスさんの事嫌いなのか?
「やる前から勝った気でいるとは、大した自信だな! その実力の程見させてもらう!」
カニエスさんの顔から感情が消えて戦士の顔になった。
こうなるとさすがに族長だけあって、威厳があるオーラをまとっている。
なんていうか、ギャップが激しい人だなぁ。
周りも盛り上がりもはや断るという選択肢はない。俺も感情を押し殺しつつ構えを取った。
「二人とも準備はいいみたいだねぇ。それじゃ開始の合図を送るとするかね」
視線はカニエスさんの方を外さないので見えないが、索敵障壁でエアデールさんが持っていた杯が俺とカニエスさんの真ん中に飛んでくるのがわかる。
地面に杯が落ちた瞬間。俺たちは同時に地を蹴った。
来週は投稿できるかあやしいです