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7-35 親バカと親子愛

 空間魔法でウチのダンジョンと繋げば、最初に出てきたのは転がる大量のタル。

 回るのを止めたタルはひとりでに立ち上がる。


「ワインにビールにジュース、いろいろ持ってきたとよー」

「おうよ、いつもありがとな」


 次に姿を見せたのはアマツ。

 カルガモの親子のように、いくつもの転がるタルを引き連れて歩くアマツを見るのはウチのダンジョンじゃもはや日常茶飯事になっちまったな。

 液体に限ればフォークリフトもいらないアマツの能力は便利だのぉ。


「はいはい~。ちょっとどいてよぉ~」


 続いて出てきたのは、大量のコンテナを乗せた荷台を苦も無く押すオルフェ。

 さすが人間重機! いや、オルフェは人じゃなかった。


 コンテナはしっかり閉められているが、腹が減るいい匂いが漏れ出ておる。

 

「あ、ご主人。後一人来るからもうちょっと繋いでてもらえるかなぁ?」

「ほいよ」


 飲み物と食い物はすでに来たからもう十分っちゃ十分だけど、後一人分くらいなら魔力ももつかな。

 さほど時間もおかず、ポータルを通って姿を見せたのは、


「アイリ! アイリじゃないか!」

「母様!」


 いつもは留守番を任せているアイリがポータルから飛び出してきた。

 これはコアさんが気を効かせてくれたかな?


「母様! かあさまぁ……」

「あらら、ちょっと見ないうちにすっかり甘えん坊になっちゃってねぇ」


 胸に飛び込んできたアイリを抱きとめて、まるで赤子に接するようにやさしくなでるエアデールさん。

 目元に涙を浮かべているその様はまさに母親。さっき豪快に旦那さんをかかと落としで轟沈させたとはとても思えねぇ。


「アイリちゃんの声が聞こえる……」  


 母娘(おやこ)が抱きしめあうその足元、呻くような声を出して顔を上げたのは先ほどまで伸びていたカニエスさん。

 娘の声を聴いて復活したか、さすが親バカだ。


 カニエスさんは首だけギギギっと動かすと、やがて視界内にアイリの姿を捉えたようだ。

  

「みーっけたー!」


 その瞬間、地面に付いていた四肢の力で地面をたたき、起き上がるどころか高く跳ね上がる!

 うわっ! キモイ! 何あの動き! すごいってかキモイ!


「アーイリちゃーーん!」


 おかしいイントネーションで叫び、アイリに向かってダイブするカニエスさん。

 華麗なその放物線は某有名怪盗を思わせる。


 だがここは柔らかいベットの上ではなく、硬い地面の上だ!

 そんなに勢いつけたら危ない!


 が、


「父様もお変わりないようで何よりです。過度なスキンシップはおやめくださいと何度も言ってますよね?」


 何らかの気配を察したのかアイリはエアデールさんの胸元から素早く離れると、飛んでくるカニエスさんの頭をガシっととらえて受け止めた。


「アイリちゃん、ちょっと見ないうちにたくましくなったね」

「これくらいできないと仙人様のところにはいられませんから」


 片手でカニエスさんを浮かせたままにこやかにほほ笑むアイリ。

 おそらく以前のアイリからは想像できないんだろう、その姿を見て絶句する戦士のみなさん。

 

 そこから化物を見るような目でこちらを見るみなさん。

 いやいや、そんな大の男を片手で持ち上げられないとウチにいられないなんてそんなことはないから。


 ただちょっと。アイリ……というか白犬族がウチのダンジョンで暮らすには少々危険なのよね。

 もちろん地球人に比べれば丈夫なアイリとはいえ、例えば仕事中に全力疾走するオルフェが誤ってぶつかった場合、そのままだとアイリは間違いなく”全身を強く打った”状態になってしまう。

 多分あいつはダンプカーと正面衝突しても、ダンプカーの方をへこませるくらい頑丈だと思う。


 だから少なくとも大ケガしない程度までDPを使って強化した結果、戦闘が苦手だと言っていたアイリでもとっさに反応できたり、カニエスさん(大の男)を片手でつかめるくらいまでは強くなっちゃったってわけだ。

 

「え? ちょっと待ってアイリちゃん、今なんて言った?」

「過度なスキンシップはおやめくださいと言いましたが?」

「いや、その後だよアイリちゃん!」


 腕が疲れてきたのか、アイリがようやくカニエスさんを下ろしたとたんになんか問答が始まった。


「仙人様のところにいられない、という部分でしょうか?」

「そう! そこだよ! どういう事なのアイリちゃん!」

「どういう事も何もそのままの意味ですが、今は仙人様の住処でお世話になってますから」

「ちょーーー! ちょちょちょ! そんなの聞いてない! 聞いてないよ!」


 あれー? その辺は使いの人から聞いてないのかな?

 ちらりとエアデールさんの方に疑問の視線を投げかけてみる。


「あー、あの人アイリがゴブリンに連れ去られたって話を聞いたあたりから憤慨して激昂したあと真っ青になって気絶してたからねぇ」


 エアデールさんは肩をすくめながら答えてくれた。


「起こしてもまた気絶されたら面倒だからねぇ。とりあえずアタイが全部話を聞いた後、アイリがあんた達と同居してるという話とかは伏せて説明したのさね」


 これで説明は十分とばかりにエアデールさんはオルフェが持ってきたコンテナに目を向け、

 

「ま、子離れするいい機会だし、あれはほっといてさっさと飯の用意をするさね」


 もはや二人のやりとりに興味はなさそうに言い放つ。

 なんというか、カニエスさんの扱い方をよーくわかってらっしゃるあたりさすが夫婦だなぁ。

親バカキャラにしておくと

話が重くならなくていいね!

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