7-34 カリスマブレイクRTA
「見えました、あそこが今の俺たちの住居っす」
黒豹族に絡まれてから数分も歩いたころ、先導していた戦士の一人が指をさす。
戦士の一人が先行して知らせていたせいか、何十人もの人が手を振って出迎えてくれている。
日は沈みかけてるが、夜になる前に到着できてよかった。
彼らの後ろにはいくつかのテントが並んで張られているが、人数を考えるとちょっと少ないかな?
この辺も切り詰めているのか、相当苦労してるようだな。
馬車が到着すると一人の男性が一歩前にでる。
合わせるかのように馬を降り、その男の元へと向こうサエモドさんとレオドンさん。
「息災で何よりだサエモドにレオドン。一時はどうなるかと思ったが再び無事にあえて嬉しく思うぞ」
「ご心配をおかけしました。族長達の方こそご無事で何よりです」
サエモドさんにねぎらいのかけるこの男こそが白犬族の族長か。
確かに族長というだけあって、鍛え上げられた肉体にまとうオーラも他と一味違う。
値踏みしてる俺の視線に気が付いたのか、男の顔がこちらを向く。
「そこの馬車を引いている男がもしや 」
「はい、我々の恩人にあたる仙人様です」
おっと、呼ばれたみたいだな。
馬車から降りて族長の正面へと立つ。
ふーむ。近づいてみると歴戦のナイスミドルという感じだなぁ。
これでさらに二人の美人な娘さんがいるんだからうらやましいわ。
お互いに軽い自己紹介をすると、族長カニエスさんは深々と頭を下げた。
「使いのものから話を聞いている。まずは我らが同胞を救ってくれたこと、本当に感謝申し上げる」
威厳を保ちつつも謙虚な姿勢を崩さない。
さすが族長となる人の器は違うな。
「頭を上げてください。縁あって助けただけですから」
そう、マナミさんがリスクを背負ってウチにこようとしなければ、あるいはアイリが俺を説得できなきゃ、俺たちはここまで白犬族にかかわる事はなかった。
「縁……」
カニエスさんはそうぶつやくと頭をさげたまま、なぜか震えだした。
「お前がわしからアイリちゃんを奪った馬の骨かーー!」
えっ? 突然何言ってるのこの人!?
「聞いたぞぉ!? お前が同胞を助ける交換条件にアイリちゃんを要求したってことをよぉぉーー!!」
顔を上げたカニエスさんが目から滝のような涙を流しこちらにせまってくる!
なんていうか怖い! 別の意味で超怖い!
「ちょっ!? ちょっと何!?」
突然の事過ぎて脳が整理しきれない!
「わしが! せっかくこのわしが悪い虫が付かないように大切にアイリちゃんを守ってきたのに! それがちょっと別れたすきにちゃっかり奪いおってぇぇぇぇーーー!」
「ちょっ!? チョークチョーク!」
襟をつかむな! しまってる! しまってるから!
ちょっと! 浮いてる! 足が浮いてるから!
「ちょっといい加減におしよあんたぁ!!」
「ごふっ!」
首を絞めていたカニエスさんの力が急になくなったからか、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。
その横にうつ伏せで豪快な音を立てて地面に倒れるカニエスさん。
うわ!、あたまにでっかいタンコブができてーら!
「ウチの亭主がとんだ失礼をしたねぇ、大丈夫かい?」
「ああ、この程度なら全然平気です。助かりました」
差し出された手を取って起こしてもらう。
立ち上がればそこに立っていたのはマナミさんにちょっと艶を足したかのような妙齢の女性。
え? でもこの人さっき族長のこと”亭主”っていってたよね!?
「すまないねぇ。この人は優秀なんだけど、娘の事となるといつもこんな調子でねぇ」
ということはこの人がマナミさんとアイリのお母さん!?
うっそぉ! 若っ! 実年齢は知らんが30前半って言っても信じるぞ俺は!
「今回の件も別れたくないって駄々をこねるもんでねぇ。アタイが無理やり引きはがしたのさね」
そっか、戦士って言っても女性がいないわけじゃないのか。
よくみりゃ少人数ではあるが、確かに女性も数人まじってる。
「自己紹介が遅れたねぇ、アタイはエアデールってんだ。よろしくねぇ仙人様」
「あ、ああ。よろしくお願いします」
ニカっと笑うと、手を離さぬままぶんぶんと握手をするエアデールさん。
うーん。このサバサバした性格はマナミさんを彷彿とさせる。
さすが親子。
それより、倒れたカニエスさんがピクリとも動いてないんだけど……
「こいつはアタイのかかと落とし程度食らいなれてるから平気さね」
そうなんだ、いつも食らってるんだこの人。
エアデールさんはさっきの事はよくある事とばかりに切り捨てると、視線を俺の後ろの方に向けた。
その先にいるのは三面堅の皆さん。
「それよりそちらの方々もお仲間かい? 仙人様はケモミミの女性しか仲間にいないって聞いてたけどねぇ」
「ああ、それはだな――」
「そのあたりは私が話すから、君は早く夕餉の準備を始めた方がいいと思う。この場の誰もがそれを望んでいるはずだよ、私も含めてね」
話を遮り、スケイラが俺の肩に手を置いて割ってきた。
まぁ、語ると長くなる話だしなぁ。
「そうだよ! そうしとくれ! こんなのは飯を食いながらでもできる話だからねぇ!」
肩におかれたスケイラの手ごと、今度は俺の肩をバンバン叩くエアデールさん。
うーん、さすが戦士。じつに力強い。
「あいにく調理場はないからねぇ、積み荷に調理器具があるなら若い衆を使って早く準備しておくれよ」
エアデールさんの発破にやる気を見せる戦士たち。
うん、普通はそう思うよね。
「いや、実は飯はここに運んでもらう手はずになってるんだ」
少し間を開けてもらうようにお願いしてっと。
それじゃあ出前さんのご登場と行きましょう!