7-32 異世界ギャップ
立派な城壁に見事な船。他を見たことがないから比べることはできないが栄えているというのは間違いない。
だが 今まであえて目をそらしていたが、ここからファンバキアを見下ろしてみるとどうしても栄えてるとは言い難いものも目に入ってくる。
ここから見て3か所ほど城壁に入口らしき門があるが、その一番小さい門から続く道路を目で追うと、キャンプ場のようにたくさんのテントが所せましと建っているところがある。
「金やコネがない連中はみんなあそこに纏められてるんっすよ」
「あんたらも今はそこに?」
「持ち回りで都市の宿に泊まったりはしてますが、大半はそこで寝泊まりしてるっすね」
都市と比べると小さいが、ここから見てもそれなりの規模はある。
つまりそれだけ避難民が流入してるって事か。
「そりゃ、無秩序に人がこんだけ増え続ければ犯罪も増えるわな」
「ええ、だから本当に気を付けてくださいよ」
馬車に積んであるものはもちろん、ウチのダンジョンから物資を出すのも他の連中に見られないようにしないと無用なトラブルに巻き込まれかねない。
「その辺は私たちがしっかり番をするよ。まだ距離もあるしそろそろ行こうじゃないか」
「そうそう、待ってる仲間たちにも早く飯を食わせてやりたいしな」
防犯について考えていた俺の思考を打ち切るように、スケイラが俺の肩を叩いて先をうながす。
そうだな、何をするにもまず着いてからだな。
「それではまいりましょう」
サエモドさんが馬を操り、馬車を引かせる。
それにあわせて皆も動き出した。
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盗賊街道を抜けたおかげか、あれ以降特にトラブルに巻き込まれることもなく旅は順調そのもの、ここまでくると他の道からやってきた商隊や旅人とも出会い、はたまた別れ、都市へと歩みを進めていく。
「そうですか、そちらにも盗賊が……」
「ええ、ええ、おかげで無用な出費が増えましたよ」
手綱を変わってほしいと言われて交代したら、ここであったのも何かの縁とばかりに他の商隊や旅人と情報交換をしていくサエモドさん。
うーん。実に手慣れてるなぁ。
「なるほど、お話ありがとうございます。よろしければこちらをどうぞ」
「これは……。食べ物ですか?」
「ええ。シリアルチョコクッキーバーというもので、とあるツテから手に入れたものです」
サエモドさんから配られたチョコバーをしばし観察した後に口に入れる皆さん。
んー? チョコは流通してない感じなのかな?
「これは! 甘くて美味ですな!」
「ええ。しかもかなり日持ちもするので保存食にもピッタリですよ」
このチョコバーはコアさんが改良を重ねて保存食に特化したものだからなぁ。
周りをクッキーで焼き固めて常温保存でもチョコが解けてもれることはない。
しかもこの本来保存用に仕上げたクッキーがカリッカリでまたすんごいうまいんよ。
保存用だけじゃなく、普通に高級菓子としても通用するレベルなんだよな。
「こちらは商品ですかな? でしたらこの場で交渉させていただきたい!」
「あいにく売るほどの量がないんですよ、今回は事前調査みたいなものでして……」
今回の主目的はあくまで白犬族の戦士たちに物資を届けることと借金返済が目的だからな。
さらに言うなら俺は相場すら知らない。今回の行脚で俺たちが作っているものにどれくらいの価値が付くのか知れたらいいとは思っている。
とはいえ、需要があるなら白犬族のダンジョンの特産品にするのもいいかもしれないな。
「そうですか、ではお売りになられる際は是非お声がけを」
ま、少なくともシリアルチョコクッキーバーはかなりの需要が見込めそうだな。
商人さんは都市での拠点を書いた地図らしきものをサエモドさんに手渡し別の入口へと向かっていった。
「サエモドさんやるぅ」
情報をもらった上に商品(予定)を売り込み、コネまで作るとはね。
「いえいえ、コアさんが作られたこのチョコバーがすぐれているからですよ」
「こういうのってよそでは作ってないのかな?」
「私はあまり交易に出たことはないので、見たことはないですね」
あ、そうか。サエモドさんは普段役人だったな。
「ふーん。じゃあ出回ってないのかな」
「俺たちも知らないっすね」
交易に出ている白犬族の戦士たちもしらないってなると、この世界にカカオはウチのダンジョンにしかないって事になる……のかな?
「この賢のデーン、似たようなものを見たことがある」
「そうなのかデーン!」
「左様」
いつの間にやら近くにいたデーンが大きくうなづき語り出す。
「時々このような高品質の保存食が一時的に突然出回ることはある。ただしこの手のブツは味がよく保存方法が優れているほど値が張り出回らぬので、サエモド殿が知らぬのも無理はないこと」
「突然出回るって……」
「本当に前触れなく突然でてくるのだ。おそらくはギフトとして受け取ったものを売却していると、この賢のデーンは推測しておるぞ」
あ、なーるほど。それなら納得だ。
「ちなみに他の保存食って見た事ってある?」
「そうさのぉ、この賢のデーンが生涯見たものの中で一番驚いたものと言えば」
そういうとデーンは髭をいじり長考に入った。
「思いだしたぞ。最初の見た目は手のひらに乗るくらいの四角形な物であったがな……」
そういうとデーンはテーブルにそれを置くふりをして
「こう手のひらでなぞると、それが徐々に膨らんでいってな、しまいには布に乗せられたフルコース一式が出てくるというものであった」
は? マジかよ!? なんだそれ!
そんなん地球にもねーよ!
「そんなんどうやって作るんだよ!?」
「さぁ? この賢のデーンにもとんと検討が付かぬ。だからこそギフトと呼ばれておるのだろうよ」
おおう、そういう割り切り方しちゃうのね。
「これからゆくファンバキアにはそういった原理のわからぬものがよく売られておる。お主もいちいち考えるのがバカらしくなってくるだろうよ」
そういえばマナミさんがギフトは珍しいけど出回ってはいるって言ってたな。
どんなものが売ってるのかオラわくわくしてきたぞ!
「これからについて楽しく話してるところに悪いですが、もうキャンプ地ですよ」
言われてみれば、そう遠くない場所に天幕が張られていうのがいくつか見える。
ま、確かに買い物に行く前に、まずは物資を届けよう。
キャラが固まるまでなかなか動かしにくいんよな
かたまればイメージがつくけど・・・