7-28 盗賊街道4
「大体は音でわかっていましたが……いやはやすざましいですな」
馬車から出てきたサエモドさんが驚愕半分恐怖半分と言った声をもらす。
うん、まぁ、冷静になって周りを見てみればそこかしこに死体が転がってるからね。
「じゃあ、戦利品はこれに詰めてくれるかな。中身は空だからどんどん入れていいよ」
スケイラが馬車から下ろした携帯用倉庫をぽんぽんと叩く。
戦利品っていうのは、つまり周りに転がってるアレらだな。
手分けして戦利品を詰めていく。
幸い携帯用倉庫の口は広いから、戦利品を小さくしなくても入れられるのがよかった。
まぁ、それでも携帯用倉庫の中に入ったククノチがツタを外に伸ばし、戦利品を受け取っては中に入れていくその様は新手のクトゥルフかと思ったぞ。
あんまりそっちの方向を見ないようにしていたら、ふと神妙な顔つきをしているサエモドさんが視界に入る。
「サエモドさん、顔つきが険しいけどなんかあったのか?」
「ああ、仙人様。いえ、大したことではないのですが……」
そういってサエモドさんは一つの死体を指さした。
ありゃ確かアディーラが馬から引きずり落して倒した男だな。
「私の記憶が確かなら、この男はこの先の都市で税関をしてたような気がするんです」
「あー、それはつまり……」
「いえ、他人のそら似でしょう。まともな職がある男がこんなところで盗賊をやってるはずがないですからな」
「ま、どうせここで盗賊に襲われたこともなかった事になるしな」
男の死体を持ち上げてククノチのツタへとまきつければ、死体は携帯用倉庫へと引きずり込まれる。
これでヤツがいたという証拠はもう何もない。
「しかし、これから向かうところも綺麗事ばかりじゃなさそうだな」
「そうですな。この付近では最も発展していると言っていい交易都市ですが、それ故に金がすべてを支配するといっても過言ではありません。中にはどんな手を使っても金を得ようとする連中も少なからずおります」
「ふーん。あんたらの戦士たちも、そういうのに騙された口かな?」
「権力者の中にもそういう連中はいますからね、ないとは言えませんな」
なるほどねぇ、資本主義が行き過ぎるとそういう感じになるのかもね。
綺麗すぎるところよりも、ちょっとダーティーな部分があるほうがおもしろそうではある。
今の俺たちなら多少トラブルに巻き込まれても、最悪実力でどうにかなりそうだし。
戦利品の回収は2人を除いて粛々とやってくれたおかげで終わりが見えてきた。
実力差がありすぎたせいで手加減……というよりもナメプと言っても差し支えがないほどの戦いだったからか、ほとんどの死体は五体満足で残ってるからなぁ。
「おや、片づけは大体終わってるみたいだね」
「こちらも用事は終わったよ。こいつはもういらない」
お、凍った男を尋問していたコアさんとスケイラの二人が戻ってきた。
スケイラの肩に背負われた男は生きているようには見えない。
「連中のアジトの場所やら残党の数やらいろいろ聞けたよ。彼女がいると痛めつけて吐かせる必要がないから楽だね」
男の死体をククノチのツタにまきつけて見送るスケイラ。
「あそこまでおびえてたら、幻術の効きもいいからね」
それに対して朝飯前とばかりに胸を張るコアさん。
コア同士、このタッグは恐ろしいし頼もしいなぁ。
「それでどうするんだ? カチコミにでもいくのか?」
「もちろん。残党もそんなにいないようだし、二手に分かれても問題なさそうだよ」
スケイラが提案したのは彼女と三面堅がアジトを襲撃している間に残りは先に行くという話だった。
他の盗賊の実力が全部同じならそれでも余裕だろうとは思う。
「それならアディーラもついていってくれ。彼女なら念話もできて飛べるから索敵に向いている」
「了解でありますよ」
これで戦力的にもバランスよくなるだろう。
まぁ、馬車を守るにはちょっと人数的に不安ではあるが、もしもの場合の”切り札”もある。
「じゃあ、後は任せたよ。日が落ちるまでには合流するよ。夕食をくいっぱぐれるのはごめんだからね」
「オッケー、くれぐれもしくじるなよ」
連中が遺した馬に携帯用倉庫を二つくくりつけ、五人は道を外れて駆けて行った。
俺はアジトの位置は知らないが、敵の大半は歩兵だったし徒歩圏内なんだろうな。
「夕食を期待してくれるのは嬉しいけど、今は私もここにいるから大したものはできないよ?」
「話を聞いてから、しっかりキャンプ飯を用意してきた狐が何を言ってるんだか」
実際今馬車の荷台には、コアさんが今日持ち込んだスキレットなどの調理器具一式と下ごしらえを済ませた食材が積まれているわけで……
「本当の意味で野外で食べるご飯はこれが初めてだからちょっと張り切っちゃってね」
「飯の話で思い出したが、俺たちは昼飯を食う直前に襲われたんだったな、ちょっと場所を移してから昼飯にしようか」
もうほとんど戦いの形跡もないほど片づけたとはいえ、まったくないというわけでもない。
後は時間が風化してくれるのに任せて俺たちは先に進もう。
「そういえばスケイラは夕食はくいっぱぐれたくないって言ってたけど、昼飯は逃したね」
「そうだな、四人を巻き添えにしてな」
その後、きっちり日没前に五人は戻ってきた。
逃した昼飯の分までガッツリ晩飯を堪能されたことは言うまでもない。




