7-27 盗賊街道3
一応戦闘の中心にいるから、回想しながらも周囲の戦局を見守ってはいるのだが、事前に聞いていた通り取り囲んでいる連中の実力は大したことはない。
一番強くてククノチ親衛隊と同レベルくらいか、それじゃあ健闘すらできないぞ?
どうやらこの世界は何よりもまずダンジョンを持っているかどうかで絶対的な差が出るようだ。
自身を強化するなりギフトで強力な武器を手に入れるなりしないと、一方的に蹂躙されるのみ。
周りに気を使う必要がないのなら、スケイラの戦闘スタイルをじっくり見させてもらおう。
さすがに正面は他と比べて人が多いから、見どころはありそうだ。
「どうしたんだい? 見とれてないでさっさとかかっておいでよ」
得物の薙刀を片手でまわしながら、スケイラが挑発する。
どうやらなんらかの魔法を使っているようで、薙刀は右手に張り付くように回る。
さらに付け加えると、回転が速くなるほどに薙刀の切っ先が青く染まっていく。
やがて薙刀はスケイラの手を中心に青い車輪を形どった。
俺もそうだが対峙してる盗賊たちにとっても、薙刀をまわすスケイラの戦闘スタイルが未知数過ぎてうかつに手が出せないようだ。
薙刀が届かない距離を保ちつつ、スケイラを中心に扇状に散会していく。
「こないなら、こちらからいくよ!」
スケイラはそう宣言すると、遠心力の乗った薙刀を横なぎに振った!
だが、当然盗賊たちは薙刀が届く範囲の外、これじゃ自らスキをさらしたようなもん――
違う! 大振りは囮か!?
本命は薙刀をまわしていた時に青いもの……粒子ともいうべきか? それらが大振りで起きた風と共に盗賊どもに降り注ぐ。
いや、薙いだだけの風にしては粒子が飛ぶ範囲と速度が広く速い!
「ちべた……」
「うぉっ! つめたっ!」
俺が考察してる間に、粒子を浴びた盗賊どもの身体がたちまち凍りついていく。
近い位置にいた奴は全身が凍り付き、遠巻きに囲んでいた者にも霜が降りる。
「あの凍ったやつだけ生かしておこう。それ以外はやっていいよ」
「了解でありますよ!」
再び薙刀をまわし始めるスケイラの前に飛びだすアディーラ。
彼女が持つジャマダハルが凍って身動きが取れない盗賊どもを次々貫いていく。
「アディーラ! 飛ぶんだ!」
合図と同時に飛ぶアディーラ!
間髪入れずスケイラが巻き起こした吹雪が再び盗賊どもを巻き込み、凍り付かせていく。
うーん、えげつねぇなぁ。
至近距離で食らうと全身が凍り付き、動けなくなったところをやられるのはもちろん、距離があっても吹雪で体温を奪われ動きがにぶくなっている。
「くそっ! くそう!」
近距離攻撃がだめなら遠距離と、身に着けていたナイフやらなんやらを投げてくる奴もいるようだが……
「おっと、そうはいかないよ」
いち早くきづいたスケイラが吹雪で飛んでくるナイフを吹き飛ばし、ついでにその先にいた相手を凍らせる。
攻防一体でスキがねぇなぁ。少なくとも短時間で攻略する方法は俺にも思いつかないわ。
オルフェはあんなのによく初見で勝てたな。
盗賊どもは近づいても離れても吹雪を浴び続け、身を凍らせていく。
スケイラは吹雪をまき散らしながら、動けなくなったやつから確実に仕留めていく。
完璧なコンボだなぁ。
「こいつら強すぎる! 俺は降りるぞ!」
お、比較的後ろの方で戦局を見ていた騎乗してる連中がわめいて逃げ出したぞ。
正面はもちろん周りでも一方的にやられてるから、逃げたくなる気持ちはわかる。
わかるけど、俺たちから強奪しようとした時点でそれは手遅れなんだよなぁ。
「戦闘中に背を向けるとは、背後を取る必要がなくなって楽でありますな」
「ひぐっ!」
逃げる男の背をアディーラのジャマダハルが容赦なく貫く。
馬より速く飛ぶ彼女からは逃げられんよ。
「誰だろうと関係ないですな」
相手が何か言ってアディーラが念話で何か伝えてきたが、よくわからんな。
ただ一つわかるのは、ウチの子たちはその手の命乞いには一切興味を示さないって事だけだ。
遠目にアディーラが馬から男を叩き落とし、右手のジャマダハルを突き刺すところが見えた。
これで正面はほぼほぼ終わり。
まぁ、正面は終わりっていうよりも……
「前言撤回だ。競争できるほどの強さもなかったなこいつら」
「私達からみれば、よくこれで盗賊なんてできるねっていう程度の腕前だったね」
右側ではエンとコアさんが得物についた血をぬぐって納刀し、
「この程度か」
「これなら10倍いても余裕だねぇ」
左側のオルフェとコウはお互い素手で相手を撲殺したにもかかわらず、返り血すらついてないように見える。
「まとめて倒すと楽ねぇ」
「多少なりともアマツ殿の糧となったようで何より」
後ろはデーンが土で足を止め、アマツが広範囲の”すいらいげき”でまとめて倒すという魔法攻撃のお手本ともいえる効率の良さで真っ先に終わっていた。
もし逃げる奴がいたら矢を射かけるつもりだったが、どこも逃がす前にあっさり片付いてしまった。
いや、正直ここまで実力差があるとは思ってなかったぞ。
「敵は全滅したようだ。みんなご苦労、というほどでもなかったかな?」
辺りに索敵障壁をめぐらせているも、周囲に味方以外の人らしき反応はなし。
ねぎらいの言葉をかけた後、馬車を飛び降りる。
とりあえずは馬車に避難した二人に知らせておこう。
これからめんどくさい事後処理が始まるしな。
そろそろ都市の名前とか様子とか煮詰めていかにゃあな・・・
あとまったく関係ないですが、アモアス実況動画も作ってみたので
よかったらみてね
https://www.nicovideo.jp/watch/sm39347313