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7-24 旅の途中でも風呂には入りたい

「つきました。本日はここで一泊しましょう」


 ふー。ようやくついたか。

 今日一日休憩以外はずっと乗ってたからケツが痛くなってきた頃合いだったぜ。


 山あり谷ありの道をぬけて馬から降りて周りを見渡してみる。

 そこはちょっとした広場、おまけに近くに湧き水があり薪になりそうな木々がありと確かに野宿するにはうってつけの場所といえよう。


「おっしゃあ! 俺の勝ちぃ!」


 スケイラがテントの評判を皆にもらしたせいか、3つあるうちの1つは俺、スケイラがもう1つを使うことになり、最後の1つの奪い合いを制したエンが勝利の雄たけびを上げる。


 つーか、決め方がじゃんけんだったんだけど、それも広まってるのな。

 手早くテントを建てて野営の準備をする。


「デーン、ちょっと作ってもらいたいものがあるんだけどいいかな?」

「なんなりと」


 おのおの薪を拾いに行ったり水の補給に行ったりしている中、俺はデーンを呼び止めてカマドの土台をつぶしたようなものを作ってもらうように頼む。

 土がモコモコ動くと数分後には立派な土台ができあがった。


 軽く押してみてもビクともしない、これなら問題なさそうだ。


「いい仕事だ」

「この賢のデーンにとってはこの程度、朝飯前……いや今はもう夕飯前ですな」


 時計を見てみればちょうど夕飯と定時連絡の時間だ。

 今日は時間通りに呼び出せそうだな。


「主さん、きたよー」


 ダンジョンに空間をつなぐと、まず転がってきたのはワインを作ったときに作った桶を改造した風呂桶。

 続いて右手に杖を、左手に岡持ちを、そして自らの魔法で寸動鍋を浮かせたアマツが姿を見せた。


「ありがとなーアマツ―」

「なんのー」


 アマツが持ってきてくれた風呂桶をデーンが作った土台の上に置く。


「じゃあここにお湯を入れてくれ」

「らじゃー」


 アマツが杖を風呂桶の上で振ると、温泉エリアからもってきてくれた源水がどんどんそそがれていく。

 やがて即席のお風呂ができあがった!


「お、なんかいいもん作ってんじゃねーか」

「私達にも使わせてくれるよね?」

「いいところに戻ってきたな。エン。火頼むわ」

「へいよ」 

 

 エンは抱えていた薪を乱雑にカマドに投げ入れると――


「よっと」


 指先に小さい火の玉を作り出すと同じように放り込んだ。

 カマドの中に入った火の玉は中央で炸裂し、中に入れていた薪すべてに燃え広がる。


 ふーむ。やっぱ専門的に火関連のスキルをもってるやつは違うな。

 俺だと火の玉は出せても、上手く着火できるかと問われたら自信がない。


「ありがとな、それじゃ飯にしよう」

 

 アマツが浮かせてもってきた寸動鍋を開けてみれば、ゆげと共に鼻に香るよく煮込まれたトマトの匂い。

 今日の晩飯はボルシチか、そして岡持ちの中には揚げたてピロシキがどっさり入っている。


 なるほど、晩飯はロシア料理のようだな。


「これは、仙人様のところでいただいた料理ですかな?」

「厳密にいうと違うが、似たようなもんだな」

「これも美味いんだろ。美味けりゃなんでもいいさ」


 全員分をよそい、ピロシキを適当に分けたところで誰からともなく一斉にボルシチを口に入れる。


 んんー?


「おお! こいつも美味いな!」


 そう、美味しいことは美味しいんだよ。

 でも記憶の片隅にあるボルシチの味とはまったく違う。


 なんていうかこれは……


「ふむぅ、この甘辛さがたまりませんな」

「最後に舌に残るほろ苦さがいい余韻を残してるね」


 コアさんもしかして隠し味にミソペーストとココアパウダーを入れたな。

 そのうえで美味しくなるように試行錯誤したとみた。


 きっと、リトマス試験紙で酸性値を確かめたり、秒数を数えてきっちりかきまわしたりしたんだろう。

 

「俺はこっちの方が好みだ」


 両手にピロシキを持ち、がっつくコウ。

 辛くなければ肉が好みか、タンパク質が好きなのかね? プロテインとかあげたらよろこびそうだ。


 今日は寸動鍋でもらったから、おかわりもして腹いっぱい食ったわ。

  

「いや、まさか旅をしてる途中にこんなに腹いっぱい食えるとはなぁ」

「量だけじゃなくて、全部おいしいところがまたいいよね。本来はもっときつい旅になるんだろうけど、君のおかげで楽だねぇ」


 何度も言うけど、中世レベルの旅は俺が耐えられないからな!


「風呂もいい感じに沸いてるし、一番風呂はもらうぞ」

「どうぞ、君が入ってる間にこっちは順番を決めておくから」


 飯を食って上機嫌な連中をおいて、先ほど馬車の裏に用意した風呂へと向かう。

 うん、いい感じに湯気が立ってるな。温度も問題なし。


 手早く服を脱いで桶の中へと身を沈める。

 いつもの風呂と違い足を伸ばすことはできないが、露天の壺風呂だと思えば十分だ。


 なんてったって空を見上げてみれば、地球の都会じゃ絶対拝めない星空が広がってるからな。

 ここまで綺麗な星空は、山でキャンプして見上げた時以来かもしれん。


「ふい~」


 壺風呂といえば、ヘリに手足を乗せるタコつぼスタイルが王道だよなっ。


 ヘリに頭を乗せて上を見上げれば、今日は月も半月として輝いている。

 異世界と言えば月がいくつもあったり色が違ったりもするんだろうが、この世界は地球と同じ黄色で1個なんだな。


 結局外の世界の1日も24時間だし、何かと地球との共通点も多いんだよなぁ。

 でも地球にはこんな地形はないし、何よりケモミミ娘はいないから違うよな!


 ほどよく旅の疲れを流し、皆がいるところに戻ってみれば焚火を囲んで楽しそうに談笑している。

 明日は酒を持ってきてもらうように頼むかな。


「仙人様、お帰りなさいませ」

「いい湯だった。次誰か入ってくれ」

 

 親指で風呂がある方向をくいっとさすが、席を立つものは誰もいない。

 別に遠慮する必要はないのに、と思ったが皆の表情を見る限りそういうわけでもなさそうだな。


「次は私の番なんだけど、その前に明日からの旅について話しておきたい事があってね」

「ほぉ」

 

 風呂に入ってる間に何か相談したんだろうか。

 俺は適当に腰掛けて、スケイラが話し出すのを待つことにした。

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