7-23 朝の一幕
寝た時間が早かったせいか、目を覚ましたのはまだ夜が明ける前。
魔法で明かりをつけて時計を見てみれば、もう起きても問題ない時間。
それなら見張りをしてくれてるククノチとしゃべってればすぐだな。
テントを出てまだ暗い森を見渡せば、小屋の上に不自然な光とククノチの姿が見えた。
小屋の高さは2メートルくらいはあるだろうが、今の俺ならジャンプで届く。
「よっと、おはよう。見張りご苦労だったな」
「いえー。周りの子たちが教えてくれますからー。ゆっくり読書できました」
「その光ってる植物はなんなんだ?」
「元々は弱い光を出す子だったんですけど、改良して強く光るようにしましたー」
電気スタンドほどではないが、本を読むには十分。
こんだけ明るければこの森の中、虫が寄ってきそうなものだが――
周りをよく見れば、虫をつまんで食べる食虫植物のようなものがいる!
こいつは確か、プライベートガーデンの隅っこにいたやつだ。
そいつの根本を目で追っていくと、ククノチの髪にたどり着いた。
つまりこいつはククノチの一部だ!
光を発する植物もククノチ製だし、なんていうか虫に対する美人局みたいだなぁ。
「ご主人様ー? 立ったままどうしましたかー?」
「いや、なんでもない。ちょっと生命の神秘について真理が開きそうだっただけだ」
そのままククノチとなんでもない雑談に興じているうちに、木々のすき間から徐々に光が差し込んでくる。
「夜が明けたな」
「ですねー」
夜が明けたらそれが合図だったかのように皆が動き出す。
スケイラがあくびをしながらテントから出てきた。
「おはよう。君は早起きだね」
「おはようさん。よく眠れたか?」
「おかげさまでぐっすりとね、やっぱりこのマットはいいね。できれば道路を作ってるときにもほしかったよ」
寝ぐせで髪がさらにワイルドになったスケイラが目じりをこすりながら答える。
「そういうことなら俺たちの分も用意してくれよ、木の床に毛布だけじゃ硬いからよぉ」
小屋の中で話を聞いていたであろうエンが愚痴交じりに会話に入ってきた。
「そっちから何人くるかわからなかったからなぁ。マットはもうないが何か代わりの物をダンジョンから持ってきてもらおう」
「よろしく頼むぜ」
実際白犬族の主要商品の大半はすでに俺のダンジョンにあるから、馬車の容量にはまだまだ余裕がある。
携帯用倉庫もあるし、全員分の寝具やらなんやらがあっても余裕で積み込めるな。
「さて、みんな起きたし朝飯の時間だな」
小屋から飛び降りた後、いつもどおり空間魔法でウチのダンジョンとつなげる。
「主殿、おはようであります。今日もダンジョンは異常なしであります」
人数分の食事を持ったアディーラが馬を引き連れてやってきた。
馬が道草を食っている間に、こちらも朝食をとる。
「同じものを作ってるつもりなのに、この差はなんなんだろうな?」
「見た目は同じなのに、なんかおいしさが違うんだよねぇ」
サンドイッチを食べながらエンが首を傾げ、スケイラが同意する。
コアさんに言わせれば「試行回数と経験の差」との事らしいが、俺にはさっぱりわからん。
でも食べてみると、明らかに違いがわかるくらい味に差がでるから不思議だよなぁ。
「それでは私はこれにてー」
「あ、今日の夜番はアマツだったな。それじゃあ一つお願いがあるんだけど」
朝食を食べ終え、ククノチをダンジョンに転送する際に頼みごとを伝える。
「はーい。それではちゃんと伝えておきますねー」
「よろしくー」
そしてククノチは自分のダンジョンへと戻っていった。
「それでは出発しましょうか」
サエモドさんの掛け声とともに、俺たちは小屋を後にした。
♦
日も昇りきり少しづつ気温が高くなってくるが、森の中ということで特に暑くも寒くもない。
道はところどころ曲がりくねってはいるものの、舗装されてるから実に快適である。
「なるほど、じゃああの縄張りは全部あんたが考えたのか」
「左様、旅の経験をもとにこの賢のデーンが考案したものよ」
今は俺とデーンが先頭にて、話しながら道を進む。
「山城はいかに元の地形を活かした間取りにするかが腕の見せ所よな」
「超わかる。平山城が建築技術の塊だとすれば、山城は効率化の結晶だよな」
「後はこの賢のデーン、残りの生涯で水を利用した城も作り上げてみたいのぉ」
「堅固な水城はロマンだよな!」
いやー。まさかここで城トークができる友にであえるとはな!
「でもやっぱ魔法があると、一人で築城もできていいなぁ」
「何を言う。お主に見せてもらった姫路城なる城も立派なものではないか」
いつもダンジョンにこもってるせいか、ケモミミ娘たちはあまり城に興味ないんよな。
「あの人もすげぇなぁ。ダンナの話にずっとついていってるし」
「完全に二人の世界に入ってるよね」
後ろで呆れられてるような声が聞こえるが、久しぶりの城トークだし大目にみてほしい。
話してるうちにやがて道路の舗装がなくなり、ギリギリ馬車が通れるくらいの幅しかない道とも呼べない雑な地面が見えてきた。
「マナミからは里の位置を隠したいと言われてたからね。もうすぐ森をぬけて街道との合流地点だから、ここから先は道に見えないように偽装してあるんだ」
なるほど、言われて見てみれば道とも呼べないが、地面は馬車が通れる程度に平たい。
おそらくこの辺は木を間引いてデーンがならしただけなんだろう。
やがて徐々に木の密度が薄くなり、草原へと変わる。
と、同時に森を迂回するように作られた街道があった。
まぁ街道って言っても、人や馬車の往来があるうちに草が生えなくなっただけっていうような道だけどね。
「ここは見覚えがあります。森を突っ切ったことでかなりの近道となったようです」
「ふーん。ということはこれで別の種族や商隊に鉢合わせするようになるかもって事か」
「ここは人里からはまだまだ離れてますので、鉢合わせることはめったにありませんがね」
ま、確かに日本と違ってそこかしこに人が住んでるわけじゃなさそうだからな。
「この先に野宿に適した広場があります。今日はそこまで向かいましょう」
「了解」
そして俺たちは再び歩みを進めた。