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7-22 夜の一幕

 拠点へとおぶられて戻り、まずは一休み。

 おぶられてた事をエンに茶化されたりしたが、飯を没収すると言ったら黙った。


 テントに運んでもらい、横になったまま瞑想し魔力の回復に努める。

 一応、魔力回復薬を飲めば即座に回復できるが、今は緊急事態でもないからなぁ。


 多少晩飯が遅くなるが、そこはクマを狩って得たDPやなんやらをおすそ分けすれば納得してくれるだろう。



 とりあえず1回分の魔力がたまったところで目を開けてみれば、あたりはすっかり真っ暗。

 ただ一点、小屋があるほうにだけ明かりが漏れているのがわかるのみ。


 テントを出てとりあえず小屋へと向かう。


「おや、ようやくお出ましかい?」

「ああ、休んで大分すっきりした。待たせたな」


 こちらに気づいたスケイラが出迎えてくれた。

 壁にかけられた松明に照らされて腕時計を見てみれば、ウチのダンジョンでの飯時の時間をすぎているようだ。


「こっちは楽しみにしてたのに、じらしてくれるとはなぁ」

「それは多分向こうも思ってるだろうから、愚痴は後で聞くよ」


 向こうには時計はあるものの、連絡する手段がないからな。

 一応不測の事態が起きたらコアさんに一任することはなっているがはてさて……


「ああ、ようやく開きましたー。待ちくたびれましたよー」

「待たせてすまなかった、ちょっと魔力の回復をしてたもんでな」


 開いた瞬間に愚痴と合わせてやってきたのは、晩御飯が入っているであろう岡持ちを両手とツタにまいたククノチ。

 よかった、しびれをきらして飯抜きにされるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ。


「ご主人様、本日は異常なしですー」

「りょーかい」


 事前に取り決めた定時連絡を受ける。

 何かあればもちろん中断してとんぼ返りする算段だ。


「それからこれが本日の晩御飯ですー」

「サンキューな」


 地面に置かれた岡持ちを開けてみると、中には人数分のどんぶりと氷水がたっぷり入れられたポットがおいてあった。


 どんぶりを手に取りふたを開けてみれば、鼻にツンとくるスパイシーな香り。

 ほほぉ、今日はガパオ丼か。


 そういえばコアさん最近はエスニック料理の研究にはまってたな。

 まさか異世界で地球のあらゆる料理が食べれるとは思いもしなかった。


「ふーん。いつも来てくれる時に作ってた料理とは大分違うねぇ」

「そこだと調理設備がまだ整ってないし人数も多いから、できる料理も限られちまう」


 のぞき込んだスケイラにどんぶりを手渡す。


「なんでもいいからさっさと食おうぜ、こちとら腹が減ってんだ」


 奪い取るようにどんぶりを受け取ると、さっそくスプーンでガパオを口に放り込むエン。

 彼はしばらくモゴモゴと咀嚼すると、


「お、こいつはいけるな。舌に来るピリッとした辛さがたまんねぇ」


 そのままガツガツと掻っ込み始める。


「ふふ、エンがこの領域に達するにはどれくらいかかるんだろうね?」

「さぁな。わかるのは当分先ってことくらいだ。今は具材を切るのにも指導が入るくらいだからな」


 ここでエンは腰に差した剣をちらりと見て、


「おかげで今はもうコイツより、包丁の方が使い慣れちまったかもしれねぇ」

「与えられた基礎練習を毎日しっかりこなしておったあたり、なんだかんだお主はまじめよな」

「そりゃ、剣も包丁も基礎が大事なのは変わりないからな」


 割と言動に軽い部分が見えるエンだが、ちょっと見直したわ。


「基礎練習って何やらされてたの?」

「ああ? フライパンに塩を入れて振ってんだよ」

「それをコイツは剣の素振りの後にやってたんだよ、コアさんに弟子入りした後からね」

「まったく、寝る前の手間が一つ増えちまったぜ」


 そしてエンは空になったどんぶりを床に置くと、


「ごちそうさん、それじゃ寝る前に今日の基礎練習に行ってくるぜ」


 さっさと出て行ってしまった。


「あれはちょっと照れてたね」

「まったく、せっかくの料理をもう少し味わえばよいものをのぉ。コウみたいにな」


 言われて今までまったく会話に入ってこなかった彼の方を見てみれば――


「美味い」


 スプーンに少量のガパオを乗せてゆっくり口に運ぶコウ。

 だが一口ごとに水を飲むからか、なんか全身からじっとり汗をかいてるぞ。


 これは味わってるというよりも……


「辛いの苦手なのか?」

「あまり食べたことがないだけだ」


 なるほど、慣れてないだけか。


「何をごまかしておるのか。ここで強がってもつらくなるだけだぞ」

「そうそう、また辛いのを出されるたびに汗を拭きだしながら食べるきかい?」


 二人にはバレバレのようだな。


「コウはねぇ、スパイスをまぶした干し肉をかじるときも、つらそうにしてたからね」

「ふふ、こっそり捨ててしょうゆ味とやらに変えていたよな。この賢のデーンにはお見通しよ」


 うーむ、硬派そうにみえて意外とポンコツな一面を見てしまった。


「ククノチ、帰ったら辛い物はわけてもらうか控えるようにコアさんに言っといてくれ」

「はいー」

「……すまん」


 いくらコアさんの料理が基本的にうまくても、辛味や酸味はどうしてもダメな人もいるからな。

 

「悪いが今日は我慢して食ってくれ」


 汗をかきながらも素直にうなずくコウがちょっとかわいいと思ってしまった。


「しかし、我々としては旅に出た方がおいしいご飯を頂けるとは思いもしませんでしたな」

「本来なら同じ保存食を数日間ずっと食べながら旅をしないといけませんからねぇ」

「うん、それはきっと俺が耐えられないから」


 いやほんと、このためにってわけじゃないけど覚えててよかったわ空間魔法。

 もしなければ同行したいだなんて口が裂けても言わなかっただろうなぁ。

 そして改めて交通網と流通網が整備されてる日本のありがたみがわかる。


 さて、飯を食ってしまえば後は寝るだけ。まぁダンジョンと違って夜になったら寝るしかないというのもあるけれど……

 夜明けとともに出発する予定だし、見張りはククノチに任せてさっさと寝てしまおう。

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