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7-20 因縁の相手

 迷わないように目印をつけながら、俺たちは道から外れ木々の合間を縫って進む。


「ここからはできるだけ物音をたてないようについてきてください」


 先導するのはレオドン師匠、それに俺とスケイラ、そしてアディーラが続く。

 小屋にいた残りの四人は留守番をしててくれるようだ。


「ここもなかなかにぎやかですねー」


 さらにはダンジョンから呼んだククノチがさらに後ろを歩いている。

 食材を取るならコアさんも適任だが、今は俺たちの晩飯も作っているだろうから呼ぶわけにはいかない。

 なので植物限定で同じことができるククノチを代わりに呼んだわけだが、彼女を呼んだ理由はもう一つある。


「あっ、アディーラさん。この子も連れて帰りたいですー」

「了解でありますよ」

 

 ククノチには、まだウチの森林エリアに生えてない有用そうな植物を見つけて持ち帰ってもらうように頼んでいる。

 コアさんは”その状態での”食用かどうかがわかるが、ククノチならその植物の性質が有用どうかがわかるからな。

 

 そういうのはとりあえず持って帰って育ててみるのだ。


「じゃ、俺たちは先に行くから」

「はいー。いってらっしゃいー」


 ここに全員がいる必要はないし、ククノチは森の中なら木々と会話することで俺たちがどこにいてもわかるからな。

 だから万一俺たちが迷っても、念話でやりとりすればククノチが迎えに来てくれる。


 アディーラとククノチをおいて俺たちは先に行く。

 高い木々が日を遮っているせいか、そこまで植生は濃くはない。


 フィトンチッドが十二分にまざった空気を吸い、ククノチ達から別れて10分ほど経った頃、


「!」


 師匠が俺たちにむかって手を出し、止まれと合図する。

 俺たちを止めた師匠は地に手を付き、地面を舐めるように見て――


「新しい足跡ですね、おそらくまだ近くにいます」

「私にはまったくわからない。君にはどう見える?」

「足跡が付いてることだけはわかった。師匠にはまだかなわないな」


 森の中じゃいろんなもんに引っかかりすぎて索敵障壁(サーチウォール)もあんまり役に立たないからなぁ。

 師匠が足跡を追跡し、さらに森の中へと進む。


 やがて――


「お見事」


 スケイラが賛辞の言葉を師匠に贈る。

 師匠が指をさしたさきには一頭のシカのような動物がいたからだ。

 

 しかも相手はこちらに気が付いていない。

 これなら――


 親指でクイッと自身をさすと、師匠がうなづく。

 どうやら俺に任せてくれるようだな。


 腰の矢筒から一本矢を手に取り、弓につがえる。

 ここから獲物まではそれなりに距離があり、しかも間には木々がある。


 だが、構わず矢を放つ。

 矢は俺の誘導にしたがい、木々の間をぬけて獲物の死角を通り――


「ピギィーー!」


 さも当然と言ったかのように獲物の急所に突き刺さる。


「お見事」


 スケイラの言葉にサムズアップで答える。


「悪くなる前に早速ウチのダンジョンに送ろう。ウチのダンジョンとつなぐから師匠とスケイラは獲物を持ってきてくれ」

「あいわかった」


 いちいちつなぐのは面倒だし魔力も食うが、魔力は休めばタダで回復できるから使わない手はない。

 手早くやってしまえば反動に悩まされることもないしな。

 

 二人がちょうど獲物を持ってきてくれた時に空間をつなぎ、ダンジョンへと放り込む。


「獲物を狩ってきたから胃袋に保存しておいてくれ。コアさんは後で解体を頼む」


 つないだ時に念話を入れておく。

 コアさんは晩飯作りで忙しいし、一言言っておけば誰かがやっといてくれるだろ。


「君は今日空間魔法を何回も使っているようだけど大丈夫かい?」

「最初に使ったころに比べれば、魔力も強くなったし大分慣れてきたみたいでな。まだ余力は十分ある」


 それに使っているうちに空間というものの概念がわかってきて、いろいろ応用もできるようになってきたしね。


「それでは続きを……」


 そう言いかけた師匠の言葉が止まる。

 何かを察したのかレオドン師匠はある方角を向いたまま動かない。


「すぐにここから離れましょう。あちらから危険な動物がくるようです」


 俺とスケイラはうなづくとレオドン師匠に誘導されてその後を続く。

 レオドン師匠のいう動物の危険度がどんなもんかはわからないが、接敵しないに越したことはないしな。


 とはいえ、何かがいて来る方角がわかっているなら索敵障壁で距離くらいはわかる。

 歩きながらもその方角に索敵障壁を広げてみる。


 縦長の物は木として後は草くらいか、特に動物っぽいものはないな。

 どんどん範囲を拡大していって――


 いた。

 あきらかに俺より大きな物体がこちらの方面に向かってくる。


「まだそれなりに遠いが、俺たちより向こうの方が速い」


 ちらりと後ろを振り返ってみるも、木々に遮られ相手の姿はまだ見えない。

 距離が縮まるにつれて、相手の姿もだんだん鮮明にわかってくる。


 人型だが今は地に手をついて四足歩行をしているようだ。それに全身毛むくじゃらなようで、もっさもさな印象を受ける。


 さらに特徴的な点をあげるなら――


「んん?」


 特徴的なのは右手に大きく偏ったアシンメトリーな肉体?

 こいつはまさか……


「体が震えてるよ? そんなに恐ろしい相手なのかい?」


 否! こいつは恐怖なんかじゃねぇ! 武者ぶるいだ!

 俺はてめぇに会いたくて会いたくてたまらなかったんだよ!


「ねぇ君、こんな時にそんな不謹慎な顔をしてどうしたんだい?」

   

 おっとっと、表情に出ていたか、それは失敬。


「二人はここで待っててくれ、向かってくる奴は俺が殺す」

「えっ!?」


 二人の返答をまたずして踵を返し、駆けだす。

 木々をすり抜け来た道を引き返し、少々開けた場所でヤツを待つ。


「よう、久しぶりだな。といってもアンタは俺とは初対面だろうがね」


 木々の間から姿を見せたのは、俺がこの世界に来て最初に戦った相手。

 右手が異様に発達したあの熊だった。


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