7-18 旅はじめ まずは雑談から
白犬族の拠点を離れて俺たちは森の中を行く。
先頭には俺を含めた乗馬5人組。
その後ろにサエモドさんが操る馬車が続き、後ろの馬車には残りのレオドン師匠・オルフェ・アディーラの3人が乗っている。
ここからは3人の声はかすかにしか聞こえないが、雰囲気はよさそうである。
狩人のレオドン師匠にコミュ強アウトドア派のオルフェとアディーラなら共通の話題も多そうだ。
と、こんな感じでよそ見してウマを操っていてもまったく問題はない。
なぜなら道は突貫だと聞いていたはずなんだが
「凹凸もない綺麗な道だ。こんな短期間で作り上げるとは流石ですねスケイラ様」
そう、道は舗装までされていて、アスファルトの道路と比べてもほとんど遜色がない。
「その賞賛はエンとデーンに向けてあげるといい」
「いや、それはデーンの旦那だけでいい。俺は旦那に言われた通りやっただけだ」
スケイラが謙遜し、さらにエンが謙遜する。
すると自然に視線は最後の一人に集中するわけで
「ふふ、この賢のデーンの知識が役に立ったようで何より」
ひげをいじりながら上機嫌に答えるデーン。
「これ、どうやって作ったのか教えてもらってもいいか?」
「お安い御用」
少し得意げにデーンが語り出す。
ふーむ。素材と作り方を聞いた限りじゃ漆喰に近いな。
「後はこの賢のデーンが魔法でならし、エンに焼いてもらえば完成よ」
「なるほどなー。これもダンジョンに教えてもらったのか?」
「否。これは賢のデーンが若かりし頃、旅先で知ったことよ」
うーん。漆喰自体は地球でも古代からあったし、ギフトなしでも発明された可能性は高いか。
「旅先? 旦那若いころそんなことしてたんか?」
「左様」
デーンの言葉に目ざとく突っ込むエン。
「こうして歩いてるだけじゃ暇だし、よければ武勇伝の一つや二つ話してくれよ」
「お待ちください、お三方はスケイラ様の使徒ではないのですか?」
「ああそっか、そういえばそういうことになってたね」
サエモドさんの待ったに対し、スケイラが頭をかきながら答える。
誘導尋問みたいになってしまったな。
「俺としちゃあ無駄に敬われるのもむず痒いし、全部話してもいいと思うけどよぉ」
「いずれ知られる事だと思うし、私としてもかまわないけど君はどう思う?」
スケイラから話を振られたから考える。
元々白犬族からはダンジョンのことを聖域と呼んでるからついた嘘なんだよな。
白犬族もダンジョンと一緒に生活している以上、隠していてもどこかで無理が生じるのは目に見えている。
いずれマナミさんが真実を話すとしても、この二人なら先に話しても特に問題はないな。
俺がスケイラに向かってうなづくと、スケイラは今までの事をサエモドさんに向けて語り出す。
「……」
スケイラの話を聞いて、サエモドさんは驚いた顔を浮かべつつも黙って何かを考え込む。
「いえ、むしろ腑に落ちました。これなら会合の度に不可解だと思っていたことも説明がつきます」
そういえばサエモドさんは部族連合の官吏をやってたんだっけか。
他の種族の人たちとそのへんの情報をやりとりすることってなかったの?
「まったくといっていいほど出ませんでしたな。連合とは言ってもしょせん烏合の衆。我々も含めて秘匿したくなるのも当然でしょう」
確かに自分だけのアドバンテージを取りたくなるもんな。
それが神器やら強化やら、自分らには理解できないものならなおさらだ。
「今聞いて思い返してみれば、筋狼族は会うたびに成長という範囲を超えてたくましくなっていた気がします」
なるほどな、俺でも今ならわかる。
連中は一族全員を均等に強化していたって事か。
そうすると確かに全員が等しく強くはなれる。
だがそれだと割り振るDPの量にもよるが、全員がそこそこ強い止まりになってしまったということか。
あの時数匹が特化して強化されていたら……
例えば族長だけが崖を一瞬で飛んで超えられるくらい強くなってたら、こっちは一瞬で崩壊してたな。
「そもそも聖域の宝玉と会話できるなどとは思いもしませんでしたな」
言われてみれば確かに!
俺もコアさんから最初に話しかけられてなきゃ絶対気が付かなかったわ。
「ふーん。そういう話ならウチの元ボスはえらくいろいろ知ってたみたいだけど、その辺はどうなんだ?」
エンの疑問も当然だな。
確かにあの容量が不釣り合いな箱をあいつが出したとすれば、それに加えてダンジョン拡張に強化進化と一通りのことはやっている。
「私のところはめったに人種族がこないからねぇ、定住してもらうためにいろいろ教えたのさ」
なるほど、召還されたという違いはあれどほとんど俺と同じか。
ダンジョンコア側が生存の危機に立たされない限り、必要以上の情報を教えないということも含めてな。
「確かにあんたのとこも森の中の山の上だしな。あいつはなんできたんだろうな?」
「そんな事は知らないし、別に知りたくもない。それより私は元マスターの事よりデーンの武勇伝の方を早く聞きたいけどね」
「話を振っちまったのは俺だけど、俺もデーンの旦那の方を聞きてえや」
嫌われてんなぁ元マスター。
心なしかコウも雰囲気が悪いし。
「ふふ、この賢のデーン。忘れられたのかと少々不安になっておりましたぞ」
「んなわけねぇだろ、時間はたっぷりあるしこれから語りまくればいいだろ」
その通り、旅はまだ始まったばかり。
俺たちは今まで接点がなかった分話題には事欠かない。
しばらくはデーンの武勇伝をBGM代わりに旅路を楽しむとしよう。