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7-12 またかよコアさん

「ねぇ~、ご主人。ちょっといいかなぁ?」

「んー。どした?」


 飯も食って風呂も入り、今は至福のブラッシングタイム。

 何人かが座敷でくつろいでいるのを尻目に今はオルフェの尻尾を丁寧に梳く。


 俺が尻尾を梳いているときが一番機嫌がいいのがわかっているらしく、最近何かしらのおねだりをしてくるときはみんなこの時間を狙ってくる。

 さてさて、オルフェは一体何をねだってくるんだろなぁ?


「これ! やってみたいんだよぉ!」


 そういってオルフェは胸に抱えていた雑誌のとあるページを開いて俺に見せる。


 そのページあったのはビーチバレー特集のページ。

 よく鍛えられた女性選手の迫力あるスパイク写真が中央に添えられている。


「ビーチバレーやりたいの?」

「そう! おもしろそうでしょ?」


 ふーむ。ビーチバレーなら必要なものはポールとネットとボール、後は場所くらいか。

 場所は熱帯か温帯の海エリアがすでにあるから必要なDPはそこまで多くない。


 とはいえ……


「うーん、作るのは別にいいんだけど……」

「え~。なんかダメな理由があるのぉ? ほら、もっとしっぽ触ってもいいからさぁ」


 それはありがたいけど、そういう問題じゃないんだよね。


「いや、ビーチバレーに使うボールなんだけど、俺たちの力に耐えられるのかなって思って。ほら、このボールってあくまで地球人の力がベースだからさ」


 俺たちはもう地球人に比べると、文字通り桁違いの力があるからな。オルフェじゃなくても誰かが全力でボールを叩いたら簡単に破裂してしまうだろう。 


「そっかぁー、言われてみればそうだよねぇ」

「壊れないように力を調整しながら遊ぶのはつらいだろ。すまんな」

「ううん、わかったよぉ」


 一応納得して言葉ではそう言っているが、耳もしっぽもたれまくっている。

 なんとかしてやりたいが、こればっかりは――


「いや、いけると思うよ~」

「本当か?」


 ケモミミ娘をダメにするソファにうつ伏せでどっぷり身を沈め、しっぽを振りながら横で話を聞いていたコアさんが頭だけ上げて間延びした声で指摘する。

 普段の様子からはとても想像できないくらいダラケているが、誰もあのソファの魔力に逆らえないのだ。


「ボールを誰かの装備扱いにして、DPで強化すればいいんだよ~」


 なるほど、DPで俺たちの力に耐えられるくらい強化すれば――


「なぁ、コアさんや」

「なんだい?」

「装備ってことは武器や衣装もDPで強化できるって認識でOK?」


 俺が聞いていた話は、ダンジョンモンスターとマスターが知識や能力の強化ができるという話だったはずだが?


「別に生き物に限った話じゃないよ。あの時はマスターのやる気を出すためにはそこまでの情報で十分だと思っただけさ」


 言われてキャラクターウィンドウを開いてみてみれば――

 

 ある。確かにある。

 コアさんの刀やアディーラのジャマダハル、そして全員の衣装に強化の項目がある。

 つーことは……


「あの時コアさんの刀を強化しておけば、あの進化したゴブリンの首を抜くこともできたんじゃねぇか?」

「んー?」


 コアさんは頭をソファにうずめ、しばらく何か考えるようにぐりぐりとソファに顔を刷りつけて


「ああ! それもそうだね!」


 うわ! さわやかな笑顔が憎たらしい。

 またしても聞かなかったから言わなかったがきたか、もう慣れたけどほんと事後報告だけは勘弁してほしいわ。


 一通り全員の装備を確認してから最後に俺の項目を見てみたが……

 よく見てみりゃ俺の項目だけ武器が何もない。


「なぁ、コアさん。俺のとこだけ武器が何もないんだけど」


 質問はしているがこの理由にはなんとなく心当たりはある。

 俺以外のケモミミ娘は召還と一緒に武器も用意したが、俺だけ最初はゴブリンからもらった弓を使い、後で弓を新調している。


 そして、こういう時は大抵……


「そりゃマスターが武器を登録してないからだよー」


 そらきた、新しい情報だ。

 

「ほほぉ。で、登録するとどうなるのかな?」

「このダンジョン内限定で、私達がやってるように何もないところから武器を出し入れできたり、衣服を変えたりできるよ」

「そんな便利な機能をなんで今まで教えてくれなかったのかな?」

「そりゃまぁ、うらやましいとは言われたけど自分もやりたいとは言われなかったから」


 ははは、この女狐め。

 まぁ今まで言わなかったことをコアさんを問い詰めても、のらりくらりかわされるだけなので時間の無駄。


 それよりも考えなきゃいけないのは”登録”の範囲だ。

 相変わらずコアさんは最低限の事しか言わないが、思いあたる事がある。


「この登録は物を人に結び付けるだけじゃなくて、人をダンジョンに登録することもできる。だろ?」


 そう、この機能を拡大解釈すれば三面堅がスケイラのダンジョンモンスターになったという説明がつく。

 今更だがこの世界のダンジョンは、俺が勝手に決めつけた限界よりはるかにできることが多い。


「正解」 

「ということは、私をこのダンジョンに登録していただければ、私も皆様と一緒に戦うこともできますね?」


 座椅子に身を預け行儀よく本を読んでいたアイリが本気に満ちた目線をこちらに向けて聞いてきた。

 たしかに登録して強化すれば俺たちと肩を並べて戦うことはできるだろう。


「うーん。できなくはないけど、君は性格的にも戦闘には向いてないよね」


 コアさんの指摘通り、アイリは優しすぎる。

 例えば彼女は命乞いをする相手にトドメをさすことは恐らくできない。


 殺し合いの時、それは致命的な欠点となりえる。

 

「いえ、そんなことは……」


 戦闘でも俺たちの役に立つためになんとか否定しようとするが、自身でもわかっているのか徐々に声が小さくなっていく。


「まぁ、ドンパチやるだけが戦闘じゃない。裏方に特化すればいいと思うぞ」


 実際アイリは族長の娘として裏方作業をやっていたようで、このダンジョンに来てもらってから今まで俺がやっていた収穫高の記録とかを肩代わりしてもらった。

 

 マナミさんはアイリは政務はからっきしとか言っていたが、アイリに言わせればマナミさんは人を纏める能力はあるけど、マナミさんが書いた帳簿は大雑把すぎてあまり役に立たないらしい。


 アイリの書いた帳簿を見せてもらったが、めちゃめちゃわかりやすかった。

 几帳面な性格に加えて論理能力が優れてないとここまでできない。


「戦闘が大規模になるほど情報処理に強い人材が必要になる。それに自衛用に非致死系の能力があればできなくはない」

「でしたら!」

 

 やる気を見せるアイリを手で制し、コアさんの方に目を向ける。

 この話をする前に聞かないといけないことがあるからだ。

 

「コアさん。登録することについて何かしらのデメリットはあるのか?」

「しいていうなら、私達と一蓮托生になるって事かな? 仮にダンジョンが消滅したら登録したものすべてが消えるからね」

「でしたら、それは私にとっては何の不都合もありません」


 コアさんのデメリットを聞いてアイリはこちらを見据えて諭すように語る。


「一緒に消えるなら本望です」


 これは硬いな。ならもう何も言うまい。

 答える代わりに登録ウィンドウを操作し、項目にあった「獣人型:女性」をダンジョンに登録してみる。


「きゃっ!?」


 反射的に悲鳴が上がった方向に視線を向けてみれば、白い粒子に包まれつつあるアイリの姿。

 

 こいつには覚えがある。

 確か、俺が進化したときにも同じような現象が起きていたな。


「それは登録に必要な工程だから落ち着きたまえ。すぐに終わるよ」

「そいつは俺も経験してるから大丈夫。痛みもない」

「はい」


 俺とコアさんの励ましに納得したのか、アイリは目を閉じると粒子に身をゆだねた。

 そして粒子がアイリの全身を包み込み 1分もしないうちに粒子は虚空へと消え、さっきまでと変わらないアイリの姿が見えた。


 かなり早いが、これで登録は終わってるようだな。

 

「終わったぞ、気分はどうだ?」

「え!? 早いですね?」


 証拠と言ってはなんだが、強化リストにアイリの項目が追加されている。

 ただまぁちょっと、身長体重やスリーサイズ等々もろもろの個人情報もあわせて乗ってるけどね……


「ふふっ。これで皆様と同じです。改めてよろしくお願いしますね!」

「よろしくねぇ」 


 うれしさを隠し切れない声でアイリがこちらに頭を下げると、横になってたオルフェが間延びした声で答えた。

 なんというか、一生を左右する重要なことをやったはずなのに軽い。


 まぁいいや。登録というものがある事がわかったし、これでようやく本題に入れる。


「それじゃ、ビーチバレーもボールを強化すればできるって事ならやってみるか」

「あっ!? そうだった! 忘れてたぁ!」


 いや、お前は忘れるなよいいだしっぺだろ?

 

新機能「登録」を解禁


結局アイリもダンジョンモンスターになりました


前々から考えてたように見えて定義化は直近

でもちゃんと整合性は取れてるハズ


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