7-11 ククノチ親衛隊との模擬戦
「そ、それは!?」
懐から取り出したソレに四人組の目が釘付けになる。
「こいつはククノチのブロマイドだっ! これが欲しかったら全身全霊を出してかかってこいや!」
アディーラが撮影し、俺が現像したククノチのブロマイドを奴らの目の前に叩きつける!
ブロマイドに写るククノチの笑顔がまぶしい。
「うぉぉぉっ! やってやる! やってやるっすよぉ!」
いきり立つククノチ親衛隊の面々。
こうかはばつぐんだ!
「やる気が出たのはいいことだけどね、あくまで模擬戦だからルールを設けさせてもらうよ?」
「それもそうだ。俺は弓なし魔法あり。お前らは武器ありで4人まとめてこい」
「了解っす!」
「よろしい。危険だと判断したら私が止めるから存分にやりたまえ」
ルールを確認したスケイラは俺と4人組の間に立つ。
今の俺の耐久力なら、連中の本気の剣を生身で受けてもケガはしても致命傷にはならない。
これくらいの緊張感があるほうが俺にとってもいい訓練になる。
「始め」
静かに宣言するスケイラ。
「ブロマイドォォォー! オォォーー!!」
なんだその掛け声は!?
スケイラの合図とともに腰のシミターを抜き、こちらに向かって突進する四人!
一見すると無謀な突撃にも見えるが、彼らは一網打尽にされず、かといって各個撃破もしにくい絶妙な距離を保って向かってきた!
ほほう、前回ククノチにまとめて吹っ飛ばされた反省点を活かしてるな。
まぁあれは狭い通路ということもあったけど
俺からみて右から攻撃をしかけるゲンの剣を右手に障壁をまとわせて裁き、時間差で左から攻めてきたビャクの剣を左腕で受け止める!
「なんで剣で切れないんすかねぇ? 仙人様の腕は!?」
「ちゃんとよくみろ、障壁で受け止めたんだ」
しっかり見れば、俺の腕と剣の間に薄い膜のような障壁が見えるはずだ。
まぁ、仮に生身で受けても切断には至らず、力を込めれば筋肉で止めれるだろうがね。
痛いからやらんけど。
二人の相手をしている間にザックとリュウがさらに大外を回り、俺の後ろよりの横側に回り込み剣を横に構える。
ならばっ!
両手の障壁を柳風障壁に切り替え、ゲンとビャクの攻撃を外側に受け流がし、流された二人が外側に踏み込みんでできたすき間をダッシュで潜り抜ける!
遅れて、さっきまで俺がいたところをザックとリュウの剣が通りすぎた。
「仙人様は後ろに目がついてるんですかねぇ!?」
「目はないけど感知はしてるぞ」
「ずるくないっすかソレ!?」
4人の動きは索敵障壁で手に取るようにわかる。
慣れるまでは時間がかかったが、上達した今は目で見えない動作や兆候まで察知できるようになった。
「まぁ、そのなんだ。修練をつめばできるようになるんじゃないかな? 多分、きっと、そのうち」
「なんでそこでしりすぼみになるっすかぁ!?」
いやまぁ俺自身も習得してから相当量の修練をつんだのは間違いないが、きっかけはDPで障壁魔法を習得したことだしなぁ。
三面堅が普通のゴブリンからダンジョンモンスターになったことといい、多分ダンジョン関係者以外にもDPで能力を与えることもできそうではある。
ただ人数が増えるほど、誰にどれくらい能力を割り振るかで絶対もめる。
そういう意味ではマスターに絶対的な強権を持たせることも間違ってはいないのだが……
まぁ、それよりも今は模擬戦に集中しよう。
「うぉりゃぁぁ!」
下手な小手先は通用しないとわかったのか、今度はひたすらにラッシュをかけていく4人。
二人が正面から攻撃し、残りの二人が左右から攻撃できる位置まで走り、間を置かずに攻撃する。
「ぬぅっ」
先ほどと違い、微妙にタイミングがずれているせいで同時にさばけず、そのせいで一歩、また一歩と下がりながら対応するしかない。
とはいえここは有限の修練場、いつまでも下がって対応なんかしていたら……
「よしっ! 追い詰めったすよ! あと一息っす!」
背中に硬く平たい感触。
壁の端まで追い詰められたか。
「ブロマイドォォー!!」
一気に決めるべく一斉に襲い掛かる四人。
これ以上は逃げられないし、奴らのブロマイドに対する執念をのせたこの気迫、生半可な技では受けきれんな!
だからこそ、この技の出番だっ!
足は肩幅に開き、右手は天へ、左手を前方やや下に出した構えを取る。
これは空手で言う「天地上下の構え」に近いが、繰り出す技は普通の拳ではない。
4人が攻撃してくる前に、一呼吸息をすって
――天――
右側から襲ってきたビャクの剣を分断障壁で叩き切る!
剣を切られた衝撃で前のめりにひっくり返るビャク。
――下――
左手で放った衝撃障壁で左側から向かってきたリュウとゲンをまとめて吹っ飛ばす!
――無双――
正面から切りかかってきたザックを反射障壁で迎撃する。
ザックの剣が障壁に触れた瞬間。物理法則なぞクソくらえとばかりにザックの身体は弾き飛ばされた!
四人が地面に叩きつけれた音が修練場に轟く。
俺はゆっくり息を吐いて――
「ふむ、勝負アリ。だね」
状況を見たスケイラが静かに宣言する。
「いてててて……」
「うう……やられたっす~」
倒れた四人組がのろのろと起き上がるのを見守る。
まぁ、正確に言うと見守る事しかできないともいう。
さすがに三つの、正確に言うと索敵障壁も含めて四つの特殊障壁を並列思考で同時に使ったせいか脳からの信号に体がまともに動かない。
ただ単純に特殊障壁を複数展開するだけならなんともないが、今回みたいに攻撃を迎撃できるレベルまでとなると反動もこのありさまか。
これじゃあ、ここで決めるっていう場面じゃないと本番じゃ出せないなぁ。
「仙人様? なんでまだ構えてるっすか?」
「いや、ちょっと体が動かなくて……」
ようやく脳に近い部分から動かせるようになってきたのでまずはなんとか口の筋肉を動かす。
徐々にこわばっていた筋肉もほぐれていき、ようやく体が言うことを聞いてくれた。
「いやぁ、遠目で見てたけどすごいね。一瞬で四人が叩き伏せられてたよ」
「だろう。かっこいいからこっそり練習してたけど、実戦で使うにゃ改良が必要だわ」
まぁ、やったらこうなるってことがわかっただけでも収穫ではあるが。
「君たちもなかなか健闘はしてたみたいだけど残念だったね」
「うう、4人がかりでもダメとか俺たち弱いっすね」
4人とも地球人に比べりゃはるかに強いが、進化した上にDPで強化されてる俺と比べれば見劣りするのはしょうがない。
「そうだなぁ、お前ら武器も戦いの型も同じだから対処も同じだった。まずはそこが改善点だと思うぞ」
「みんな同じ武器で同じ訓練してたからっすねぇ」
「多分武器を変えて間合いを変えるだけでも大分変ると思うぞ」
「うーん、俺たちにできるっすかねぇ?」
今から別の武器を使いこなすには相当な鍛錬がいると思うが、君たちならできるできる。
そのための燃料も投下してやろう。
「ま、今回のところは俺にあの技を使わせるところまで追い詰めただけでも大したもんだと思う。というわけでこいつはくれてやろう」
「一枚だけじゃないんすか!? 仙人様太っ腹!」
そりゃもちろん焼き増ししてあるもの。
懐から取り出したブロマイドを一枚一枚四人に手渡してく。
受け取った四人の反応は様々ではあるが……
一様にして言えるのは、お前ら絶対にそのリアクションをククノチの前でするなよ?
絶対にドン引きされるからな!?
「ところで今うちはちょっとした写真ブームでな、他にもアディーラがいろんな写真を撮ってるんだよなぁ。例えば――」
そういって手のひらの上に障壁を出し、記憶にあるククノチの写真の一部を映し出してみる。
障壁にディアンドル姿のククノチのバストアップ写真が頭からゆっくり映し出されて――
「おおおお!?」
四人組が身を乗り出し、まじまじと目に焼き付けようとした瞬間に障壁をパッと消す。
「ああああ……」
口から魂が出るんじゃないかと思うような落胆のため息をつく四人。
「さっき見せたブロマイドがもらえるかは君たちの頑張り次第だ。とだけ言っておこう」
「わかったっすよ!」
さてさて、これで次回までにどこまで強くなってるか見ものだな。
今なら三面堅にスケイラという手本もいるし、伸びしろは期待できる。
「さて、適度に運動もしたし、そろそろ飯もできたころだろ」
「そうだったっす! 今日はコアさんの飯だったっすね!」
「私も彼女の出来立ての料理を食べるのは初めてだから楽しみだよ」
その後、修練を終えた俺たちが食堂へと向こうと大量の焼きたてピザが出迎えてくれた。
むさぼるようにピザを食いつくす面々を尻目に、俺たちもご同伴に預かり腹を満たす。
食事の後始末を終えたら、白犬族の人たちに別れを告げてマイダンジョンへと帰還。
そしたら後は風呂に入って寝るだけだ。
布団に入って考えるのは、白犬族と一緒に都市に行くときの事。
俺たちは外貨を持ってないから、何か売るものを用意しないとなー。
とはいえ、今日はいろいろ動いて疲れたわ。その辺のことは明日の俺に任せて今日は睡魔に身を任せることにしよう。
おやすみなさい。
あー、動くあの構えが早う見たい!
大魔導士の戦いも楽しみ!