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7-9 ククノチ親衛隊

 さっきまで紙芝居を見ていたチビッコたちが今は安らかな寝息を立てている。

 お昼寝の時間ということで案内されたのは白犬族ダンジョンの一室に設けられた寝室だった。


 ウチのダンジョンでつくられたふわふわのワタに体を沈めて実に気持ちよさそうである。

 

 ――んじゃ、俺はちょっとよそに行ってくるから。


 見守り役のアイリにそうジェスチャーで伝えると、子供たちを起こさないように静かに立つ。

 答えて手を振るアイリを視界の片隅にとらえつつ、ポータルをくぐって廊下に出る。


 さて、どこに行くか?


 狩りに行くには遅い時間だが選択肢はいろいろある。

 ぼんやりそんなことを考えて歩いていたら、横道の先にポータルが見えた。


 このポータルは確か……いやちょうどいいな。

 ポータルをくぐってみれば、その先に広がっていたのは青空と農地。


 ともすればマイダンジョンに帰ってきたのかと錯覚してしまうほどウチの農地と同じだがそれは当然。


「あっご主人様ー」


 ここはククノチプロデュースの農場だからなっ。

 手がけた人物が同じなら、農地も似るってもんだ。


「仙人様! お疲れ様です!」

「お疲れ様っす!」

「ういーっす」


 そして普段ここを耕しているのは、ある意味ククノチに命を助けられた例の4人組。

 元々体格はよかったが農作業でさらに鍛えられた体躯に、そろってククノチのイメージカラーを模した緑色のバンダナを頭につけたその姿は、戦士くずれを卒業して立派な農夫である。

 

 すっかり真人間になっちゃって……更生したなぁ。

 

「ククノチ、ここの農地はどうだ?」

「いい感じですよー。しっかり手入れされているのがわかりますー」

「ありがとうございますククノチ様!」

「っすが筆頭!」


 ククノチの寸評を聞いて4人組の一人がガッツポーズを取り、残りの3人がはやし立てる。


「筆頭ってなんだ? 元リーダーが死んで代替わりでもしたんか?」

「ああ、そういえば仙人様にはまだやってなかったっすね」


 そういうと4人は若干隙間を開けて並び始める。


 そして――


「我ら農業とククノチ様に命を捧げし親衛隊!」


 ……うわ、なんか始まった

 4人は前口上を述べると思い思いのポーズを取り、


「ククノチ親衛隊筆頭! ハーブのザック!」

葉菜類(ようさいるい)のゲン!」

果菜類(かさいるい)のリュウ!」

根菜類(こんさいるい)のビャク!」

「俺たちの前に育てられぬ野菜なし! 開墾したいときは、いつでも言ってくれ!」

 

 ……お、おう。

 なんつーか間違ってる気もするけど、プロ意識をもっているようで何よりだよ。


「恥ずかしいからやめてほしいって言ったんですけどねー」

「はは、本人たちはやる気に満ちてるし、実害がでないかぎりは受け入れてやりなよ」


 ククノチが照れながら頬をかいて弁明するのがかわいらしい。


「ちなみに名誉隊員として肥料のデーン様がおられます」

「デーン様の配合肥料マジパネェっすよ! デーン様が作った肥料を撒くとみるみる元気になるっすよ!」


 あーうん。もうすっかりなじんでるようでヨカッタヨ。


「私も見せてもらいましたけどー。ウチの畑に持って帰りたいくらいの出来でしたよー」


 へぇ、さすが賢のデーンという二つ名の面目躍如ってところだな。

 ククノチが欲しいっていうなら、ぜひわけてもらおう。

 

「ところで仙人様。一つお願いがあるっすけど、いいっすか?」

「聞いてやるからとりあえずポーズは解け。で、なんだ?」


 あきれながらも先を促してみれば、


「俺たちと手合わせしてほしいっす!」

「ほほぉ」

 

 一度トラウマになるレベル位に心を折られた上で再び挑むとは……


「理由を聞いてもいいか?」

「ここに定住した今、俺たちはこの畑と仲間を守る義務があるっす」

「戦士たちもいないし、万一の戦いをスケイラ様と三面堅様方だけに頼るわけにはいかないっす」

「あの人たちもものすごく強いっすから、せめて足手まといにならない程度には強くなりたいっす」


 まさかこいつらの口からこんなセリフが出てくるとはな。

 環境が変わると本当に人って変われるもんなんだなー。


「よしわかった。相手になってやるよ」

「ありがとうございます!」


 実をいうと俺の方も接近戦だけに絞ってみれば、ウチの前衛三人組にはまだまだ及ばないので、もう少し実力が近しい相手と戦ってみたいとは思っていたのよね。

 

 その点こいつらなら、一人ひとりなら実力は俺より下。

 だが数人そろってなら、俺にとってもちょうどいい感じのトレーニングになると見た。

 

「よし! どっからでもかかってきな!」

「押忍!」


 多少の殺気をまぜて格闘用の構えを取る。

 連中は気圧されることもなく俺をにらみ返し、同じく構えを取った。


 ――ほぉ、以前に比べりゃ大分威圧感があるな。

 ぶっちゃけて言って、今の4人組の方がウチのダンジョンで戦った一山いくらの連中よりよほど脅威に感じる。


 スケイラや三面堅に稽古でもつけてもらったか?

 いいね、これは楽しみだ。


 緊張感が増してくると、ここの畑に適した温暖な気候も徐々に冷え、肌寒さすら感じてくるな。


 ……。


 ――ん? 畑?


「ご主人様? あなた達?」

「!?」


 唐突に悪寒を感じ、全身が底冷えするような感覚にとらわれた。

 肌寒いを通り越して極寒のブリザードのような冷気が全身を襲う!


 止められない冷や汗を流しつつ、そのブリザードの発生源に視線を向けてみれば――


「あなた達はどこで何をしようとしてるんですか?」


 普段はかわいらしい猫耳が、今はどす黒いオーラに包まれ鬼の角にしか見えない!


「ククノチ様! 申し訳ありませんでしたぁ!」

「せせせ仙人様! あああああっちに修練場があるっす! そそ、そこでお願いするっす!」

「おおう、わかったから落ち着けおまえら! まま、まだ慌てる時間じゃない」

「仙人様もろれつが回ってないじゃないっすか!」


 あの状態のククノチはおっかないので、反省と謝罪を入れてなんとか許してもらうしかない!


「はぁ、今回は未遂ですからいいですけど、気を付けてくださいね」

「ありがとうございます! ククノチ様!」


 許された!


「私はここでもう少し手を入れますので、あなたたちはご主人様に性根ごと鍛えなおしてもらいなさい」

「押忍!」


 なんとかなった!

 しかし修練場ねー。ということはオルフェたちはそこにいるのかな?

 

「では仙人様。案内するのでついてきてくださいっす」

「おうよ」


 そして俺は4人組に後を追って、ククノチを残し白犬族の畑を後にした。

おめでとう

君たちは名無しから名前付きモブに昇進だ!

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