7-7 昨日の敵は今日の友
「これはこれは、懐かしい顔がいるね」
「おいおい、まだ懐かしいっていえるほど経ってはいないだろ? だよな?」
「おー! コウが本当にいる!」
ウチのダンジョンでとれた食材を持ってケモミミ娘たちがやってきた。
最初に敵ではないと言っておいたことで、穏やかな接触ができたようだ。
一気に執務室がにぎやかになったな。
「コアさん、こいつらもコアさんのメシを楽しみにしてるようだから、ぜひ腕を振るってやってくれ」
「はいはいまかされたよ、それじゃあいつも通り調理場を借りるね」
コアさんは大量の食材を持ったオルフェを引き連れて部屋を出て――
「オルフェ殿、後ほど俺ともう一度戦ってくれないか?」
「うん?」
行こうとしたところに後ろからコウが呼びかける。
お? なんだなんだ? リベンジマッチか?
「そういやあんたは休憩の合間にも練習を繰り返してたね。負けたのがそんなにくやしかったのかい?」
「ふふ、コウがこんなにギラつくところなど、この賢のデーン初めて見ましたぞ」
いや、こいつの場合ただの格闘バカだろ。
バカっていうより求道者っていう方が正確か。
「うん、いいよぉ!」
「いや、ちょっと待った!」
満面の笑みで答えてもらったころにすまんねオルフェ。
「え~! なんでぇ~!?」
「おまえは一回コウと戦ったからな、コウにはぜひアディーラとやってもらいたい」
アディーラは俺たちを除くと雑魚のゴブリンか、格上すぎるボスとしか戦ってないからな。
経験を積ませる意味でもいずれ三面堅全員と模擬戦させたいところだ。
「それじゃオルフェさんとやらには、私の相手をしてもらおうかな」
むくれるオルフェに声をかけたのはスケイラだった。
「おいおい、今日は休憩するんじゃなかったのか?」
「気分転換も休憩のうちさ、というわけでいいよねマナミ?」
「勝手にしな、でもやりすぎて死ぬんじゃないよ? あんたらをもう一回復活させるエネルギーなんてないんだからねぇ」
「ははは、そこには十分気を付けさせてもらうよ」
カラカラと軽快に笑うスケイラ。
マナミさんのお墨付きが出たならちょうどいい、模擬戦を頼みたい人物はもう一人いるからな。
「ふむ、どうやらこの賢のデーンも参加せねばならないようですな」
「実に話が早い、あんたにゃぜひアマツの相手になってもらいたいんだ」
「えっ、うち!?」
目線だけで察したのかデーンが笑みを浮かべてひげをいじり、逆に指名されると思ってなかったのかアマツはビックリした様子でこちらを見てきた。
うん、先日のゴブリン戦でアマツは杖を棒術のごとく振り回して戦ってたけど、本来君は魔法使いというポジションだからね?
だから魔法対魔法という経験を積ませたかったんだけど、殺し合いだと万一の場合もある。
だが練習試合となった今なら、デーンはアマツにとってこれ以上ないほどの打ってつけの相手だ。
「この賢のデーンも戦いのカンを取り戻したいと思っていたところでしてな、願ってもないことですぞ」
話が決まったところで、三面堅最後の一人に目を向けてみれば。
「俺はいいや、どっちかってーとそこの嬢ちゃんが飯を作るところを見てたい」
「嬢ちゃんじゃないよ、私の事はコアさんと呼びたまえ」
「こだわるねぇ、コアさん。これでいいか?」
「よろしい」
コアさんはニコッと笑うと、エンの手を取る。
そしてエンの手のひらや指を触診すると、
「ふむ、見てるだけでいいのかな? なんなら包丁の握り方くらいは教えてあげよう。君ならいい板前になれるよ」
「そりゃいいねぇ! エン! このさい弟子入りしちゃいなよ」
「カカカ。お主が料理に目覚めるとは、この賢のデーンの目をもってしても見抜けませんでしたぞ」
エンをちゃかすスケイラとデーン。
コウの方もいつも以上に口元が緩んでるあたり、実は笑いをこらえているのかもしれない。
「ああもう! 弟子入りでもなんでもしてやるから、さっさといこうぜ!」
「それならオルフェの代わりにこれを運んでもらおうかな」
「へいへい、わかりましたよ師匠」
照れ隠しにさっさと出ようとするエンをちゃっかり働かせて二人は出て行った。
「よし、コウ、デーン! 私たちも行こうか!」
「承知」
「じゃあ、僕もいくよぉー」
「主さん、またねー」
それを引き金にスケイラも皆を引き連れ出て行って
「では、私はこちらの畑を見に行きますのでー」
最後にククノチも出て行って、後には俺とマナミさんだけが残された。
「あいつらと仲良くやっているようで何よりだ」
「アタイも最初はどうなるか心配だったけど、あの3人とは直接的な関りがなかったからねぇ」
なるほどね。今の会話でも他のゴブリンの話が一切でなかったあたり、三面堅にとって他のゴブリンはどうでもいい存在だったのかもしれない。
ま、仲良くやってる以上、その辺の推察は全く意味がない。
それよりも、だ。
「ところでマナミさんや」
「なんだい改まって? 支援の打ち切りとか悪い話ならお断りだよ」
「まさか、そんなことはしねぇよ。いずれ金に換えるために都市に行くんだろ? その時に俺も一緒に連れてってほしいんだ」
「えっ?」
要求が意外だったのか、マナミさんが目を丸くする。
「仙人様ならアディーラさんに連れて行ってもらったほうがよっぽど速いよ?」
「いや、都市の場所も知らんし、そもそも俺たちはこの世界の事をほとんど知らないから、一緒について行った方が何かと都合がいいんだ」
知らずに何かやらかす可能性もゼロじゃないしな。
俺の説得に対し、マナミさんは黙って考え込む。
まぁ、白犬族の戦士たちと俺は面識がないし、早急に商売して金がほしい白犬族にとっては客人になる俺は邪魔でしかないもんな。
しかし、だ。
「とにかくいろんな物売って金に換えたいんだろ? それなら俺がついていく事はあんた達にとっても有益に働くと思うんだが?」
「……!」
マナミさんははっと気が付いたように俺の顔を見る。
ふふふ、お気づきになりましたか?
「連れて行ってもらうんだ、それくらいの雑用はさせてもらうさ」
「そういうことならぜひ一緒に行ってもらおうかね」
マナミさんはそういうと再び何かメモを取る。
俺の……正確には俺たちの協力を得たことで、今まで立てていた計画を考え直しているのだろう。
「さっきも言ったけど、実際に行けるようになるまでにはまだまだ時間がいる。その間にいろいろ打ち合わせておいた方がよさそうだねぇ」
時間はあるしお互いの都合をすり合わせるにはちょうどいいだろう。
その後もマナミさんといろいろ情報交換を行って――
「ああそうだ、ちょいと暇そうな仙人様にお願いしたいことがあるんだけどいいかね?」
「暇そうなってなんだよ? まぁ実際マナミさんとの打ち合わせが終わればやることはないけどさ」
マナミさんからの要件を聞いた後、俺は依頼を遂行すべくダンジョンを後にした。
ちょっぴり古いジャンプ的展開