7-4 仕事が欲しい!
「主殿、ちょっとよろしいでありますか?」
「んぉ? どうした?」
いつも通りの朝ミーティングを終え、ケモミミ娘たちが各持ち場へ散っていくのを見届けた後、ダイニングルームに残っていたアディーラに呼び止められた。
割と深刻そうな顔をしているが何かあったのかね?
「自分にも専門性がある仕事が欲しいのであります」
「専門性?」
話が見えないので、とりあえず最後まで聞いてみる。
ふむふむ、聞き終えて大体彼女が言いたいことが分かってきた。
もともとアディーラはゴブリンの拠点にカチこむために召還した戦闘要員である。
つまり彼女は生産系のスキルを何一つ持っていない。
戦争が終わってしまい日常が戻ってきた今、彼女には他の三人の補佐的作業を頼んでいたのだが
「もう少しみんなの役に立つ仕事をしたいのであります」
まじめだなぁ
オルフェに次ぐ筋力があるアディーラは、空を飛んでの木の実採集や輸送作業などで唯一無二の活躍をしている。
決して今までの仕事だって役に立っていないなんて、口が裂けても言えないのになぁ。
とはいえ、いわゆる第一次産業で残っているのは鉱業しかないが、この世界だと鉱山出して鉱石を取って加工するより、DPでそのものを出しちゃったほうが何かと早い。
知識の強化で何か手に職をつけてもらってもいいんだが、せっかく空を飛べるんだし何かそれを生かした仕事をしてもらいたいなぁ。
悩んでる俺の姿を見て、アディーラも不安そうな表情を浮かべてるしなんかないかー?
うーむ、空、飛ぶ、飛行機、輸送、航空
あ!
「よし、じゃあ航空写真を撮るのはどうだ?」
「写真とはなんでありますか?」
「ああそうか、写真ってのは……いや、これは実際に見せた方が早いか」
DPを使ってデジカメ一式を召喚する。
む、使う前に充電が必要か。
充電してる間にやってもらうことを説明しちゃおう。
長くなりそうなので椅子に座りなおす。
「仙人様、アディーラ様。お茶をどうぞ」
「お、サンクス」
腰を落ち着けた瞬間、朝食の後片付けをしていたアイリが気を効かせてお茶を入れてくれた。
ええ子や。
「あ、そうだ。アイリは写真ってしってる?」
「はい、空間を切りとって絵にしたものですよね?」
んん? 知っていそうだけど、なんか予想外な答えが返ってきた。
もうちょっと詳しく教えて?
「はい、これも神器の一つなのでしょうが、主に貴族の方がご自身の肖像画を作る際に使っていると聞いたことがあります」
いやまぁ、神器っていうかカメラだよね?
絵としてあるってことはプリンターもセットなの?
「そこまではわかりませんが、簡単に肖像画ができるようになって、そのせいで何人もの宮廷画家が失職したという噂も一時期出回りましたね」
そりゃまぁ、リアルな写真が突然できるようになったら逆立ちしても勝てんわな。
とりあえずなんかねじ曲がっている気はするが、写真という概念が外の世界にもある事はわかった。
「んじゃ、話を戻すけどアディーラには周辺の航空写真を撮ってもらう。それで何がしたいかっていうと地図を作りたいんだ」
ダンジョンの周りが荒地なのは周知の事実だけど、道も目印もなんにもないからね。
せめてこの周囲と白犬族が住むダンジョンまでの地図はあったほうがいいとは常々思っていた。
ぶっちゃけ白犬族のところに行くのも、アディーラが俺をかかえて飛んで行ってくれるからたどり着けているようなもので、仮に地上を歩いて行ったらたどり着けないし、下手すると帰れない。
「そこでだ、お前には空中から写真を撮ってもらいたい。そしたらそれをもとに俺がつなぎ合わせて地図を作る」
その辺の編集作業にはパソコンが要るが、DPはかなりお高い。
とはいえパソコンは何かと便利だし、いつかは出すものならDPがたまり次第出してもいいだろう。
「空から見た地図は白犬族にとってもぜひ欲しいものですね」
話を聞いていたアイリも賛同する。
「ちなみに外の世界で地図はどれくらいの精度なのか聞いてもいい?」
「大体の方角と、どこに目印があってどのあたりに町があるかわかる程度ですね」
ふむふむ、つまり測量とかで精巧に調べた地図はない感じか。
あるいは軍事上の機密とかで出回っていないかのどっちかだな。
「それならなおさら地図はいずれ必要になる。これはウチの中じゃお前にしかできないことだ。頼んだぞ」
「お任せください主殿!」
よしよし、やる気を出してくれたようで大変結構。
話をしてる間に説明する分の電気はたまったようなので、アディーラに手渡す。
「では、早速いってくるでありますよ!」
「ちゃんと晩飯までには帰ってくるんだぞ?」
1枚試しに俺を取った後、アディーラは文字通り飛んで行ってしまった。
「ふー、とりあえず一件落着だな」
アイリに入れてもらったお茶を一口すする。
んまい。
「仙人様」
ん? どしたの?
「私にも何かもっとできるお仕事はありませんか?」
アイリよ、お前もか。
なんでウチの連中はなんでそんなに仕事をしたがるんだ。
「このダンジョンの皆様に、少しでも受けた恩をお返しするためですから」
そういわれましても、他に仕事なんて――
「あ、そういえばアイリは織物が得意なんだっけ?」
「はい、でも今は材料も織機もないので、できませんけどね」
「いや、材料なら一応あるぞ」
白犬族が最初にここに来て預かった家畜の中には、羊みたいに毛がフワフワしてるヤツがいた。
後日何匹かをお礼としてもらったが、一部をコアさんが肉にする時に刈り取った毛が迷宮の胃袋に保管されてたはず。
DPにしようとしても大した量にならないから、それならなんか加工して使おうと思って保存だけして、そのまま放置されてたやつだ。
「糸車や織機は用意するから、それで何か織物でも作ってみたらどう?」
「はい! ありがとうございます!」
提案に華が開いたような明るい笑みを浮かべて答えるアイリ。
うむうむ。得意だというのならおそらく趣味の一環でもあったんだろうな。
「あ! そうだそうだ。きみって裁縫ってできる?」
「できます、姉さまのやこの服も私が作ったものですよ」
「グッド!」
うちには裁縫ができる人がいなかったからね!
「じゃあ、いろいろクッションとかも作ってくれないかな? ビーズとかも用意するからさ」
「はい! おまかせください!」
いい返事だ! 最新鋭のミシンもつけちゃおう!
♦
そして数日が経ち、あらゆるところにクッションが増え始めた。
極めつけは座敷におかれた「ケモミミ娘をダメにするクッション」である。
とろけ切った表情でクッションに体を埋めて堪能するケモミミ娘をブラッシングするのが、最近の新しい日課となったことを追記しておく。




