7-3 第一次音楽性戦争
「うー、音楽、音楽」
今、音楽を求めて全力疾走している俺はダンジョンに住んでるごく一般的な仙人。強いて違うところをあげるとすれば、禁欲はほとんどしてないってことかナ。
そんなわけで音楽室へと続くポータルをくぐったのだ!
「ビャアァァァァァァーーーーーーー!!!」
入った瞬間、お気に入りの曲をバックにすごく気持ちよさそうにシャウトするアディーラ(堕天モード)と目が合う。
こちらに顔を固定させたまま、褐色の頬を徐々に赤く染めていくアディーラさん。
これはあれだな、カラオケで気持ち歌ってるところに店員さんが飲み物をもって入ってきた感じに似ている。
とりあえずなんかフォローしよう。
「……ノックをするべきだったかな?」
「……いいさ、俺とお頭の仲だ」
あ、再起動した。
ちゃんとこの返しを選ぶ当たり、以前勧めた宇宙海賊マンガをしっかり読み込んでおる。
この音楽室、楽器はもちろんアンプやスピーカー。果てはスタンドマイクも完備してある。
つまりはカラオケルームとしても十分な機能を有しているということだ。
だから時々、集まってみんなで歌ったり、曲に合わせて耳コピで楽器を演奏したりとみんな十二分に音を楽しんでいる。
まさに音楽ってやつだな。
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ウチの中で今一番のトレンドだからか、俺が音楽室に入ってからさほどの時間もたたないうちにみんな続々と集まってくる。
コアさんが軽食を、ククノチが飲み物を持ってくれば、もうそこはただのカラオケルームである。
音楽室を作って数日、大体みんなの傾向もわかってきた。
まず大前提として、みんなあっという間に俺より歌がうまくなってしまった。
なんというかさすが人魚やドライアド、妖狐やヴァルキリーなことだけはある。
オルフェも馬頭というあんまり歌とは関係がなさそうな種族だが、むしろダンスは一番上手い。
声もボイトレが必要ないくらい通っていて、まさに歌って踊れるアイドルといった感じだ。
これは人気でるで!
「では、軽く合わせてみましょうか」
全員が一曲気持ちよく歌い終わったところでアイリがそう提案すると、ケモミミ娘たちは自分にあった楽器を手に取る。
準備ができたのを見て取ると、アイリはリュートのような弦楽器を演奏しはじめた。
いつもの練習曲だな。
「では、仙人様、ククノチ様どうぞ」
曲が繰り返しに入ったところでアイリがうながす。
アイリの演奏に体のビートを合わせ、入れるタイミングに合わせてドラムを叩く。
隣にいたククノチも自らのツタで複数の打楽器を打ち鳴らしてビートを刻みだす。
器用だなぁ。
メトロノームのように正確なアイリのリズムのおかげで、こちらもリズムが取りやすいわー。
「では次、コアさん」
「よしきた」
アイリの合図に合わせて、自らが持っていたベースを弾き始めるコアさん。
音が出すぎることもなく、さりとて埋もれることもなくすごい安定感がある。
まぁ妖狐な見た目はベースよりは三味線のほうが似合ってそうだけど、上手いからヨシ!
コアさんはほんとなんでも器用にこなすなぁ。
「それでは……」
ここでアイリはちらりと残った三人の方を見る。
どことなく苦手そうな雰囲気を漂わせて――
「残りのお三方、どうぞ」
「いくよぉ~」
「はーい」
「魂のビートをきざむぜぇ!」
答えて三人は楽器を構えて一斉に弾き始める。
一人なんか返答がおかしい気がするけど聞こえないフリ。
オルフェが体を揺らしてリズムを取り、自らがもっていたギターを弾き始める。
彼女は全身で音楽を表現するタイプなのか、やたらと動く。
それはもう足でビートを刻み、しっぽを振ってリズムをつかみ、音楽室をグルグル回る勢いで動く動く。
その姿は会場中を動き回り、盛り上げるガールズバンドのボーカルのようである。
一方アマツが担当する楽器はハープである。
なんでもアマツが楽器のカタログを見てたときにビビッと来たのがこれらしい。
場違いとも思えるようなハープの音色が部屋中に混ざる。
ハープの音色は透き通るように綺麗だし、アマツもそれなりに使いこなすようにはなってきたけど
ただまぁ、なんといいますかアマツはちょーーーっとマイペースがすぎるというか……
自らの感覚に頼ってよくアレンジを入れてくるのがなぁ。
本人はすごくノリノリで楽しそうに弾いてるから言い出しにくいけど、もう少し合わせてほしいところではある。
そんでもって、そんなハープの音色をかき消すかのようにエレキギターの爆音がとどろく。
犯人はもちろんアディーラだ。
アディーラはメタルに目覚めたあの日から、一心不乱にエレキギターの練習を重ねたおかげでアイリを除けばウチの中で一番演奏は上手い。
しかし、本人にはまったく自覚がないようだが、弾いてるうちに熱が入り勝手にテンポアップしていくようだ。
俺もメタルは嫌いじゃないので、ついつい叩くスピードが速くなりそうになる。
だが、それを許さないのがアイリだ。
彼女は惑わされることもなくテンポを崩さない。
結果、今度はアディーラが調子を崩され、やりにくそうにギターを弾く。
「それでは、終わりましょう」
数回繰り返したところでアイリが皆をうながして、曲を終わらせる。
「ふぃー。楽しかったぁ」
なぜかフィニッシュポーズを決めたオルフェが満足そうにつぶやく。
「ねえ。オルフェはなんでそげな動くん? ちろちろ気になるとよ?」
「んー。なんか体を動かしたくなっちゃてぇ」
アマツの問いかけに頭をかいて答えるオルフェ。
わからんでもないけど、おまえのはちょっと度が過ぎてるんだぞ。
ライブとかでパフォーマンスしながらならともかく、狭い音楽室でやるには不向きだ。
「アマッちゃんこそよぉー。なんで楽譜と違う弾き方してんだ? 違う音色が聞こえてあわせるのが大変だったぜ?」
「んー、なんかビビッときたとよ。そうしたほうがよかって」
アディーラの問いかけに身振り手振りをまじえて説明しようとするアマツ。
わからんでもないけど、おまえのはちょっと度が過ぎてるんだぞ。
お前は気持ちよくアレンジしてるんだろうけど、合わせる方としては突然音色が変わってビックリする。
「むー。アディーラだってギターの音が大きすぎるじゃん」
「いやいや、音楽ってのは大音量でかき鳴らしてこそだぜ!」
オルフェの指摘に熱弁するアディーラ。
わからんでもないけど、おまえのはちょっと度が過ぎてるんだぞ。
ぶっちゃけ俺もメタルは好きな部類だから、お前に合わせてテンポアップしたくなるけど我慢してるんだぞ!
「いや、私に言わせればみなさん似たり寄ったりと申しますか……」
「ははは、君には同情するよ」
演奏を終え、疲れたように声を絞りだしたアイリの肩に手を置いてコアさんがなぐさめる。
「ま、しばらくは好きにやらせておきゃいい。そのうちあってくるだろうさ」
「3人とも音楽に対する考え方がまったく違いますし、あうんですかねー?」
多分ね。
三者三葉に意見をぶつけあう様を見つつ、しばらくは生暖かく見守ろうと心に決めたのだった。
アディーラさんが歌ってたのが何かわかった人は
僕と握手!
第二次音楽性戦争があるかはわかりません