6-71 エピローグ 祭祀3
「正直踊りを見てもなんとも思わないけど、敬われるのは悪くないね」
白犬族の神楽を見物するかたわら、ご神体……もといここのダンジョンコアがちょくちょく話しかけてくる。
周りに聞こえないように小声で話すが、ダンジョンコアならそれでも拾ってくれるはずだ。
「私としては踊りより、身体を作ってほしいところなんだけどな」
「それを俺に言われましても……マナミさんはなんて言ってるんだ?」
「”防御を固めたりとか優先したいことが多いから、まだ先になるねぇ”って」
あー、白犬族はもともと戦争から逃げてきたもんなぁ。
その辺に過敏になるのも当然かもね。
「防御ならお前の得意分野じゃないんか? それでなんか取引でも持ち掛けてみたらどうよ?」
「こちらから取引かぁ、それは考えたこともなかったな」
仮にもダンジョンコアだ。身を守る術は心得ているはずだろ。
ダンジョンコアはつぶやいた後、何か考えているのか黙り込んでしまった。
やがて神楽も終わったようで、マナミさんがダンジョンコアの前にひざまつく。
するとダンジョンコアとマナミさんの間にある空間が光り出した。
……おいおいおい! なんかいっぱいでてきたぞ!
「ぜーんぶ食べ物だよ。みんなをねぎらいたいんだってさ」
ちょっとばかし不満の声色を乗せて、ダンジョンコアが説明してくれた。
ああ、そういえばマナミさん今日は奮発するって言ってたもんなぁ。
「ギフトだー!」
「パンに魚に野菜! それに酒もこんなにたっぷりある!」
捧げた供物の量に比べると何倍にも増えた食べ物を見て、熱狂するみなさん。
皆の視線が食べ物にくぎ付けになっている中、マナミさんが俺にだけわかるようにウィンクする。
なので俺もマナミさんにだけ見えるように、ひっそりとサムズアップを返した。
実際のところは元々ここに住んでいたゴブリンを変換したエネルギーなんだけど、それを知らなきゃ気前のいい神様のプレゼントにしか見えないな。
「さぁ、こいつも持って帰ってみんなで騒ぐとするよ!」
「うぉぉぉ!」
手分けしてギフトを持って帰る皆さん。俺も障壁を出して手伝うそのさなか――
「いや、今まで大変だったのは知ってるよ。でもやっぱりもう少しこっちもいたわるべきだと思うけど――」
この調子でダンジョンを出るまでの間、ずーっと俺に向かって愚痴りやがって。
ああ! うざってぇ!
♦
「白犬族と仙人様の繁栄を願いましてー! カンパーイ!」
「カンパーイ!」
日が傾き始め、青い大気に赤がまざり始めた空にサエモドさんの乾杯の音頭が響き宴会が始まった。
ちょっぴり肌寒い気がするが、周りの篝火で暖をとればそこまで気にならない。
「くぁー! この酸味がたまりませんー!」
「ククノチ様の飲みっぷりマジパネェっす!」
開始早々ツボに入った馬乳酒を飲み干してゴキゲンなククノチを囲んで例の四人組がはやし立てる。
ククノチさんよ……おめぇ、できあがるのがはええよ。
とはいえ今日は周りに介抱してくれる人が何人もいるから、好きなだけ飲んでしまえ。俺は知らん。
視線を移してみればチビッコにまざって、ブドウジュースをクピクピ飲みつつ、ブリガデイロを含めたお菓子を口にほうばるアマツの姿が見える。
「これも甘くておいしいでありますな!」
さらにそこにはアディーラもまじり、チビッコたちからお菓子を受け取っては食べている。
アマツはちびっこたちに混ざっていても、その雰囲気というかなんというかで違和感がないが、アディーラは目立つなぁ。なんていうかもう保母さんにしか見えないぞ。
ゴブリンたちから颯爽と現れ助け出して、さらに遊覧飛行で遊んでくれるアディーラはちびっこからの人気が絶大である。
たまにでいいから俺も一緒に助けた事を思い出してね。
「仙人様」
ケモミミ娘たちの様子を見つつ、適当にあいさつ回りみたいなことをしていた俺をアイリが呼び止めた。
「仙人様、よろしければこちらをどうぞ。私たち白犬族の代表的な料理です」
そういって差しだしてくれたのは、鉄板の上で焼けた肉に白いゲル状のものがかかっている料理……というよりは肉の丸焼きに近いものだった。
なんていうかすごいワイルドな見た目の料理で、ダッカーンって言ってそうな人たちが作ったような感じ。
「これはチーギュと言って、こういうお祭りのときにしか食べられないんです」
なんでも白犬族は主に夏場に食べる乳製品を”白い食べ物”、冬場に家畜をつぶして食べる肉を”赤い食べ物”と呼んでいるらしく、一緒に食べることができるのはこういうハレの日の時だけなんだとか。
なるほどね、つまり肉の上にある溶けたこれはチーズってことか。
まだたっぷり湯気を放つ肉の切れ端にチーズをたっぷりつけて一口に入れる。
その時に漂ってきた匂いもたまらんな!
ディススメルイズグッ!
「ほふっ、ほふっ! お、こいつは美味いな!」
かむほどに濃い肉汁があふれだし、それをこぼさないようにチーズが受け止めて混ざり絶妙な味加減に仕上がっている。
肉のほうにも下味がついているのか、香辛料のピリッとしたアクセントが効いて生臭さもなく、噛むのを飽きさせない。
「コアさんが下味をつけてくださったんですよ」
「おいおい、郷土料理を勝手に改良してもいいのか?」
「ええ、もう調理場では”コアさんの言うことに間違いはなし”と言われてるくらいですからね」
「……なんていうか、うちのものが勝手にすまねぇ」
「いえいえ、私たちも食べるなら美味しいほうがいいですから」
そういうことならまぁいいけどね。
「ごちそうさま。うまかったよ」
「お口にあってよかったです」
肉にチーズとかまずいわけがないんだよなぁ!
でも馬乳酒はちょっと俺にはきつかったので、代わりにマナミさんが出していたビールでのどを潤す。
この世界にもビールはあるのね。
「次はこちらもどうぞ」
「ああ、ありが……」
アイリが手渡してくれたので、なにげなく受け取ったけど――
え? これはナニ?
「チェスキーという料理です」
いや、にこやかに答えられましても……聞きたいのはそうじゃない。
このなんていうか丸焼きにされた、しっぽが生えてて丸くてよくわからない生物は何かって聞いてるの!
「チェスキーです。めったにとれない貴重な珍味なんですよ」
ちょっと! にこやかに押し付けないで!
コアさんへループ! 毒見してー! こういうのはあなたの役目でしょー!!
視線だけでコアさんの姿を探すがどこにもいない!
「キャー! オルフェさんすごーい!」
「へへー」
コミュ強のオルフェが酔っ払った勢いでいつぞやにやった宴会芸を披露し、まわりから喝さいを浴びてーら。
うらやましいなぁちきちょう! でも今はそこじゃない!
「仙人様?」
あああ、アイリの笑顔が曇っていく! チクショウ! 時間切れか!
「いただきます!」
アイリから奪い取るようにチェスキーなるものの尻尾をつかむ!
ええいままよ!
頭からがぶっとオマエマルカジリ!
「あっ! それは!」
噛んだ瞬間になんとも形容しがたい音と衝撃が走る!
「歯が! 歯がぁー!」
あがががが
「それは横からかぶりつくものでして……頭はとてつもなく硬い生物なんです」
そういうことは早く言ってよ!
でもなんかスゴイ見た目に反して、大トロみたいで美味しかった!
ダッカーンって何よ?
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肉くいてぇ