6-68 劇的ダンジョン ビフォーアフター!
マナミさんがここの新しいマスターとなることは、なんというか拍子抜けするくらいあっさり決まってしまった。
まぁ、なんとしても新しいマスターを確保して安定的にエネルギーを作りたいダンジョンコアと、俺やコアさんにダンジョンを所有していることのメリットをさんざん見せつけられたマナミさんだから、当然といえば当然か。
「これでアタイも晴れてダンジョンマスターってわけかい?」
「そうだよ。これからよろしくねマスター」
マナミさんがマスターになることを承諾してから、このセリフが出るまでに二人の間でなんらかのやりとりがあったんだろうが、俺にはマナミさんが突っ立っていただけにしか見えなかった。
「終わったか?」
「ああ、なんかコイツとつながったような変な感じがするねぇ」
苦笑しながらマナミさんは目を閉じた。
さっそくダンジョン機能の確認でもしてるのかな?
「なるほどねぇ、こいつは便利そうだ。こんなに便利ならもっと早くなりたかったねぇ」
やがてゆっくり目を開いたマナミさんはぼそりとつぶやいた。
「これからゆっくりここで取り戻していけばいいと思うよ。それよりさっそくマスターにお願いがあるんだけど」
「”自分の体を作ってくれ”かい? そいつは少しばかり気が早いねぇ」
コアのお願いをかぶせる形でマナミさんがクギをさす。
「これから長い付き合いになるわけだし、できれば早めに叶えてやりたいところなんだけどねぇ。まずは外にいる仲間たちの生活環境を整えてやることが優先さね」
ま、マナミさんにとってそこは当然だな。
「なーに、ここに助けてくれる先輩もいるし人手だけはあるから、そう遠い日にはならないさね」
そうだな、ここはウチと違って外で食料を取ってこれるし、さらに俺たちの支援物資があれば生活が安定するのも早いだろう。
「というわけで、あんたの願いを早くかなえてやるためにも、早速ここのリフォームといこうかね!」
「おいおい、まずは休んだらどうだ? ほとんど寝てないんだろ?」
「何言ってんだい。だからまずは寝床から作るんじゃないか。それに早く生モノは処理しないといけないしねぇ」
生モノ、いやまぁ確かに死骸は生モノっちゃ生モノだけど。
「もちろん仙人様にも手伝ってもらうよ。お礼は出世払いになるけどね」
「そうだな、早くお礼を返してもらうためにもここは総出で手伝ってやるよ」
やってもらって当然といった笑顔を向けるマナミさんにはこう答えるしかないな。
「うーん。なんかバイタリティ溢れる人をマスターにしちゃったなぁ。これから尻にしかれそうだよ」
張り切るマナミさんをしり目に、多分俺だけに送られてきたダンジョンコアからの愚痴ともいえる会話には、苦笑と同情の笑みを浮かべるしかなかった。
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俺の助言もあってか、マナミさんはテキパキとダンジョンを改造していく。
まずは断捨離。
まだダンジョン内に転がっていたゴブリンの死体や掃除、居住区にあった物品を全部エネルギーに変える。
この辺は再びこちらに来てもらったアマツにまとめて流してもらった。
そしたらお次はダンジョンの縮小だ。
無駄に長い階段や特殊エリアを一度全部つぶして維持費を減らす。
もし外敵が攻めてきたときの避難先にもなりそうなものだが、それよりとにかくまずはインフラを整えるのが先なんだとか。
マナミさんは通路とコアルームと迷宮の胃袋以外全部消してしまった。
思い切りがいいというか、そのへんはある意味見習いたいものがある。
「さて、お次はここの外にあるものもエネルギーに変えるよ!」
そういうなりマナミさんはダンジョンの外へと出てしまった。
「マナミさんは元気ねぇ~」
コアルームで休憩していたアマツがポツリともらす。
「うーん、なんか空元気っぽいし、マスターに倒れられたら困るんだけどねぇ」
「心労から解放されてハイになってるんだろうな」
今まで族長代理として、一族の存亡の危機を背負って引っ張ってきてたからなぁ。
「そんじゃアマツ。少しでも早く終わるように俺たちも外にでて手伝うか」
「ほーい」
ここでぼさっとしててもやることもないしな。
「外で倒れられたら私にはどうしようもないからね。マスターをよろしく頼んだよ」
「おうよ」
ダンジョンコアに見送られ、ダンジョンから出てきた俺たちを最初に出迎えたのは、社畜時代にかなりお世話になったあの香り。
でも、これはこれで久しぶりに嗅ぐと、なつかしさもあって飲みたくなってくるから不思議だ。
「コアさん俺にもワンセットくれ、コーヒーはアリアリで」
「はいはい、ちょっと待っててね」
ダンジョン前で白犬族の人たちに向けて、食事の炊き出しをやっていたコアさんとククノチに注文して数分待つ。
「お待たせしましたー。どうぞー」
「サンキュー」
ククノチからサンドイッチセットを受け取り、まずはたっぷり砂糖とミルクが混ぜられたコーヒーをすする。
あぁ~、カフェインが徹夜明けの体中に染み渡るんじゃぁ~。
このコーヒーもククノチがカルーアを作りたいから育て始めたものだけど、やっぱり飲むとなんか落ち着くわ。
犬耳の白犬族がコーヒーを飲んでも大丈夫なのか不安だったけど、ウチのダンジョンにいたときにアイリが飲んでいたから大丈夫だろ。
「よし! あんたたちは狩りに行っておいで!」
「押忍! 行ってきます!」
「そこからそこまでは、下の使えそうな家の掃除をするんだよ!」
「かしこまりました! 族長代理!」
俺がコーヒーを飲んでる傍ら、今まで休んでいた白犬族に次々指示を飛ばすマナミさん。
コーヒーを飲んだ白犬族の人たちのテンションがちょっとおかしくなってる気はするけど……
まぁ、命に支障はないし一時的なブーストだと思っておこう。
指示を受けた白犬族たちが坂を下っていき、ここに残されたのはマナミさんと部外者である俺たちだけになった。
「これでよし、仙人様達には下に置いてあるゴブリン達の死骸を運んでもらおうかね」
あー。こりゃ全員に指示を飛ばしてたのは人払いも兼ねてだな。
今まで聖域からのギフトだと思ってたのが、実は供物や食べ物どころか有機物……死体でも物品に変えれると知れ渡ったら、物目当てに殺人すら起こりかねない。
確かにそれを考えれば、俺たちだけでひっそり処理してしまうのがベストではある。
死体の数が六人で運べる量を超えてるってことを除けばな!
「それなら私に任せてもらおうかな」
名乗りを上げたのはコアさんだった。
「結構な量があるけど大丈夫か?」
「問題ない。自分たちで動いてもらえばいいのさ」
そういって胸元から取り出したのは沢山のお札。
あ、そうか。操信符なら俺たちが運ばなくても死体を動かせるのか。
でも、ゾンビみたいなのがぞろぞろ動くというのは見たくないなぁ。
どこのパニック映画だよ。
お札をひらひらさせながら第二階層へと降りていくコアさんを見送ると、マナミさんは意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見てきた。
なんか猛烈に悪い予感がしてきたのぉ。
「アイリから聞いたんだけど、あんたんとこはものすごーく住み心地がいいらしいじゃないか? いろいろ教えてほしいさね」
いいながらマナミさんは俺の腕をとる。
「それに見たことがないものが沢山あるって話じゃないか。できれば分けてくれると嬉しいねぇ」
「いや、それはちょっと……」
「仙人様は交渉次第って言ってたさね、これからじっくり話し合おうじゃないかい!」
「わかった! わかったからまずはちょっと休もう! マナミさん目が血走ってるよ!」
そんな願いもとどかず、マナミさんはグイグイとダンジョンへと俺を連行していく。
「それでは主殿、自分らはコアさんやほかの方の手伝いにいきますゆえ」
「ごゆっくりー」
ケモミミ娘に見送られながら、俺はマナミさんにダンジョンの奥へと引きずり込まれていく。
結局深夜までマナミさんは止まらなかった。
マナミさんは即席で作った共同風呂につかり、うちのダンジョンからもってきたふかふかワタを敷き詰めた即席の寝室にて、ワタに全身を沈み込ませて数分、ようやく動かなくなった。
あたりを見渡せばほかの白犬族の人たちも、電池が切れたかのように一人残らずワタの海に沈んでいる。
つかれた 俺も今日はこのまま寝ちゃおう。
そのまま倒れこめば、ふわっふわっのワタが俺の体を受け止めてくれる。
そのまま自分の重みで沈み込めば、絶妙にワタがフィットし、すぐに睡魔が襲ってくる。
グッドナイト、いい夢を。
次回より章エピローグに入ります。
完結記念として、エピローグ4話は連日投稿予定です。