6-67 帰還
「あー、今日はとってもつかれたよぉ」
「そうねぇ、はようお風呂はいりたいとよー」
もう警戒する必要もないからか、ケモミミ娘達は完全にダレきった話をしながら出口までの道をテクテク歩く。
「帰ったら早くブラッシングしてやらんとなぁ。みんなしっぽがボサボサだぞ、美しくない」
「それは私たちの為じゃなくて、マスターの心の平穏のためだよね」
ばれたか。
「そろそろ出口だから、シャキッとしてくれよ」
「俺が見る限り一番そうしなきゃいけねぇのはお頭、あんただよ」
ぐっ、的確なツッコミを入れてきたな。
まぁそろそろ白犬族の前にでるわけだし、理知的な仙人モードに戻らないと。
表情筋をしめなおし、出口のポータルを通る。
「まぶいな」
ポータルを抜けて出迎えてくれたのは、眩しいと感じるほど青々とした太陽の光。
もう外はとっくに朝……を超えて日中くらいの時間かな?
腕時計がないから、どれくらい潜ってたかわからんな。
目が光に慣れてくると、洞窟を抜けた先に屈んでいる人影が見えた。
あのケモミミは……アイリさんか?
誰かが洞窟から出てきた気配に気が付いたのか、アイリさんが顔を上げる。
近づいてわかったが、アイリさんは両手を組んでいた。
俺たちが入った後、無事を祈っていたんだろう。
随分待たせてしまったが、アイリさんの前に置かれていた短刀を使わせずにすんでよかった。
「仙人様!」
「おう、ゴブリン達は全員倒したぞ。俺たちの大勝利だ」
できるだけにこやかにピッとサムズアップして答えたところ、前面から衝撃を受けて一歩後ずさる。
「ご無事で……よかった」
その声が間近で聞こえて初めて、アイリさんに胴を抱きしめられていたのだと気が付いた。
ウチのダンジョンで使っているヘアフレグランスの香りがケモミミと髪からささやかに感じるのが実にいい!
このままギュッと抱きしめ返して、ケモミミを堪能したいところではあるが……
まだやることがあるのと、なんとなく後ろから突きさすようなコワーイ視線を感じるんだよなぁ。
「なーに、俺たちのチームワークにかかればゴブリン共なんざ楽勝よ」
板チョコより硬い自制心で、アイリの肩に手を置いてやんわり引きはがす。
世界一有名な泥棒の気持ちがわかった。これは相当な自制心がないとできないわ。
「それよりマナミさんはどこにいる? 今後の事についていろいろ話があるんだ」
「はい、お呼びしますので少々お待ちください」
アイリはそういうと、左腕の袖から小さい笛を取り出して吹いた。
澄んだ青空に高い音色がよく響く。これなら相当距離が離れていても聞こえるだろうな。
さほど待つこともなく。第二階層へ続く坂道から登ってくる人影が見えた。
あれ? でも一人じゃないよ? なんかどんどん登ってきてない?
「うぉ~! 仙人様だ!」
「仙人様が返ってきた!」
老若男女わけへだてなくくるわくるわ。
おかしいなー俺が呼んで欲しいって言ったのはマナミさんだけなんだけどー?
「あのー。アイリさん?」
「はい、あの笛の音は”仙人様の勝利、無事に帰還する”の合図ですから。みんな仙人様が無事に帰ってくるのを待ってたんですよ?」
うーん。それならまぁしょうがないか?
続々と白犬族のみなさんが登ってくるのに混じって、ようやく目的の人物が登ってきたのが見えた。
「まずはちゃんと帰ってきてくれて何よりさね。これでアタイらの命運もつながったってもんだ」
サエモドさんを引き連れて、マナミさんがやってきた。
「危ない時もあったがなんとかな」
「アタイらはあんたたちが勝つって信じてたからね。あんた達がダンジョンに入った後、ゴブリンの片づけをしてたんだよ」
ここでマナミさんがちらりとアイリに視線を送る。
「ただ一人、どうにもあんた達が心配な人がいたんでねぇ。見張りもかねて残ってもらったのさ」
なるほどね、アイリさんがダンジョン前にいたのはそんな事情があったのか。
マナミさんはここまで話すとこちらに向かって歩みを進め、俺を引き寄せる。
「それで、ゴブリン達の死骸は今は一ヵ所に集めて布をかぶせてあるけど、あんたたちが持って帰ってDPとやらにでもするかい? それなら腐る前に早く持って帰っておくれよ?」
俺にだけ聞こえる声でささやく。
確かにこのへんの話は、ダンジョンの仕組みを知らない他の白犬族の前で出来る話じゃないな。
「いや、死骸はこっちのダンジョンのエネルギーにする。その辺も含めていろいろ話さなきゃいけないことがあるし、マナミさんに会わせたい奴もいるから場所を変えたい」
DPっていうのも元々はコアさんが俺に合わせて作ってくれた造語だからな。ここは別モノだしその辺は改めないといけないところだろう。
「あいよ、わかった」
マナミさんの快諾を受けて、俺はコアさんの方へと視線を移す。
「私は行く必要はないかな。そっちのことはそっちのルールでやるべきだし。それより――」
ここでコアさんは視線を白犬族の方へ向ける。
「今は私達にも彼らにも休息と食事が必要だと思うから、一旦私を送ってくれないかな?」
「あっ! じゃあウチもかえってお風呂入りたいー!」
「私も畑の世話に戻りたいですー」
「俺も予備のメガネを取りにもどりてぇなぁー」
口々に手を上げるケモミミ娘達。
もう戦闘は終わったし、俺さえ残ってればケモミミ娘たちの行き来は簡単にできるしいいか。
「わかった。また何かあったらこちらから連絡する」
一応空間をつなげてから念話を飛ばせば、ダンジョン内にいる人と話はできるからな。すげぇ疲れるけど。
俺が空間魔法でケモミミ娘を送っている間に、マナミさんはアイリとサエモドさんと言葉を交わしてから、こちらに向かってくる。
「待たせたね。二人には留守番を頼んだし、それじゃ行こうかね」
「姉さま、お気をつけて」
白犬族のみなさんに見送られながら、マナミさんを連れて俺は再度ダンジョンに入っていった。
全く関係ない話ですが
RTA(リアル登山アタック)動画を投稿しました。
よければこっちも見てみて
https://www.nicovideo.jp/watch/sm38340753