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6-66 ダンジョンコアとの対話

「今何か聞こえたか?」

「そうだね、私にも聞こえたよ」


 ああ、やっぱり気のせいじゃなかったか。

 俺たち以外だれもいないはずの部屋に聞こえたその声は、正確には直接脳内に届いていた。

 それはある意味、俺達には慣れた声。

 

「やっぱり、無視するわけにはいかないか。行こう」


 皆をうながし、出口とは反対方向に歩き出す。


「よぉ、話しかけてきたのはあんただろ? 俺たちに何か用か?」


 反対側にあったもの、ここのダンジョンコアに向かって話しかける。

 

「あれ? よくわかったね?」

「そりゃまぁ、俺たちも同じようなところに住んでるからな」


 なんだか初めてコアさんに話しかけられたことを思い出す。

 最初にコアさんに話しかけられた時は、驚いたり舞いあがったりしたなぁ。

 何もかもみな懐かしい。


「じゃあ話は早い。これからは貴方がここのマスターだね」

「悪いが断る。一つあれば十分だからな」


 ここだってマスターになっても、どうせDPが尽きたら死ぬんだろ?

 かけもちはごめんだね。


「じゃあ、そこの妖狐さん。君はどうかな? 少なくともそこに転がってるあいつよりは賢そうだし、君なら私を使いこなせるんじゃないかな?」

「まぁ、私は君と同じコアそのものだし、使いこなせるのは当たり前だけどね」


 コアさんは困惑がまざった笑みをうかべながら答えた。

 答えを受けたダンジョンコアもなんかチカチカしている。YESNOではない予想がはずれた答えだったからかね?


「え? それってどういうこと?」

「そのまんまの意味だよ。私はマスターからこの体を与えられたんだ」

「はぁぁぁぁ!? なにそれ!?」


 さりげなく近づいたコアさんは俺の肩に手をおいて引き寄せる。

 そういえばコアさんも俺に指摘されるまで、自分の体をもてるなんて思いもしなかったって言ってたな。


「え!? じゃあなんで外に出れてるの!?」

「それはだね、製造された生命体もちゃんとした栄養分を取ってれば外に出ても平気だったからだよ」


 ダンジョンモンスターはダンジョンからエネルギーを受け取っているから、中にいる限り食事の必要はない。

 それは逆に言うと、外に出てしまったらエネルギー供給ができずに消えてしまう。

 というのが俺と出会う以前のコアさんの認識だったが……

 

 自身の体を持ち飯を食ったことで、実は普通の生命体と同じように食事さえしていれば外に出ても平気だったことがわかったんだよな。


 そしてそれを証明するためなのか、コアさんはごそごそと腰につけていた袋から食べ物を取りだす。

 手のひらサイズの黒くて長い棒状のものはシリアルチョコバーか。


 白犬族の来訪や遠出をすることもあり、保存食や携帯食は必要だよねと、コアさんが研究を始めた携帯食の一つだな。


 コアさんにとっては、一定以上のおいしさを兼ね揃えないと携帯食とは言わないらしい。 

 おそらくウチの住人はコアさんの美味い飯に慣れすぎていて、いわゆる中世レベルの保存食である、クソかたいパンや塩辛い干し肉を連日食うことにはおそらく耐えられない。

 だから、コアさんはおいしい携帯食の開発に余念がない。その結論の一つがチョコバーというわけだ。

  

 心なしかアマツがうらやましそうな視線を向ける中、コアさんはチョコバーを一口ダンジョンコアに見せつけるようにかじって口に含み、咀嚼する。


「うん、チョコのほんのりした苦さに砂糖の甘さ、そこにまぶしたナッツのアクセントが効いてておいしい」


 コアさんはかじったチョコをそのまま鼻先にもってくる。


「そこにチョコの甘さとナッツの香ばしさがさらに食欲を掻き立ててくれる」


 コアさんはそのまま一本ぺろりと平らげると、恍惚と満足感が存分に混ざった甘い息を吐く。

 

「食べるときの幸せも食べた後の満足感もこの体じゃないと味わえなかったからね。うちのマスターは実にいいアイデアを出してくれたよ」


 これはあれか? マスター自慢ってやつか?

 コアさんに褒められるのは悪い気はしないが、なんか黙って聞いてたダンジョンコアがチカチカしてるんだけど……


「なにそれずーるーいー! 私にもよーこーせぇー!!」

「ちょっと待て! わめくなうるせぇ!」


 おまえのそれは脳内に直接響くから、こちらに止める手段がないんだよ!

 ええいグチを流すな!


「俺たちがあんたのマスターになることはないが、ここの外にマスターになってくれそうな人はいるから! 落ち着いたらそいつに頼めばいいだろ!」

「本当かい!?」

 

 グチがピタッと止まり、ダンジョンコアが期待に満ちたかのような明滅を繰り返す。

 ここの外には白犬族の人たちが待っている、俺たちがゴブリンを一掃できたからここに定住するから、アイリかマナミさんかサエモドさんにマスターをやってもらえばいい。


 特にアイリとマナミさんの二人はウチのダンジョンでいろいろ知ったからな。

 彼女たちならどちらでもダンジョンコアの希望にこたえられるはずだ。


「一応聞いておくが、エネルギーに余裕はあるか?」

「このままでも数日間は大丈夫だよ」


 数日間の余裕があるなら、そこまで急を要する話でもないな。


「それじゃあ俺たちは一度ここを出て話をしてくる。早く俺たちの無事を伝えたいんでな」

「わかったよ。まだ生きてるワナはロックしておくから、なるべく早く頼んだよ!」

「それは助かる。こちらも善処させてもらおう」


 そして俺は皆をうながし、ボス部屋兼コアルームを後にした。

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