6-64 VS エクスゴブリン2
「ククノチ! アマツ! レールキャノンだ!」
「はいー! あれですねー!」
「あれねー! わかったよー!」
そう、俺たちの切り札とは以前アマツがぶっぱなしたレールガン。それをなんとか実用的な所まで改良し、さらに威力を増したまさに必殺と呼べる大砲である。
ただしその代償としていろいろ制約がある。
まずは俺とアマツとククノチの三人の合体技であるという事。実に現戦力の半分がそれに割かれてしまう。
オルフェとアディーラにエクスゴブリンの気を引いてもらっている間に、俺達三人は部屋のスミへとこっそり移動する。
「オルフェ! アディーラ! コアさん! 俺たちの準備ができるまで、あいつがこっちに気を取られないようにしてくれ! それがダメならなんとか守ってくれ!」
ククノチがツタを生やし、アマツが消耗した魔力を回復している間に俺は前衛組に指示を飛ばす。
「ご主人様、準備完了ですー!」
「よしきた!」
あちこちにツタや根を生やし、自身を固定したククノチがコクピット部分を作って俺を待ち構える。
背中からコクピット部分に着地すると、ツタが俺にまとわりつき、しっかり固定する!
「絶縁障壁展開! アマツ!」
「あいあいー!」
電気や熱を通さない障壁で台座を作り、そこにアマツが座った。
それを見届けて障壁でアマツを囲う。
これが制約その2、準備に時間がかかる上に動けなくなる事だ。
さらにこの状態の俺たちはほぼ反撃もできない。仲間がいなけりゃいい的だ。
だが、今のところは問題はない。前衛組はしっかりと連携を組み、エクスゴブリンを上手く翻弄している。
順番に攻撃して目くらましをしつつ、さりげなく、少しずつではあるが俺たちから遠ざかっていく。
その辺りはコアさんの指揮の賜物だろう。一歩引いた場所に式紙を置き、その視点から三人の位置を上手く調整している。
そのおかげで俺たちはエクスゴブリンの視界にすら入ってないらしい。
今のうちに粛々と準備を進めよう。
「アマツ、これ弾丸な」
矢筒と一緒にくくりつけてあった戦車で発射するような弾丸をアマツに手渡し、障壁で砲身を作る。
ククノチは砲身をツタでグルグルに巻き付いて固定する。
その後にアマツは砲身を水で満たし、操って渦を作りそこに砲弾を放り込んだ。
砲弾は渦の中心で固定されグルグルと回っている。
いわばこの渦がライフリングの役目をはたすってわけだ。
これで砲身と弾丸のセットまでは完了!
ここまではいいんだ。問題はここからだ。
アマツが魔力の電気を自信に体にためこみ始める。
美しく青い髪に少しづつ黄色が混ざり、アマツの表面から電気が放電し光を生み出す。
この充電が完了すれば発射可能なわけだが……
ある程度障壁で遮られているとはいえ、バチバチと音を立て光り輝くアマツはぶっちゃけすげぇ目立つ。そのくせ完了までにかかる時間はそれなりに長い。
この状態のアマツを抱えるには絶縁障壁をしっかり展開してないといけないから、擬態障壁でごまかす事もできない。
万が一にも漏電しようものならそのまま大自爆となってしまうからな。
コアさんの幻術も、ああいう風に理性を飛ばして本能に全振りしたようなやつは逆に惑わされないんだよなぁ。
さすがにエクスゴブリンも目立つ音と光が気になるのか、こちらに視線を向けた。
そのたびにオルフェが頭を蹴りつけ視線をそらし、アディーラが囮の光源を出してごまかしてはいるけど、本能で自分を倒しうる力があると感じたのか、陽動が効かなくなってきているな。
視線がそれてもすぐに戻し、囮の光源を無視してこちらを見ようとする。
「じゃあ、こいつでどうだ! ”無音の闇”!」
眼鏡をはずしたアディーラが自身の羽を黒く染めながら叫び、エクスゴブリンの頭を闇がすっぽりと覆い隠した。
すかさずオルフェがエクスゴブリンの肩付近を蹴り飛ばす!
半回転しながら床に倒れるエクスゴブリン。無音の闇の中じゃあこれで恐らく俺たちの位置はわからなくなったはずだ。
これ以上はごまかしきれないと判断したか、作戦を変えたな。
ただし、これにも相応のリスクはある。
倒れていたエクスゴブリンが暴れ出した。
そりゃあ、視覚と聴覚がいきなり塞がれたら、理性が飛んでいるとはいえパニックにもなるわな。
ただ、こいつの暴れっぷりはかなり危険だ。
闇を取り払うためか頭を振り、めちゃくちゃに腕を振り回し、時に走って壁に激突する。
さっきまではまだこちら側で誘導も出来ていたからなんとかなったが、今の奴はもはや予測も制御も不能。
何かのはずみでこちらにこないとも限らない。
「アマっちゃん! まだぁ!?」
砲台の前まで走って戻り、暴れているエクスゴブリンがたまにこちらに向かって飛ばしてきたガレキを叩き落しながらオルフェが問う。
「みんなお待たせっ! 準備完了よー!」
蒼い髪が電気で金色に見え、まばゆく輝くアマツから元気がいい返事が念話で届く!
よし! なんとか間に合ったか!
エネルギー充電完了! 発射する準備は整った。
残る問題は後一つ!
「後は奴を射程内におびき寄せるだけだ!」
「そんなん無理だよぉー!」
無理は承知だオルフェ。ツタや障壁でガチガチに固めないと砲弾はあさっての方向に飛ぶから有効射角が狭いんだよ。
それに確実に当てるために、できれば足を止めさせたい。
だが、安心しろ。アマツが充電してる間に作戦はちゃんと並列思考で考えていたからな!
念話を使い全員に作戦を伝える。
「えぇ~!? 僕そんなことしなきゃダメなのぉ!?」
「はぁ!? お頭なんてこと考えたんだよ!?」
「やれやれ、人使いが荒いってもんじゃないね」
作戦を伝えたとたんに帰ってくるブーイングの嵐。
まいどの事ながら無茶を言って済まねえ。
「もぉ~。これが終わったらニンジン食べ放題だからねぇ!」
でもなんだかんだやってくれる君達にはほんと感謝するしかない。
オルフェは俺の指示通りに暴れるエクスゴブリンに向かって駆ける。
「オルフェ! 闇を解くぞ!」
「オッケー! やっちゃってー!」
アディーラがメガネをかけなおして通常モードに戻ると、エクスゴブリンに纏わりついていた闇が霧散し消える。
「おりゃぁ!」
闇が消えてあらわになったエクスゴブリンの顔に、オルフェが渾身の右フックを入れる!
エクスゴブリンはちょっと仰け反ったが、やはりほとんどダメージはなく、腕を振るって反撃する。
「おっとぉ!」
それをオルフェは半回転して避け、そのまま回し蹴りをエクスゴブリンへのふとももへと叩きつける。
オルフェに頼んだのはインファイトでエクスゴブリンの注意や視線を引きよせ続ける事。
ただ、格闘の型もへったくれもないその攻撃は先読みが難しいらしく、先ほどからオルフェは反射神経だけでなんとか攻撃を避けている。
身体能力の差から一発入ってしまうのも時間の問題だろう。
それまでになんとか二人の準備が終わってくれることを願うしかない。
「狐火・百鬼松明」
視線をコアさんの方へと移すと、コアさんの周りから沢山の狐火が出現し部屋中に広がっていく。
狐火はただゆらゆらと漂っているだけだがこれで注文通り。
どうやらコアさんの方は間に合ったようだな。
残るアディーラの方に視線を向けて――
その視界をすごい勢いで何かが横切る。
壁が崩れる轟音が響いて、初めてそれがエクスゴブリンに吹き飛ばされたオルフェだとわかった。
視線を反対側に戻せば、オルフェを振り払ったエクスゴブリンが俺たちを探すように辺りを見渡して――
俺たちを見つけたらしく、駆けだした。