6-62 VS 三面堅 賢のデーン2
さてさて、何もしてこないあいつの余裕にすがらせてもらって、こちらは情報の整理といこう。
デーンは砂を操って攻撃・防御をしてくるが、砂を自由に操れる範囲はそこまで広くはなさそうだ。
もしあいつが長距離でも砂を操れるなら柳風障壁で砂の錐の軌道を逸らした時に、さらに砂を操って俺を押しつぶす事もできたはずだからな。
とはいえ長距離の弓矢での狙撃は、やつの砂に阻まれて届かない。
結局は近距離戦に持ち込んでなんとか砂の壁を突破するしかないか?
あるいは持久戦に持ち込んで、相手のミスが出るのを待つか?
考えをめぐらせながら消耗した魔力を回復するべく、用意していた魔力回復薬を一口含む。
ふぃー。回復薬の水分が染みわたる。気温はそうでもないが、ここが砂漠のせいか喉が渇くのも心なしか早いな。
……。
あ! そういう事か!? 持久戦もダメだ!
デーンもエンやコウといった他の三面堅と同じで、間違いなくダンジョンモンスターとなっている。つまり、自身のダンジョンにいる限り飲食や睡眠の必要がない。
俺も仙人になってからは飲まず食わず寝ないでも2,3日なら平気だが、逆に言えばそこがタイムリミットとも言える。
つまりデーンが言っていた「いくらでも戦闘に付き合う」というのはこの事をさしていたな。
そう考えると、距離が離れると攻撃をしてこないのは、余計な消耗をしないという点では非常に合理的だ。
ここが砂漠になっているのも相手の補給を許さないという作戦の一つなんだろう。
となればやはりこちらは短期決戦で決めるしかない。
だが、どうやって砂の壁を突破する?
恐らく裏をかいた程度じゃ対応される、さらにその一手先を超えないと――
……。
よし、作戦は決まった。決まればもう腹をくくって実行するだけだ。
まずは、俺の正面に擬態障壁を出し、今の俺の状態をそのまま映し出す。
その後ろでこっそり立ち上がり、矢を一本手に取り魔力を込めて遥か上空へ向かって撃ちだす。
この矢は擬態障壁の裏を通って上空に飛んで行ったから、デーンには見えていないはず。
後はこの矢を悟られないように、陽動で矢を射かけてこっちに意識を集中させるだけだ。
擬態障壁に映したのと同じ体勢で障壁を解除し、再び接近しながら矢を放つ。
「先ほどと同じ芸ならば、この賢のデーンには通じぬ!」
矢を操り四方からデーンを狙うが、当然全て砂の壁に阻まれる。
まぁ、これは上空に注意を向けさせないための囮だから、これで十分!
「せっかくこの賢のデーンがわざわざ時間をくれてやったというのに、その程度の考えしかだせぬか」
せいぜい今の内に言ってろ。そろそろ上空に撃った矢が重力にひかれて落ちてくるころだし。
っと、索敵障壁が落下してくる矢をとらえる。
よし! 落下する位置はほぼほぼデーンの頭上で間違いないな!
矢筒から矢を三本抜き、デーンに向けて真っすぐ放つ!
真正面から飛んでくる矢に、デーンは自らの前に砂の壁を築き――
そのまま砂の壁はドーム状に伸び、奴の頭上まで覆い隠した。
ありゃ? これは矢に気づいちゃいました?
「ふふ、上空から魔力誘導された矢が落ちてくる事。この賢のデーンにはお見通しよ」
落下してきた矢はそのままドームの天井に突き刺さった。
だが、デーンとやら、お前は一つ勘違いしている。
落ちてくる矢にかけた魔力は誘導だけが目的ではない。
戦いが始まる前、上空に向けて矢を放った際にここの空間には風がないことは確認している。
ほぼ無風のこの空間で動かない的に向かって矢を打つだけなら、今の俺は曲射でもそこまで魔力誘導を必要としない。
落ちてくる矢にかけた本命の魔法。それは……
砂に刺さった矢を中心に、ドームの上半分が空間と共に歪んだように見えて――
次の瞬間に音もなく砂と矢が消える。
その中にいる余裕の表情を浮かべ、ナマズ髭を触っていたデーンが見えた。
何が起きたのかまったくわからないといった感じで、髭を触った状態のまま硬直するデーン。
彼が思考停止状態から復帰し、次の手を打つよりも早く、先ほど撃った俺の矢が砂が消えてできた穴を抜けて――
そのまま狙い通りデーンの心臓、肺、そして喉にたどり着いた。
「ゴフッ!」
口から血を吐き出すデーン。
魔力で作っていた砂のイスも崩れ、彼は仰向けに倒れる。
口をパクパクさせて何かこちらに言いたそうだが、喉と肺の空いた穴から空気がもれる音しか聞こえない。
かすかにこちらに向かって頭を上げ、デーンの見開いた目がこちらに訴えてくることはなんとなくだがわかった。
すなわち、俺が何をしたのかだ。仮にも”賢”を名乗っているからか、最後まで知識を求めているのかね?
最低限の警戒をしつつ俺は腰から矢を1本とり、彼の眼前付近まで歩みを進める。
「ここに入った時、俺が空間を繋げて仲間を呼んだのは見てたろ?」
言いながら矢に魔力を込める。
「こいつはその空間魔法の応用だ。何かに命中すると、その周辺にある物質ごと空間を切り取って転送する。どこに転送されるのかは俺も知らん」
弓につがえて矢を放つ。
それははデーンの足元付近の砂に刺さり、さほどの間を置かずに砂ごとどこかに転送されて消えた。
「ただし、まだ未完成でね。本来なら範囲内にあるものをねこそぎえぐり取って転送する予定だが、今はまだ砂みたいに質量が小さいものじゃないと一緒に飛んでくれないんだ」
先ほど撃った矢の効果範囲にはデーンの右足も含まれていたが、一緒に飛んだのはその下の砂だけ、デーンの右足は何もなかったかのようにそこにある。
未完成の原因がイメージ不足か空間の理解が足りないのか、はたまた魔力不足なのかはわからんがね。
デーンはこの説明で理解したのか、口を笑みの形に歪め、目を閉じ力なく頭を倒す。
そこで力尽き、砂漠の砂と同化するように体が粒子となり、やがて完全に解けこんだ。
やれやれ、なんとか勝ったが手ごわい奴だった。
多分相性的にも俺じゃなきゃ勝てなかったな。
「どうだ、勝ったぞ」
心の中の安心感を押し殺し、さも当然といった感じで、観戦していたケモミミ娘達にVサインを送る。
「おー! 主さんさっすがー!」
「相手の一歩先を行く戦い方、大変参考になったのであります!」
アマツやアディーラは素直な賛辞を送ってくれた。ありがとう!
「うーん。最後は良かったけど、途中で砂の波から逃げる所がスタイリッシュからは遠かったね」
コアさん採点がからいよ!
負けて死んじゃったら元も子もないんだからその辺は見逃してよ!
「とにかくこれで三面堅とやらも攻略完了だ」
何もない虚空に向かって指をさす。
「これで残りはあんた一人だ、首を洗って待ってなよ」
恐らくこの戦いも見ていたであろうここのボスに向かって、高らかに宣言する。
そして首を掻っ切るジェスチャーをした後、俺は再び出現したポータルをくぐり、仲間の元へと戻った。
PC壊れてとりあえず仮復旧させましたが
いい機会ですし買い替えかなぁ・・・