6-61 VS 三面堅 賢のデーン
「待たせたな」
「この賢のデーンとおなごを待たせるとは、礼儀がなっとらんのぉー若いの」
いちいちシャクに障る言い方をしてくるが、俺をいら立たせて冷静さを欠かせる腹積もりだろうと思えばなんともない。かけひきはすでに始まっているのだ。
オルフェやアマツ辺りには効果はバツグンなんだろうがね。
ちらりとケモミミ娘達に視線を送ってみる。
ふーん、こちらからは向こうの風景が空間に映し出されて見えるのか。
「ご老体こそ、椅子に座らないといけないほど体力がないなら、無理して俺の踏み台にならなくてもいいんですよ?」
奴の発言を軽く流し、黄色い椅子にどっぷり座ったデーンを煽ってみる。
ただ、デーンが座ってるソファーみたいなイスは、よく見てみれば砂でできてるんだよなぁ。
これだけで奴が使ってくる魔法は大体想像できるな。
「ふん。この賢のデーン。まだまだ心配されるほど衰えてはおらぬわ」
椅子に座ったままだがその眼光は鋭い。その目がハッタリではない事を物語っている。
「むしろこれは、この賢のデーンがおぬしに与えるハンデよ。ほれ、おぬしのもってるその弓矢でわしを射抜いてみぃ?」
チョイチョイと自分を指さしながら煽ってくるデーン。
まあ大体どうなるか予想は付くけど、言われた通りに矢筒から矢を手に取り、弓につがえてデーンに向けて放つ。
放たれた矢はデーンの胸に向かって真っすぐ飛んで行ったが、突き刺さる寸前でイスの手すり部分の砂が動いて盾となり、矢を止めてしまった。
「この通り、この賢のデーンにおぬしの矢は届かん。だから動く必要などない」
そのまま壁だった砂は矢を取り込み、空中に浮かんで形を変え、数本の錐となった。
そして砂の錐は生き物のように動き出し、加速してまっすぐ俺目掛けて飛んでくる。
これはあれか? 避けずに見せろという事か?
俺の周りに障壁を展開すると、錐は障壁にそのまま激突する。
砂で出来た錐はその衝撃に耐えきれずにつぶれて形を変えるが、
「おぬしの戦い方は、このダンジョンに入った時から、この賢のデーンしかとみさせてもらっておる」
そのまま障壁にへばりつき、徐々に広がり障壁を浸食してきた。
おっと、このままだとその内砂に取り込まれて圧死してしまうな。
一回り小さい障壁を貼り、足元に足場となる障壁を出して上へと跳ぶ。
まだ薄い砂の幕を破って脱出したら、高さ3メートルくらいの柱の障壁を足元に出し、その頂点に着地する。
「おぬしのその弓矢と壁では、この賢のデーンの防御は抜けん! ゆえにおぬしがここに入ってきた時点で勝敗はすでに決まっておる」
「これはまたえらく気が早いな。決めつけは良くないぞ?」
「ならば存分に試してみるがいい。この賢のデーンはいくらでも付き合うぞ? いくらでもな」
そういって不敵に笑うデーン。
よし、とりあえず試してやろう。
矢筒から矢を3本とり、デーンに向けて放つ。
と、同時に障壁の柱をジャンプして砂漠……に張った障壁の上に降り立つ。
奴は砂の魔法使いだからな。うかつに砂の上を歩いたら足を取られるかもしれん。
この辺は対ククノチと同じような立ち回りをすればいいだろう。
俺が放った矢はデーンの頭上を通り過ぎると、ヘアピンカーブを描きデーンの方へと軌道を変える。
しかし、デーンに刺さるか刺さらないかといった距離で、デーンが座るイスが壁となり、矢を受け止めた。
「見えぬ位置からの奇襲は、お主の常とう手段だの。この賢のデーンにはお見通しよ」
ま、これがそのまま通るとはおれも思っちゃいないさ。
砂漠の上に障壁の道路を作り、走りながらも矢を手に取り弓につがえて撃つ。
適当に飛ばした矢は先ほどと同じように軌道を変え、デーンに向かって降り注ぐが、やはり先ほどと同じように砂の壁で防がれる。
その砂の壁でできた死角を走り、一気に接近する。
よし! ここなら射程圏だ!
「衝撃障壁!」
衝撃障壁はこのダンジョン内では一回も使っていない。つまりあいつはこの手を知らない。
こいつで砂の壁を飛ばして射抜く!
右手から出した障壁は砂の壁に激突し、その衝撃で砂の壁はその表面に波が立ったかのように震えた!
しかし、砂の壁に走った波はやがて小さくなり、やがて何事もなかったように元に戻ってしまった。
「障壁をぶつけてくる程度、この賢のデーンが予想できぬとでも思うたか?」
ちっ、砂の壁越しに挑発しやがって。
仮にも賢を名乗っているだけあってこの程度はお見通しか。
うまい具合に砂を操り、衝撃を分散して完全に殺したのだろう。
「今度はこの賢のデーンの番ぞ」
言うなり、砂の壁が衝撃障壁を乗り越え俺に迫る。それはさながら砂の波!
うぉぉ!? やべぇ! あれに飲まれたら死ぬ!
通ってきた通路を階段状に変化させ、反転し一足飛びに階段を駆けあがる!
ギリギリのところで砂の波は俺の足元を通り過ぎた。
「ほれ、余所見厳禁じゃぞ」
そう言ったデーンが飛ばして来たのは先ほどの錐、但し大きさがケタ違いにデカイ!
防ごうにもこの質量じゃまともにぶつかると障壁が持たん! しかも今は階段の上で逃げる足場もない!
ならば!
「柳風障壁!」
以前オルフェに使ったベクトルを反転させる反射障壁の応用である柳風障壁を出す。
ただし、こいつは受け止めるための障壁ではない!
砂の錐は向かって斜めに出された柳風障壁にぶつかると、滑るように流されて俺の横を通り過ぎる。
やがて内包していた魔力を失ったのか、砂の錐は浮力を失い地に落ちて砂漠の砂とまざった。
うぉぉ、危なかった。
柳風障壁は相手の攻撃を”受け流す”事に特化した障壁で、反射障壁で跳ね返し切れない攻撃が来ることを想定して開発していたが、作っておいてよかった!
もし反射障壁で防ごうとしていたら、襲い掛かる砂の質量の波にベクトルを反射しきれず、押しつぶされてたな。
さらに距離を取る俺に、デーンは砂のソファーに座ったまま余裕をもってこちらを眺めているのみ。
舐めやがって。その余裕、絶対後悔させてやっからな!
最初にこの「名前を連呼する」キャラ付けを思いついた人は天才だと思うわ
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今回、平行投稿でエッセイを投稿してみました
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