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6-59 VS 三面堅 拳のコウ2

 仕切り直し、二人が再び構えを取る。

 先ほどと違うのはオルフェが取った構えはボクシングではなく、いつものジンガステップを踏んでいるという点だ。


 先手を取ったのは今回もオルフェ。

 ジンガステップからコウの脇腹めがけて左足での回し蹴りを出す。


 しかし、なんの捻りもないそれは、コウが斜め後ろに軽くステップをしただけで、あっさりコウの前を通り過ぎる。

 コウは今度は前へとステップを踏み、パンチの射程圏にオルフェを捉えた。


 そこへ左足を地に付け、背面を向けたオルフェの右まわし蹴りが、先ほどより遥かに速いスピードでコウの頭を狙い撃つ!

 パンチを打つそぶりを見せていたコウはすぐさま両手でガードを固め、腕でオルフェの蹴りを受ける。


「ぐぉっ!?」


 勢いの付いたオルフェの蹴りは予想外の威力があったのか、コウは驚きの声をもらし、両手のガードを横にはじかれ上半身が傾く!


「まだぁ!」


 そこに3回目のオルフェの回し蹴り、アルマーダががら空きになった頭部をしつように襲う!

 コウはそれを膝をかがめ、ウェービングでなんとか頭を蹴りの軌道から逸らして回避する。


 オルフェは避けられた左足を地に付けると、そこからバックステップをして一旦コウから距離を取る。

 おや? ここはいつもなら、まだ派生する蹴り技を繰り出してくるところなんだが?


「カモーン!」


 そのままトントンと後ろに下がり、チョイチョイとジェスチャーを送ってにこやかに挑発するオルフェ。

 これは先ほどのお返しと、全力を見せろということなのだろう。


「ふっ」


 それを受けたコウは口元を笑みの形にゆがめ、まだ蹴りのダメージが残っているであろう腕を上げなおして構えを取りなおした。


「では、こちらも全力で行くぞ」

  

 一言宣誓すると、コウは初めて自分からオルフェに向かって左右にフットワークを取りつつ接近する。

 その速度は間合いを測るためか、ずいぶん遅いが確実に距離は縮まっていく。


 明らかにまだパンチの射程外なのにコウが右手を振るった!

 なんだ!? 牽制にしても遠すぎるだろ!?


 オルフェの遥か手前で止まるパンチ。

 しかし、そこからコウの腕が伸び、パンチも伸びてオルフェに向かう!

 

 いや! 違う!

 コウの右手からパンチの形をした弾が出て、オルフェに向けて飛んだんだ! 

 

「!?」


 オルフェは突然出てきたパンチの弾に面食らったようだが、持ち前の反射神経で身をひねってなんとかかわした。


 が!

 

「オルフェさーん! まえぇー!!」


 ククノチの悲鳴にも似た声援が響く!

 パンチ弾にオルフェが気を取られたスキに、コウが一気に前に詰めた!


 今やコウとオルフェの距離は、インファイトと言っていいほど近い。

 この距離なら、小回りの利くパンチのほうが有利と踏んだか!?


 体を捻り、体勢が倒れかけているオルフェの顔面に向けて、コウが右ストレートを放つ!

 そこにオルフェはさらに体を傾けて地に手を突き、コウのパンチはオルフェの頭の上ギリギリをかすめてすぎる。


 そのまま足を浮かせてガードが空いたコウの首を蹴りこもうとするが、コウは後ろにステップを踏むことでそれを回避、そのままオルフェの胴に向かってパンチ弾を飛ばす!


 パンチ弾はそのまま逆立ちしていたオルフェに命中!


「ぐっ!?」


 その衝撃でバランスを崩したオルフェはくの字に曲がり、背中から後ろに倒れた。

 うわ! 初見は結構地味だと思ってたが、間合いの外から攻撃できるパンチと考えると、侮れねぇなアレ!

 

 コウはその場を動かず、さらにパンチ弾をオルフェに向けて打ち込む!

 左右のコンビネーションで打ち込まれた数発分のパンチ弾は、倒れたオルフェの全身を捉えている。


 オルフェは浮いた両足を地面に叩きつけ、その反動で飛び上がってパンチ弾を回避!

 本来オルフェを撃つはずだったパンチ弾はそのまま石畳へと命中!


 ふっと視線を石畳に向ければ、ちょっぴり削れて穴が開いている。

 あの威力で連打できるんか!? おっかねぇ。


 一方パンチ弾をさけたオルフェは、空中で綺麗な円をえがいて着地する。

 立ち上がるとパンチを打たれたお腹をさすった。いくらオルフェが頑丈とはいえ、石を穿つアレはつらいか?


 そこにコウは回復する間を与えないとばかりに、間を詰めて殴りかかる。

 オルフェはパンチを回避し、あるいは腕で受けてはいるが……

  

 状況は圧倒的にオルフェが悪い。

 コウはオルフェが反撃しようとすると後ろに下がり、牽制のパンチ弾を放つ。

 遠距離攻撃をもたないオルフェはそのパンチ弾を何発か受けており、ほぼ一方的にダメージを受けている。


 パンチ弾でスキが出来ればコウは前へとステップを踏み、オルフェが建て直せば後ろに下がる。

 それでもオルフェはなんとか食らいついてはいたが、明らかにその動きは鈍くなっている。


「っ!?」


 コウの攻撃をさばいていたオルフェの膝が突然崩れた!

 ついに限界が来ちまったか!?


 そのせいでよけれるはずだったパンチ弾を顔面で受けてしまった!

 衝撃で後ろに仰け反るオルフェ。そこを逃さずに間を詰めてくるコウ。


「終わりだ」


 最もパンチの威力が出る距離まで近づき、ストレートに近い右アッパーをオルフェの空いたアゴに向けて撃つ!

 まずい! あれはまさに必殺の威力がある! さすがのオルフェもあれは食らっちゃダメだ!


「来るぞ! しっかりしろオルフェ―!!」


 頭ではわかっているのだろうが、体が動かないのかオルフェは微動だにしない。

 コウのパンチがまるで磁石で引き寄せされているかのように、オルフェのアゴに吸い寄せされて――


 まさに当たる寸前といったところで、オルフェの左手がコウの右手首を掴んで止めた!


「!?」

「ふふ、ようやく捕まえたぁ♪」


 動揺し、眉を歪ませるコウ!

 彼が立ち直るより早く、体勢を後ろに傾けていたオルフェが右足を振り上げ、コウのアゴを蹴り上げた!


 蹴りの衝撃でコウの体が浮く!

 浮いた距離はほんの数センチあるかどうかだが、あのコウの体格を見ればそれだけでも相当な力で蹴り上げられたのは間違いない。


 コウの足が地面に着く。奴はよろけてたたらを踏んだが、ダウンはしなかった。


「ぐっ!」

「ここからは殴り合いだよぉ!」


 苦痛の声を漏らしたコウをよそに、右手を掴んだままのオルフェは右足の下段蹴りでコウの左足を打つ!

 殴り合いといいつつ蹴っとるやんけ!

 

「がっ!? 貴様っ!? なぜまだ動ける!?」

「君が飛ばしてたパンチなんだけど、最初に食らったフックに比べて、ほとんど効いてなかったからだよぉ」

「!?」


 いやいやまてまて! あのパンチ弾は石をえぐるくらいの威力はあるんだぞ!?

 いくらオルフェが頑丈だからって、さすがにまったく効いてないって事は――


 !!

 いや! そうか! 受けたのがオルフェだから効いてないのか!

  

 あのパンチ弾は恐らくコウの魔力によって作られたものだ。

 そして魔力でできてるなら、オルフェが触れた瞬間に霧散が始まる。


 つまりオルフェが食らっていたのは、弾が触れた瞬間の衝撃のみだって事か。

 本来ならそこから石を砕くような”突きぬく力”が入るが、オルフェが食らっていたパンチ弾にはそれがなかったために、半減どころかほとんど威力がなかったと。


「ぬぉぉぉ!!」


 雄たけびを上げながらコウもお返しとばかりに右足を振るう!

 だが、その右足をオルフェはすねで受けた。


「ぐぁっ!?」

「パンチと比べると洗練さがないよぉ」


 攻撃したコウの方が思わず悲鳴を漏らす。

 そこにダメ出しをして、さらに左足に蹴りを入れていくオルフェ。


 空手も嗜み、あらゆるものを蹴りで粉砕するオルフェのすねってとんでもなく硬いのよね。

 少なくとも鉄製のゴブリンの盾をくの字に曲げてたから、鉄より硬いのは間違いない。

 そんなすねを鍛え切れていない足で蹴ったら、当然蹴ったほうがこうなる。


 痛みに耐えて、コウが残った左腕でオルフェの顔面を殴りにかかる。

 が、オルフェは避けもせず、左手でコウのパンチを真正面から受け止めた。


「ダメだねぇ。もうパンチが死んでるよぉ」


 確かに、今のは腰が入っていない腕だけのパンチだった。あれじゃオルフェにダメージを与えるのは無理だ。

 他に切り札がないなら、もうコウに逆転の目はない。


「ねぇ、降参して扉を開けてよぉ?」


 両手を抑えられ、もう立つのがやっとといったコウにオルフェが問いかける。


「ふ、愚問。エンも言っていただろう。どちらかが死なねばここからは出られぬと」


 コウはオルフェの希望を一蹴すると、


「お前がするべきことは、最高の技でおれを屠る事だ」


 無理矢理作ったような笑みで語る。これは事実上の敗北宣言だな。

 さて、勝者となったオルフェはこれにどうこたえる?


 全員がオルフェの次の行動に注目するなか、オルフェはゆっくり動き出した。


よいお年を~

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