6-56 VS 三面堅 剣のエン
コアさんがポータルに入ったのと同時に、ポータルは収縮して消えてしまった。
どうやら奴が言った一人用と言うのは、本当のようだな。
全員が映像に注目している中、画面端から金色の髪と尻尾をなびかせ、歩いてくる人影が一人。
「よぉ、リクエストに答えてくれて嬉しいぜ」
「君にはいろいろ教えてもらったから、こちらも答えてあげないとね」
ある程度の間合いを保ち、コアさんが立ち止まって答える。
「っと、自己紹介が遅れたな。俺はここを守る”三面堅”が一人、一の面”剣のエン”ってんだ。短い付き合いになると思うがよろしくな」
「三面堅……という事は、君のほかに後二人いるのかな?」
「ここで俺に殺されるあんたには必要ない情報だと思うがね」
いやまぁ”三面堅”とかいう称号で三人じゃないとか詐欺でしょ。
でも、世の中には五人そろって四天王みたいなグループもいるし、そうでもないのか?
「私達としても後何人いようが全員倒す事には変わりないし、それは別にいいんだけどね」
さすがコアさん。クールに返すね。
「ところで、君がここを出られないのはここのマスターのせいかな?」
「まぁな。あいつの口車に乗せられてこのガタイを手に入れたのはいいが、その代償に門の守護を命令されてな。ここから出ようとしても俺はあのポータルをすり抜けるんだ。ここじゃあやることがないから退屈でたまらねぇ」
そう言いながらゴブリン……いや、エンとやらは腰からゆっくり剣を抜き放つ。
「だからあんたが招待を受けてくれた事には感謝してるんだぜ? あんたらのおかげでしばらくは退屈せずに済みそうだし、それに――」
そういうと、彼はよく手入れされた両刃剣をコアさんに見せ、
「久しぶりにこいつで肉を裂く感触を味わえるんだからな」
そう言い放つ。
ゴブリンの中ではまともだと思ってたのに、けっこうやべぇヤツだった。
「肉を裂くのが好きで暇なら、私は料理を極めるのをお勧めするけどね」
やつのアブナイ発言をさらりと流し、コアさんも自身の刀を抜き放つ。
おや? 幻刀術は使わないのか? コアさんもまずは純粋な剣術勝負をしたいって事かね?
「料理? 飯なんて腹に入れば全部同じだろ?」
オイ待て馬鹿! それはコアさんには禁句だ!
「それは残念。いや、食べる楽しさを知らずに死ぬのは、むしろ同情するよ」
静かな怒りを込めて煽り返すコアさん。
「いい殺気だ。楽しもうぜ」
エンはコアさんの殺気を受けて不敵に笑うと、剣を構える。
自身の頭ほどまで腕を上げ、切っ先をコアさんに向ける型だ。
対してコアさんもゆっくり刀を顔の横まで上げ、垂直に刀を持つ八相の型を取った。
映像越しだが、緊迫感はこちらにもひしひしと伝わる。
先ほどから周りのケモミミ娘達も、二人の一挙一動を見逃すまいと食いつくように映像を眺めている。
時間だけが一刻一刻ゆっくり過ぎ去っていく。
だが、二人は動かない。
……と、以前の俺なら、この状況をそうとしか見れなかっただろう。
だが、少なからず死線を潜り、戦闘経験をつんだ今ならわかる。
二人はもうすでに何度も激しい応酬を繰り広げ、今なお相手の技量を測り、先に一太刀入れるための攻防を繰り広げているという事に。
ほんのわずかだが二人の手や腕、目線が動き、それに対応するためにお互いがわずかに動く。
先ほどからずーっと二人はこれを繰り返している。
あまりに動きが少なすぎて、これは武の心得がなきゃ見逃しちゃうね。
停滞していた空間に一陣の風が吹き、枯草が舞い上がり二人の間を過ぎて――
コアさんは高く踏み込み、体重を乗せて刀を振り下ろし、
エンは身を低く踏み込み、地から登るように剣を掬い上げて、
硬い衝突音が草原を震わせた!
丁度二人がいた中間地点で、二人はお互いの得物をぶつけ合う。
力と力がぶつかった反作用で、二人は一歩後ろに下がり――
すぐさま地を蹴り前へと踏み込み、再び武器を振う!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
むぅ! さすがは三面堅とか名乗るだけはある。
コアさんと打ち合えてるだけでも、そこらの一般ゴブリンとは比べ物にならない。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
必殺の間合いで打ち合う事、十数合。
まるでお互いが合わせたかのように、あるタイミングで同時に後ろへと跳んだ。
「いいねぇ! ここまでついてこれたやつは久々だ」
「君もね。もっとも私の場合は、純粋な剣勝負の経験があまりないから、なんとも言えないけどね」
口調はあくまでクールだが、コアさんも明らかに高揚している。
表情にはあまり出してないが、内心はエンと同じで、楽しくてしょうがないんだろう。
ここまで見ていた限り、剣勝負の力・速度・腕前・経験その他もろもろは、多少の優劣はあれど、総合的にはほぼほぼ互角と見た。
となれば、勝敗を決する要素があるとすれば、お互いが伏せているカードの中身次第だな。
間合いを取り、仕切り直した事で、ある意味ここからが伏せカードを含めた、本当の意味での全力勝負になる。
二人を見てれば核心はないが、直感がそう言っている。
キンキンキンっていうと、昔はうたわれるもの(らじお)だったけど
今はこっちの方が主流かなぁ(笑
特になろうならね!




