6-53 偵察! ゴブリンダンジョン!
坂を登り俺たちは再び第三階層のダンジョン前……より少し離れてずれた所に立つ。
ダンジョンの仕組みが俺たちのと同じなら、ポータルの前で棒立ちするのは少々危険だからだ。
ポータルに向けて矢など飛翔物を飛ばした場合、ポータルを超えたそれは勢いを失うことなくそのまま飛んで行くのは確認済みだからな。ポータルを挟んだ転移先は見れないので、タイミングがあえば絶好の奇襲ポイントとなっている。
ただし、逆に言えば奇襲されやすいポイントでもあるってことだ。
だからウチの防衛プランとしてポータルを使った奇襲戦法は使わないが、ここは採用している可能性もある。
よそのダンジョンのポータルをうかつに進むのは、命を懸けるのにも等しい。
「ちょっと、緊張してきたとよー」
「僕たち初めて別のダンジョンに入るからねぇ」
アマツがポツリと漏らした不安に、オルフェが答える。
ダンジョン防衛の練習で攻める側が、防御側に比べてかなり不利だという事を思い知ってるからだろう。
油断しないのはいいことではあるが、緊張で本来の実力を出せないのは問題だな。
「いつも通りやれば大丈夫。訓練の方がよほど厳しいはずだ」
「そうですねー」
励ましたつもりではあるが、ちょっと声が上ずってる辺り、俺も緊張してるな。
こればっかりは慣れるしかないか。
「それじゃあ訓練通り始めるとしようか」
逆に緊張のかけらも見えないコアさんは胸元からお札を取り出し、再び案山子を作り出した。
「視界共有完了、じゃあ入るよ」
コアさんの声に合わせ、案山子がのそりとダンジョン入り口に向かって歩く。
トンネル入り口からちょっぴり顔を覗かせると、案山子はポータルに入って見えなくなった。
「うん、特に待ち伏せはない。入り口付近は安全だね、中は洞窟風だよ」
コアさんは見えたものを逐一教えてくれる。
「でもみんなが入るのは少し待ってほしい。さほど歩かないところに別のポータルがある」
という事は、最初の通路はダンジョンマスターが敵全体を見るためにあるのかな?
ただ、今まで聞いた限りの心証だと、こいつは後ろでふんぞり返るタイプだと思うから、自分は知ってもあまり部下には情報を伝えることはしなそうなイメージだが……
全員の視線がコアさんに集中するなか、コアさんは案山子からの視界情報を漏らさず受け取るためか眼を閉じて集中している。
「あっ」
普段めったに聞かないマヌケな声がコアさんから漏れると、彼女はぱっと目を開いた。
「やられた。次のポータルの先で待ち伏せがある」
オッケーオッケー、これで俺たちは一回分このダンジョンの経験を得られたわけだ。
「で、どうだった?」
「んー、すぐやられちゃったからほとんど見えてないけど」
コアさんはそう言いながらも、手直な棒を拾うと地面にゴリゴリと地図を書く。
「入った先はすぐに壁だったよ。で、こんな風に左右に道があって……」
描かれたのはほぼT字路と言っていいくらい上が広がったY字路。
「そこから離れたところにゴブリンがいて、入った瞬間に矢と火の魔法が飛んできたかな? 今わかるのは大体それで全部だよ」
ふーん、なるほどね。
敵が真っすぐ進めないよう、そして味方に攻撃が当たらないようにY字路にしてるなど、なかなか考えられた防衛線だなぁ。
「それなら自分とオルフェ殿で素早く距離を詰めて左右を制圧すればよろしいかと」
スピードには自信があるのか、アディーラがそう提言してくれたが、
「いや、それはダメだ。連中との距離があるこの通路に罠があると見た」
入り口とゴブリンの間の通路を丸印でかこう。
根拠は単純。俺ならそうするからだ。
例えばゴブリン部隊の直前に鉄格子を落とす、それで進路をさえぎるだけで侵入者は通路で足止めを食らう。
そうなれば後は即席の矢狭間から矢なり魔法なりを打ち込むだけで、侵入者は遠距離攻撃を受けながら鉄格子をどうにかしないといけなくなる。
撤退するにも矢と魔法を受けながらだ、そうなりゃどうなるかは考えるまでもない。
「むぅ、そこまで頭が回りませんでしたな」
「その辺はダンジョン防衛を考えてる年季の差かな。今回は却下するけど空を飛べるアディーラならではの意見も期待してるから気を落とすなよ」
と、一応フォローを入れてから、
「ともあれ、ここに防衛線があるならまだまだ情報が欲しい所だな。コアさんなんどか偵察を頼めるか?」
「おやすい御用だよマスター。次はもう少し粘れるように的を小さいものにしようか」
コアさんはそういうと、再びお札を取り出し魔力を込める。
お札は徐々に膨らんでいき、今度は鳩の姿に変わった。
鳩はコアさんの手から飛び立つと、天井ぎりぎりを滑空しポータルに向かって消えた。
そして――
「んー、ゴブリンまでの距離は目測で30メートルくらいかな? あとは固定砲台というか連弩のような巨大弓が設置されてるね」
何それかっこよくない!? ちょっと見てみたい!
――じゃなかった。
「それに撃ち落とされたのか?」
「いや、それはあくまで鎧を着た敵を貫くためにあるみたいだね。撃ち落とされたというか、近づいたら火炎放射器のような火の魔法で燃やされたよ」
うーわ。なかなか面倒な防衛方法だなぁ。これ知らずにつっこんでたらヤバかったな。
「オッケーオッケー。じゃあ次は――」
とりあえず突破の糸口が見つかるまでは情報収集に徹しよう。
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「――なるほど、通路は大分狭いな」
「そうだね、大の大人が二人ギリギリで通れるかどうかってところだね」
偵察を繰り返してもらう事数回、大体内部の情報は出そろってきた。
何度も偵察を送っているが、あいつらは頑として防衛ラインを越えてくることはなかった。
挑発に乗らないという点では褒めるべきところだが、こちらとしては情報が抜き放題で非常に助かる。
連中の基本的な防衛方法は、狭い通路に貫通力のある巨大弓でまとめて射抜くという方針で間違いなさそうだ。
俺が障壁を前面に張って少しづつ進むという方法でもいけなくはなさそうだが、障壁がもつかどうかは賭けになりそうだな。
とはいえさらに通路に罠があると考えると少々……いやかなり分が悪い。
「まぁ、でもやる事は決まったな」
「ああ、あれをやるんだね」
だが、うちには条件次第だが閉所で絶大な攻撃手段をもつ人物がいる。
そして、今の状況でその条件を満たすのはそう難しい事ではない。
「集合!」
立ち上がって振り向き、タケノコに刺さったゴブリンを一ヵ所に集めていたケモミミ娘達を呼び出す。
基本的に作戦を考えるのは俺とコアさんの役目なので、手持ち無沙汰になっていた他のメンバーには掃除をお願いしていた。
一応ここは白犬族に使ってもらう予定だからね。自分らで作ったゴミは片付けないと。
「主殿、作戦は決まったのでありますか?」
「ああ、これから説明するから聞いてくれ」
いつも通り障壁にイメージ図を作り出し、連中の防衛線を突破するプランを説明する。
「なるほど、これは今の自分にはとても考えつかない発想でありますな」
アディーラが感心したようにつぶやく。
「それじゃ、早速作戦開始と行こう」
偵察に結構時間食っちまったからな。本番は手早く終わらせたいところだ。
サブタイの有無でPvにこんなに差がつくとはたまげたなぁ。
いろいろ試してるのでご迷惑をおかけしますが、今あるワードは変えませんのでどうかひとつ




