6-52 休憩タイム
第二階層で合流した俺たちは、物資の補給のために一度コアさんとククノチをウチのダンジョンに転送する。
大体1時間くらいたった頃に再び空間を繋げると、ツタに荷物を山盛りに巻き付けたククノチとコアさんが出てきた。
即座に俺は魔力回復薬を一口飲んでみる。仮説が正しいならこれで体調不良は軽減されるはずだからな。
「言われた通り、豚と鶏のジャーキーをありったけ持ってきたよ」
コアさんに促されたククノチが荷物の袋をあけると、燻製された肉のいい匂いが夜の闇にただよいはじめる。
「次からが本番だからな、みんな英気を養っておけよ」
そういいつつ、袋から手ごろな大きさのジャーキーをつかみ出して一口。
ん、美味い。
まず口の中に広がるのはジャーキーにまぶされたコアスパイスの辛み。
さらにその香ばしい匂いを鼻で味わいつつ肉を噛みしめれば、舌に広がるは凝縮された肉の味。
完全に乾いているはずの燻製だが、噛めば噛むほど肉の味が染み出てくる。
「いつもより美味しく感じるよぉ」
貪るように食べているオルフェのそれは、きっと空腹という名のスパイスなのだろう。
オルフェに限らずみんな一心不乱に食べているが、ちょっとはしたないと思うのは俺だけだろうか?
こんなに長時間ダンジョン外に出てるのは初めてだからな。ケモミミ娘達としても空腹や眠気に慣れるにはいい機会なのかもしれない。
ただ……
「じゅるり」
ケモミミ娘達は食べるのに夢中なので完全にアウトオブ眼中のようだが、周りを囲んでみている白犬族の羨ましそうな目線が俺の心に刺さる。
携帯食はある程度持ってきて配ったが、この人数に対してはさすがに量が少なすぎたか。
「まさかあたいらに見せつけるために、こんなに持ってきたわけじゃないだろうね?」
「んなわけないだろ。俺たちはこれを食ったらすぐ連中の本拠地に乗り込むから、余った分は全部あげるつもりだったよ」
そんな意地汚い趣味をもった覚えはない。
「というか、別に俺たちの食事が終わるまで待ってる必要もないぞ、適当に取り出してみんなで食って――」
言葉が終わるより早く、我先にと肉を取り出す白犬族のみなさん。
大分我慢させてたのか、それはすまないことをしたなぁ。
白犬族全員がここで休息を取るには少々手狭だったので、代表者を残し思い思いの場所で食事と休憩を取ってもらう事になった
「自己紹介が遅れましたが、わしはサエモドと申します。元は同盟の官吏をしておりました」
「あたいとしちゃあ実績は十分なんだし、サエモドさんに族長代理をしてもらいたかったけどねぇ」
代表者の一人、厩舎からここまでリーダーを務めていた初老のおっさんが名乗り、マナミさんが補足してくれた。
「いえいえ、今回の旅路で強く思いましたが、こういう非常時での判断は貴方の方がはるかに優れておられますよ。私の事は補佐程度にお考え下さい」
マナミさんにサエモドさん。そこにアイリを加えた3人が白犬族の現代表というわけだ。
こちらも改めて自己紹介をさせてもらって、
「まぁ、こっちから聞きたいことは一つしかないんだけどな。俺たちはさっきも言った通りこれから連中の本拠地に乗り込む」
後ろにある第三拠点を親指でゆびさし言葉を切る。
「で、白犬族はこれからどうするんだ?」
「ああ、その事なんだけどねぇ」
マナミさんはちらりとアイリを見た後、こちらに向き直る。
「アイリから話は聞いたよ、仙人様の目的はあくまでここにいるゴブリン共の駆除だって」
その通り。アイリには友好的な種族に挿げ替えるとは言ったが、あれは方便だ。
俺たちとしてはここからゴブリンがいなくなればそれでいい。野ざらしのダンジョンができるのは問題かもしれないが、それはそれだ。
「だからアタイらはあんた達の邪魔にならないように、さっさと逃げて本来の目的地に向かうのも選択肢の一つではあるんだろうけどさ」
マナミさんはここで一区切りつけ、ちらりとサエモドさんの方を見る。
「ただ、いくら友好的だからと言っても、そのまま受け入れてもらえるかはわからない。だったっけ?」
「先方にも事情はあります。半分くらいは身売りさせられる可能性はあると進言しましたな」
本当にいろいろな意味で綱渡りをしてきたんだな。
「特に今、我々は”手土産”も失ってしまいました。これでは受け入れてもらえるかもわかりません」
「とまぁ、こんなありさまでねぇ」
マナミさんはお手上げといった形で肩をすくめる。
「それならここに留まったほうがいいとアタイは考えてるけど、二人はどう思う?」
「数日間の食料採取をしていた感じだと、この付近は比較的食料が豊富なので、乱獲しなければこの人数でもしばらくやっていけるだけの量は取れると思います」
マナミさんの視線を受けたアイリが答え、サエモドさんに視線を移し、
「それに攻め落とされた割には施設がほぼ無事に残っております。多少”掃除”が必要ですが、そう苦労せずに生活を軌道に乗せることも可能でしょう」
サエモドさんが意見を述べる。
二人の意見を聞き終わったマナミさんは軽く頷くとこちらに視線を戻し、
「それにここなら仙人様からの支援も期待できる。そうだろ?」
それが当然だと言わんばかりの表情で問いかける。
「まぁな。自立できるくらいまではおもりしてやるよ」
アディーラに連れて行ってもらえればウチのダンジョンから1日かからないし、帰りは俺の空間魔法で一瞬で帰れる。
あまり外の世界に干渉したくない身としては、白犬族にはここに定住して窓口になってもらったほうが何かと都合がいい。
「というわけでアタイらはここで仙人様の勝利を願って待つ。それでいいかい?」
「ええ、もし仙人様が不覚を取ったら私もここで果てます」
「ここは仙人様に我ら白犬族の命運を賭けるところですな」
二人が追随したのを見て、これが答えだと言わんばかりにこちらを見るマナミさん。
「やれやれ、これでさらに負けられなくなったな」
ま、もとより負けるつもりはこれっぽっちもないがね。
言葉を吐きながら俺はゆっくり立ち上がる。
「よし、たっぷり食って英気はやしなったか? そろそろ行くぞ」
「気合十分だよぉ!」
「これが最後の晩餐にならないよう、しっかりやらせてもらうよ」
思い思いの言葉を出しながら立ち上がるケモミミ娘達。
そして俺たちは3人に背を向け、坂を登り出す。
「どうか仙人様方に勝利を」
願いの言葉を背に受けた俺は右手をあげて答えた。
夜見ベルノ様の読者実況に取り上げて頂きました!
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全体的に高評価で嬉しい!