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6-50 第三階層突入戦 進撃の獣人

 白犬族にやってもらう事を説明するがてら、あらためて第三階層を見上げてみる。

 まず視界に入るのは入り口をオルフェが扉を破壊した牢屋を塞ぐための建物、その右側には急な上り坂の通路。

 

 元々は崖だったんだろうが、人の……というかゴブリン達の手によって削られ、道具がなくても登れるようにはなっている。

 但し幅はあまり広くない上に身を隠す場所もないため、上に居る連中から見れば絶好の標的となってしまうだろう。

 矢を浴びせるなり大岩を転がすなり、迎撃のやりようはいくらでもある。


 そんなところをただ進みたくないので、まず掃除をしよう。

 そのためには白犬族の協力が必要不可欠なのだ。


「え? それだけでいいのですか?」

「ああ、それだけやってくれれば十分だ」


 囮というから命をかけるものだと思っていた白犬族の男達が、肩透かしを食ったようにつぶやく。

 いや、さすがに命をかけさせるようなお願いはしませんって。よほどの事がない限りだけど。


「おし、ここからはコアさんが指揮を取ってくれ」


 俺の索敵障壁(サーチウォール)じゃ上にいる連中のことまではわからない。だが、コアさんは今もなお連中の動向を自らの式紙を通じて除き見ている。

 それなら指揮ごと任せてしまった方が、より速く的確に動けるだろう。


「了解だよマスター。では、みんな準備を」


 言葉を発すると同時に、コアさんの周囲にいた黒い狼達が音を立てずに潰れていく。

 地面に黒い影を落とし、地面に浸み込むかのように溶けて、やがて1枚の札へと戻る。


「式紙”案山子(かかし)”」


 かわりにコアさんは新しくお札を取り出すと、今度は人型を数十体ほど作りだした。

 よく見ると指がなかったり顔がへのへのもへじになっているなど、細部は大分適当だね。


「今回は数のほうが重要だからね」

 

 確かに、闇夜で囮に使うならこの程度で十分。

 生み出された案山子たちは隊列を組んで上り坂へと歩き出す。


「それでは、みんな手はず通りにお願いするよ」


 歩く案山子の後ろにアディーラとコアさんを除く俺たち3人が並び、さらにその後ろに倒したゴブリン達の道具を拾った白犬族の人たちも、コアさんの案山子と同じように隊列を組んで歩き出す。


 そのまま歩みを進め、平坦な道から坂道へと足を踏み入れる。

 高低差を考えれば、この辺りから連中の矢の射程圏に入るだろう。


「よし、ここから作戦開始だね。白犬族の人たちは腹の底から大きな声を頼んだよ」


 コアさんの合図に答え、案山子たちが早足で坂を登りだした。

 同時に後ろからは――


 白犬族の皆さんの雄たけびというか、ヤケクソに近い鬨の声が闇夜を大きく震わせる。

 伴奏に盾をメイスで叩く鉄の音が、祭りのようにガンガンと鳴り響く。


 おおう、こいつは想像以上だ! はりきってんなー!

 向こうから見れば士気旺盛な部隊が突撃してくるように見えているはずだ。


「マスター。ゴブリン達が矢を撃ってきたよ」

「オッケー、そいつは任せな!」


 索敵障壁を上空付近にしぼると、コアさんの宣言通り矢の雨がこちらに飛んできているようだ。


「障壁展開!」


 俺たちの頭上に大きな盾のような障壁を生み出す。


「ひっ!?」


 数瞬の後、矢が障壁にぶつかる音が響き、後ろから悲鳴が漏れる。


「安心してくれ。この程度の矢なら、俺の障壁が破られる事はない」

「は……はは。なんとも頼もしい。しかし慣れないと、これはなかなかにきついですな」


 引きつった笑みを浮かべて答える初老の男性。

 確かに透明な障壁があるとはいえ、矢の標的になっているのは精神衛生上よくないか。


 障壁に色を付けて白犬族から矢が見えないようにしてみる。


「これでいいかな? 引き続き鬨の声を頼みます」

「はい、承知しました」


 白犬族はこれでよしっと。


 先頭を行く案山子たちは障壁で守ってないから、どんどん体に矢が刺さり、ミノムシみたいになりかけているが、そもそも彼らはただの操り人形なので、彼らは歩みを止めない。

 向こうから見れば重装歩兵の行進にでも見えてないかなぁ?


「マスター。次は岩が来るよ」

「それはアマツ、オルフェ。任せた」

「任されたっちゃ!」


 徐々に暗い夜道に重いものが転がる振動が、足を通して伝わってきた。

 索敵障壁に伝わる感触から推察すると、直径1メートルくらいはあるかな?

 もちろんこんなものをまともに食らうわけにはいかない。


「”みずかべ”」


 アマツがぽつりつぶやくと、アマツの杖から染み出た水が案山子と俺たちの間に厚さ50センチほどの水壁を作る。

 ぷるぷるして、でっかいこんにゃくみたいだなぁこれ。


「うちがこれで受け止めるけん、後はオルフェに任せてよかね?」

「うん、いいよぉー」


 アマツの問いかけに屈伸し、ウォームアップしながらオルフェが答える。

 そうこうしてる間にも地響きは大きくなり、先頭にいた案山子部隊を跳ね飛ばした。


 さすがに元はお札だからなぁ、矢はともかく岩は無理か。

 案山子部隊をぺしゃんこにした大岩は、勢いを止める事無くこちらに転がり――


 アマツが作った水壁に激突し、音と共に水と空気が振動する!

 サッカーボールがネットに突き刺さったかのように、水壁はその弾力を活かして大岩を受け止めたが――


「むぅー! やっぱ、壁がもたんよ! オルフェ後はお願い!」


 さすがにあの加速しきった岩を、水壁だけで止めるには無理があるか。

 金魚がポイを破って逃げ出すように、大岩は水壁の中央をぶち抜いた。


 とはいえ、勢いはほとんど殺せたようだ。これなら!


「うん! 後は任せてよぉ!」


 そう言ってオルフェは跳ぶ!

 空中で何度も前回転し、


「せりゃぁ!」


 足をピンと伸ばし、体の回転に足の遠心力を乗せた渾身のかかと落としを大岩の頂点に叩きこむ!


「うぉっと」


 その衝撃は大岩を通り抜け地面に伝わり、土が巻き上がり岩が転がった時の比ではない地響きが全身を揺らす。

 その衝撃を全て受けた大岩を見てみれば、オルフェのかかとを受けた部分が大きく陥没し、全体に大きなヒビが入り、1/3ほど地面に埋まっていた。

 これならもう、転がる事はないな。

 

「ま、ざっとこんなもんだねぇ」

「よし、これで十分だ。二人ともよくやってくれたな」

「むふー。こんなの朝飯前さねー」


 巻き戻しをするかのように再び一回転して着地し、オルフェがこちらにピースサインを送ったタイミングで二人をねぎらう。

 ここで周りが静かになっていることに気が付き、ふっと後ろを見てみればそこには口をあんぐり開けた白犬族の皆さんの姿が!


「た……たすかった」


 先頭のおっさんから、そんなかすれた声が漏れ出てくる。


「あのー、仙人様達はなんでそんなに平然としてられるんスか?」

「あー、うん。練習してるから……かな?」


 先ほどの矢にしろ大岩にしろ似たような罠は、防衛エリアに設置してある。

 こっちが設置できるってことは当然相手もやってくる可能性があるわけで、そうなると同じワナをかけられた時、なんらかの対処ができないと全滅するリスクがある。


 だから少なくとも、ウチのダンジョンに仕掛けた罠は自分たちで突破できるように訓練を重ねているんだよね。


「そうっすか、仙人様達の鍛錬はすごいっすね」


 あ、こいつこれ以上考えるのをやめたな。


「それよりみんな、声と動きが止まってるぞ。後ちょっとだけ頑張ってくれ」


 そろそろ頃合いだと思うんだが……

 再び声を張り上げた白犬族の皆さんをバックにそう思案しかけた時――


「みなさーん。お待たせしましたー。準備完了ですー」


 ついに待ち望んでいた人物からの念話が届いた!


「うん、ゴブリン達もこちらを迎撃するために集まってるし、実にいいタイミングだよククノチ。じゃあ早速やってくれるかい?」

「了解ですー」


 やれやれ、やっとか。囮になるのも楽じゃないね。

 ここからはこちらのターンだ!


 さて、一気に攻めさせてもらおうか!


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