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6-48 第二階層掃討作戦3 折り返し

 障壁の上を走り、第一階層へと続く門を通る。

 眼下には侵入者を止めるために連中が作ったデコボコの障子堀がめぐらされており、十字型の細い道と曲がりくねった本道路が見える。


 本来ならここを抜けるためには矢の嵐を受けてなお進み、頼りない足場の上で槍衾をしのぎ、さらにガチガチに守られた門を破らないといけない。

 しかし、すでに守備兵が全滅した今の障子掘は、ちょっと歩きにくいだけの細い道である。


 ま、どんな防衛線も的確に運用されて初めて機能するってこったな。

 

 第一階層からのゴブリンも大半が第二階層に向かって通り過ぎてしまったのだろう。俺たちはすれ違う事もなく障子堀を駆け降りる。

 そのまま少し走れば第一階層の集落にたどり着く。

 

 事前情報ではここには厩舎や納屋などがあり、下級ゴブリンの居住区にもなっていると聞いているが……

 今は所々に松明があり多少明るいものの、索敵障壁(サーチウォール)にも人のようなものがある感じはしない。

 どうやらほぼ全員が第二階層に行ってしまったようだな。そこには凶悪な狐と虎が待ち受けてるともしらずに気の毒なことだ。


 俺たちは集落を走り、一路白犬族がいるというはずれの建物へと向かう。


「――!! ストップ!」


 索敵障壁(サーチウォール)に人型の感知あり! どうやら目的の建物の前に2匹ほどいるようだ。

 目的の建物は集落のはずれに建っており、その付近には身を隠せるものはない。

 

 とはいえ辺りは松明もなく、明かりはおぼろげな月と星の光のみ、少し道をはずれて回り込めば見つかる事はないだろう。

 俺たちは迂回して、建物の影に回り込む。


「中層に入った侵入者たちはもう仕留めたのかな?」

「まさかそこから非常鐘が鳴るとは思わなかったよなー。いやー、今日がこいつらの見張りでラッキーだったぜ」

「まったくだ、こんな夜にあの坂を登るのはしんどいからなぁ」


 ゴブリンの会話に加えて、壁をゴンゴン叩く音が聞こえる。

 持っている槍で壁でも叩いてるんかな?


 あいつは何気なくやってるが、中にいるだろう白犬族にとってはたまったもんじゃないだろう。

 それはさておき、一つ訂正させてもらうかね。


「残念、今日のおまえらは最悪の厄日だ、なんせ今から死ぬんだからな」

「なっ!? 誰だ!?」

「そこの角か……」


 奴の言葉はそこで途切れた。

 俺に気を取られているゴブリンに、逆側から回り込んだオルフェがチョークスリーパーを決め、そのまま首の骨をへし折ったからだ。


「――!?」

 

 奴の相棒もアマツのゼロ距離雷撃を受け、身をふるわせた後に倒れ伏す。

 

「よし、お疲れさん」

「こんなの模擬戦に比べれば、楽勝だよぉ」 

「歩いて近づいてもまったく気づかれんからね」


 ねぎらいの言葉に軽く答える二人。

 模擬戦だと死角から攻めても、みんな何らかの方法で察知してくるからねぇ。


「さて、扉は……これはかんぬき型か」


 かんぬきの他には鍵はかかっていないようだ。


「それじゃあ、ご対面といきますか」


 かんぬきをはずし、アマツとオルフェに両開きの扉を片方づつ開けてもらう。

 重い音を響かせ扉がゆっくり開き始めると、中に閉じ込められていた空気が漏れ出てきた。

 ちょっと臭い。


 扉が開いても中には明かりがないので、よく見えない。

 軽いざわめきが聞こえた気がするが、何を言っているかまではわからなかった。


「照明障壁」


 光量を抑えめにして俺の左右に光る障壁をだすと、光が徐々に建物内に染み入り内部を照らし出す。

 そこには、中にいた白犬族達の少しおびえと不安がまじったかのような視線が俺たちに注がれていた。


 ふむ、先ほどのやり取りの物音で不安にさせてしまったかな?


「やぁやぁ、遅れてすまん。ちょっと道が混んでたもんでね」


 軽口に合わせて軽く手を上げてみる。

 ざわめきが消え、しばしの静寂。


 そして――


「うぉぉぉーーー! ほんとに来たぁぁーー!」

 

 闇夜に響く歓声が旧厩舎に響く。

 あれ? ここに来ることを教えたはずだったけど、いまいち信用されてなかった?


「ほら、だから言ったじゃないっすか! 仙人様が来てくれるって! なんでみんな信じてくれなかったっすか!?」


 4人組の内一人が抗議の声を上げているようだが、興奮する白犬族の歓声の前にはあってないようなものである。

 まぁ、以前の行いを考えれば、ちょっとばかし信用度にかける情報だったかな?

 伝言を頼んだ相手が悪かったか。


 一応周りのゴブリン達は一掃してるつもりだが、闇夜に歓声は非常に遠くまで響くものだ。

 どこかで聞かれてるとも限らないので、口に指をあて静かにしてほしいというサインを送ってみる。


 その姿に状況を理解したのか、歓声がピタッと止まった。

 お、通じた。この辺のジェスチャーも地球と同じなんかね?


「それじゃあ。俺たちは邪魔にならないように逃げるっすよ! 仙人様、族長代理と子供達もどうかお願いするっす!」

「いや、マナミさんと子供たちは既に保護して、俺の仲間が守ってるから安心してほしい」


 俺の言葉に再びわく白犬族たち。中には抱き合って涙を流す男女の姿も見える。

 ひとしきり収まるのを待っていると、集団の中から一人の初老の男性がこちらに歩み寄ってきた。

 

「では、族長と子供たちはすでに逃げているのですか?」

「いや、子供たちが寝ちまったんでな。まだ牢屋にいる。今は味方を置いてきただけだ」

「そうですか、なら我々も共に子供たちの救出に向かいたいところですが……」


 そういって、男性は振り向き白犬族の方を見渡す。

 男性もそうだが、光に照らされた白犬族の人はみんなやせ細っていて、とても戦力としては数えられない。

 役に立てない事が悔しいのだろう。男性は口を強くかみしめた。


「中層までのゴブリンはもう大体倒してるぞ」

「え?」

「さっき道が混んでて遅れたって言ったろ?」 


 まぁ、コアさんとアディーラに任せた部分もあるけどね。

 

「なんと……」

「後は予定では皆さんには逃げて離れてもらうつもりだったけど、ちょいと作戦変更して白犬族のみなさんにも協力してほしい事ができた」

「はぁ、我々にできる事でしたら、囮でもなんでもやらせてもらいますが」

「そう、やってもらいたいのはまさに囮なんだよ」


 そして俺は現状の説明を兼ねて、作戦の概要を話した。

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