6-47 第二階層掃討作戦2 島津式釣魚術
コアさん達とわかれ、俺達三人は第一階層へと続く通路を走る。
正面にT字路があるが、索敵障壁があれば曲がり角で鉢合わせするリスクもない。
それどころか――
走りながら矢筒から3本矢を抜き取り、構えて放つ!
矢は一直線にT字路に差し掛かると、L字を書くように急カーブし曲がり角に消える。
そのままT字路を除き見れば、首に俺からのプレゼントを付けたゴブリンが3匹仰向けに倒れていた。
奇襲するつもりだったんだろうがモロバレだぜ!
「ここは右だな、少し迂回するぞ」
一度空から見てるので、ここの構造は大まかに頭に入っている。
本来ならそのまま真っすぐ第一階層へ行ってもいいのだが――
その時、後方でド派手な閃光が闇夜を切り裂いた。
さっきから何回も起きてんだよこれ。囮も兼ねてるとはいえ、アディーラさんはりきってるなぁ。
そのせいというかおかげで、ゴブリン達は真っすぐそっちに向かっているようだ。
だからちょいと迂回してやれば俺たちはギリギリまで気づかれずに第一階層に降りる門にたどりつけそう。
まぁ、このルートにも多少見張りのゴブリンがいるが、索敵障壁で常に先手をとれば声を上げさせる前に暗殺することなど実にたやすい。
特にさしたる苦労もなく、俺たちは第一階層へと続く門が見える位置にたどり着く。
門からは続々と第一階層から応援のゴブリンが障子掘を登ってやってきているようだ。
連中はわき目もふらず、真っすぐに閃光が起きた方……即ちアディーラがいる方へと走っていく。
「ご主人、どうするぅ?」
道は俺たちの位置からくの字に曲がった一本道、ここならちょうど通路に身を隠せるが、他に身を隠せそうな場所はない。か、
「よし、二人とも聞いてくれ」
ある程度ゴブリン達をやりすごし、作戦を伝えた後に俺は通路へと飛び出す。
視界は通ってるものの、距離もあるしこの暗さだ、早々見つかる事はないだろう。
腰の矢筒から矢を三本取り出し、空中に向けて放つ。
魔力誘導がかかった矢はブーメランのように、くの字を書いて飛んで行き――
門の見張りをしていたゴブリン数匹に突きささる。
魔力誘導を使えばこの距離に暗さでも当てることはたやすい。
ゴブリン達は矢が飛んできた方向に視線を向けて探しているようだが、そっちにあるのは何もない空。
連中が完全に明後日の方を探しているその間にも、次々矢を放ちゴブリン共を仕留めていく。
しばらくは完全に俺のペースでゴブリンを仕留められていたが……
10回も矢を撃った頃、門に身を隠した一匹が俺たちを見つけたようで何かわめいている。
それを合図に盾持ちを先頭にゴブリン達が突撃してきた。
おっと、ついにバレたか。バレちゃあしょうがない。
「ばれたからオルフェもやってよし!」
「はいよぉ!」
俺が矢を撃ってる間に、オルフェにはそこらへんにあった石や木片などを集めてもらっていたのだ。
そしてオルフェは手直にあったボーリング玉ほどの石を軽々と持ち上げると――
「せぇい!」
全力でぶん投げた!
もはやオルフェの全力で投げられたそれは、人間のそれを遥かに超えた……そう、まるでカタパルトで撃ちだされたかのような速度を持った投石である。
一直線に飛んだ石は、その進行上にいたゴブリンの盾を砕き、体を砕いても横向きの運動エネルギーを全て失うことはなく、そのままさらに数人を再起不能にしてようやく地面に落ちた。
恐ろしいのは、オルフェにとってはこれがただの投擲だって事なんだよなぁ。
「次ぃ!」
オルフェはまるで野球でもしてるかのようにポンポン石を投げてるが、ゴブリン達には人の頭より大きい石が、大砲で撃ちだされたかのように飛んでくるのだ。
おまけに今は深夜、飛んでくる石などほとんど見えない。
これに対するゴブリンの反応は様々。
飛んでくる石にビビッて逃げ出すもの、逆に人数が少ないとみて突撃するもの、あるいはこちらに矢を飛ばしてくるものなど、統制が取れているとはとても言えない状態である。
散発的にこちらにくるゴブリンなど、俺のいい的だ!
なんせ俺の矢は”弾切れ”が遥かに遠いからな。この竹は100発以上撃っても再生するんだぜ!
撃ってきた矢にしても、全然弾幕が薄いぞ!
この程度なら、集中しなくても簡単に障壁で完封できる。
ゴブリン達は状況的に戦力の逐次投入をしていると言っていい。戦果はまったく上がらず、被害だけが一方的に増えていく。
「ええい! 相手はたった二人だ! いい加減弾切れするから皆で突撃して一気にやるぞ!」
誰かの檄で動きがバラバラだったゴブリンが一斉にこちらに向かってきた。
うん、これは半分正解。俺はともかくオルフェの方は、集めたものが今のでちょうど弾切れだ。
そう、だからこそ。
「俺も弾切れだ! オルフェ、ずらかるぞ!」
「てったーい!」
わざと叫んで、くるりと踵を返し、後ろに向かって走り出す。
「しめた! ついに弾切れだ! 逃がすな! 追って絶対殺せ!」
「回り込んだ連中と挟み撃ちにするんだ!」
うん、確かに別の通路を通って俺たちの後ろに回り込もうとした連中は索敵障壁でわかっていた。でもそいつらは既になぁ――
そのまま、通路の角を曲がり、俺たちは追いかけているゴブリンの視界から消えた。
曲がった先に見えるもの、それは――
「アマツ先生! 大量に釣れたので後はお願いします!」
「はいはーい、うちに任せとき―!」
杖の先に人間大の水玉をこしらえたアマツと、その先に何カ所も体を打ち抜かれてこと切れているゴブリン達の躯だった。
俺たちと入れ違いに通路から姿を見せるアマツ。新手が見えた事に少々ゴブリン達の動揺が索敵障壁を通して伝わってくる。
しかし、アマツはそんな動揺など知らないとばかりに杖を腰だめにかまえると、自らが作った水玉をゴブリンの方に向け――
「”あめだま”」
つぶやいた瞬間。杖の先の水玉から水弾が撃ちだされる。
水弾は一直線の軌跡を描いて飛んで行き――
一番先頭のゴブリンの右肩を掠めて過ぎた。
「むぅー、またはずれたよー」
アマツが悔しそうにつぶやく。
レールガンの時もそうだったけど、アディーラとの模擬戦にてアマツは基本的にノーコンということが露呈したんだよね。
アマツはアディーラの三次元移動についていけず負けてしまった。
「まぁ、次が本番っちゃよー」
じゃあ、それを補うにはどうすればいいか?
「”あめあられ”」
先ほどと同じように水玉から水弾が発射された。
ただし、先ほどと違うのは次々と機関銃のように、水弾が撃ちだされているということだ!
それも避ける隙間がないくらいの密度で広範囲にな!
「ぐぎゃあぁぁ!」
暗闇にゴブリン共の悲鳴が響く。
アマツの魔力にって圧縮された水は、一発一発が銃弾並の威力がある。
あれを練習してたところを見てたが、分厚い木製のマトがハチの巣を通り越して粉々になってたからなぁ。
慌てて逃げ出そうとするも、彼らがいるのは身を隠すところもない通路。
先ほどとは圧倒的に違う弾幕に、なすすべなく体を打ち抜かれていくゴブリン達。
中には盾を構えてなんとか耐えるものもいるが、次々ぶつかる水の圧力に握力を奪われ、やがて盾を弾き飛ばされ同じ末路をたどっていく。
彼らが全滅するまで、さほど時間はかからなかった。
「うし、やっぱ雑魚は釣って倒すに限るな」
「ダンジョンもそうだけど、向こうから来てくれると楽だよねぇ」
先行く通路はアマツの水弾の余波と彼らの血と肉でひどいことになっているため、通路いっぱいに障壁を出してそれらを覆い隠す。
「それじゃあ、第一階層に向かおう。白犬族が俺たちの助けを待ってるからな」
「はーい」
俺たちは障壁を踏み越え、第一階層へと続く障子堀へと歩みを進めた。