6-46 第二階層掃討作戦1 奇襲
出口に近づくにつれ、外で何か騒いでる声が大きくなってくる。
それになんか鐘の音も鳴り響いてるかな?
ああ、こりゃ死体がばれたな。 まぁ、人質と合流して仲間を呼んだ後だから特に問題はない。
作戦の内容的にもこの第二階層に集めて仕留めるつもりだったし、むしろ好都合。
歩いている間にもアディーラが放つ魔力の光が、終点である出口の扉を照らし出す。
「よし、手はず通りに行くぞ。オルフェ、いっちょ派手にかましてやれ」
「オッケーご主人。アディーラも準備はいい?」
「いつでもいいでありますよ!」
オルフェの問いに対し、アディーラが指先に小さな光を作って答えた。
それを見たオルフェは、軽くトントンとジャンプした後、扉に向かって走り、じょじょに加速して――
「でりゃぁぁぁーー!」
掛け声と共に扉をけり破り、辺りに轟音と、扉や壁の破片をまき散らす!
「なっ!? なんだ!?」
周辺にいたゴブリンが音に驚き、反射的にこちらを向いている間に、オルフェは顔を覆い地面に伏せる。
「閃光弾」
そこにアディーラが放った小さな光が建物を抜けて空中を漂い――
「ほいっと」
さらに俺がオルフェが壊した扉を埋めるように、ピタッと黒い障壁を張る。
――直後。
「ぎゃぁぁぁぁ! 目が! 目がぁ!」
アディーラの放った光の炸裂を直視してしまったゴブリンの悲鳴が、外から聞こえてくる。
はっはっは。闇夜にこいつは効くだろう? オルフェが出した轟音につられて、閃光を見ちゃったのが運のツキだな。
「よし、各員ゴブリンを掃討せよ。見敵必殺だ」
「了解! 任務遂行であります!」
障壁を消したのとほぼ同時に、アディーラが自らの翼を広げ、一気に加速して外へと飛び出す!
俺たちが走って建物を出た時には、既にアディーラはゴブリンの密集地帯に突っ込んでいた。
アディーラがゴブリンの合間をぬってすれ違うたびに、彼女のもつジャマダハルがゴブリンの急所を的確に貫く。
彼女が通った道すじには、ゴブリンが折り重なるように次々と倒れ伏す。
「すごいねぇ、あれもうほとんど終わってるよねぇ?」
伏せて閃光を回避したオルフェが身を起こすまでのわずかな間に、アディーラは密集していたゴブリンのほとんどを刺し倒してしまった。
あ、今全員倒したな。
……ゴブリン達が反撃不能だったことを差っ引いても速すぎる。
「いたぞ! あそこだ!」
炸裂の光が目印になったのか、追加のゴブリンが隊をなして現れた。
得物を見る限り、槍隊のようだな。
いいぞー、探す手間がはぶけるから、どんどんこいや!
「主殿! ここは自分に任せるであります!」
ケモミミ娘に指示を出す前に、アディーラが文字通りゴブリン達に向かってすっ飛んでいく!
「うわっ! なんか飛んでくるぞ! 全員構え!」
恐らく部隊長格であろうゴブリンが部隊を指揮し、ゴブリン達は槍襖の構えを取る。
だが、アディーラは速度を落とすどころか、さらに加速する!
「迎撃!」
「おうっ!」
飛んでくるアディーラに対し、声を合わせて一斉に槍を付きたてるゴブリン達!
うん、普通に突っ込んでくる相手に対しては、それでよかったんだろうが……
アディーラは槍がふれる瞬間に急上昇し、穂先の上を飛んでかわすと――
今度は逆にゴブリン隊の中央に向けて急降下!
「げうっ!」
ダイブをするかのように突っ込み、中央に居たゴブリン2匹の首にジャマダハルを刺す!
さらに空中を滑空し、その勢いのまま奥にいたゴブリン達をも次々と刺しぬいて――
彼女が部隊を通り過ぎ、1回転して着地した時、すでにその部隊は半壊していた。
「くそっ! 相手は一人だ! さっさとやっちまえ!」
部隊長が檄を飛ばし、部隊が反転するその間にも、アディーラは素早く踵を返し、部隊の懐に飛び込んだ!
こうなると長い槍より、小回りの利くジャマダハルのほうが圧倒的に有利である。
味方が邪魔でうまく槍を振るえないゴブリン達の間をすりぬけ、先ほどと同じように自らの得物をゴブリンに次々突き立てていくアディーラ。
「うわぁぁぁ!」
時々散発的に反撃があるようだが、アディーラはその全ての攻撃を最小限の動きで避け、逆にカウンターの要領で、敵の急所にジャマダハルを突き入れていく!
うん、アディーラは千里眼に堕天モード中の暗視に加えて、さらに視力や動体視力も桁外れなんだよね。
とにかく彼女はいろんな意味で眼がいいのだ。
「くそっ! この化け物がぁぁ!」
「化け物とは心外でありますな」
破れかぶれで攻撃してきた隊長の槍をあっさりかわし、アディーラは隊長の胴に深々とジャマダハルを突きさした。
他の皆が手を出すまでもなく、一部隊をあっという間に壊滅させてしまった。ぱねぇ。
こりゃあ、この辺はアディーラ一人に任せても大丈夫かな?
「よし! 作戦変更だ! アディーラとコアさんはここに残ってゴブリン達をおびき寄せて殲滅しろ。でも第三階層には行くんじゃないぞ」
そう、ここは本来第三階層に行くための通路である。
そして連中にとって主力となる部隊は、第三階層にいるらしい。
しかし、そいつらがここに降りて挟み撃ちをしてくる可能性は低い。第二階層から第三階層へ続く道は、急な階段となっており、上から物を落として防衛するには絶好の地形になっているからだ。
他にも防衛に有利な仕掛けがあるので、連中にしてみれば、わざわざ降りて有利な地形を手放す理由はない。
……ということを事前に尋問して聞いているので、連中は無視してまだ籠っててもらおう。
「了解であります!」
「わかったよ、じゃあこれの出番かな?」
コアさんはそういうと服の袖から数枚のお札を取り出し念じる。
「式紙”黒狼””黒梟”」
そう言ってお札を辺りにばらまく。
投げられたお札は空中で膨らんでいき、数体の黒い狼と黒い梟を形どっていく。
黒梟は高く羽ばたくと、やがて闇に溶け込み、ほとんど見えなくなった。
「よし、視界共有も問題ないねっと」
コアさんはそういうと、何かに気が付いたのかあらぬ方を向く。
「あっちから新手が来てるようだね。これは私に任せてもらおうかな」
言うが早いか、黒い狼が一斉にコアさんの向いた方へ駆け出していったかと思えば――
「うわっ! なんだ!?」
「黒い狼!? なんでこんなとこ――うわっ! ――ぎゃぁぁ!」
薄暗い闇の奥からそんな悲鳴が聞こえてきた。
闇に紛れて接近した狼に、気が付くのが遅れたゴブリン達は、得物を構える暇もなくかみ殺されていく。
そう、これこそがコアさんの新しい力だ!
言ってみれば操信符で操る媒体を、コアさん自身の魔力を練りこんだ札で具現化させたものだ。
さらに式紙の五感を一時的に一部共有する事も可能だ。
普通の人間が複数の感覚共有なんぞやっても、情報量が多すぎてとても使いこなすことはできない。
これはダンジョンコアと意識を共有していたコアさんだからこそ使いこなせる芸当だ。
「アディーラはコアさんの指揮下に入れ。アマツとオルフェは俺と一緒に第一階層に向かうぞ」
黒梟による俯瞰視点を手に入れたコアさんなら、囲まれることなくゴブリンを適切にさばいてくれるだろう。
ついでに囮にもなってもらってる間に、残りの白犬族の救出に向かおう。