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6-43 潜入

 森を飛び越え、俺たちは第二階層の崖下へとたどり着く。

 空には変わらぬ満天の夜空、そして新たに第二階層の見張り台の光が俺たちの頭上でともっていた。


 崖下にも数本の松明が等間隔で置かれている。

 あれを不自然に消したり遮ったりすれば、上の見張り台にいる連中に気が付かれるのだろう。


 かといって無視して登ろうとしても、どうしても照らされて目立つ。

 なるほど。思ったより考えられているな。


 だが無意味だ。


擬態障壁(ミミックウォール)


 頭上に出した障壁で俺たちの身を隠す。

 さすがにまじまじと見られたら違和感も出るだろうが、戦争中でもない自拠点の夜の見張りなんざ適当に見てるだけだろう。


 螺旋階段風に障壁を作り、俺とアディーラは少しずつ崖をのぼる。

 やがて第二階層が索敵障壁(サーチウォール)の範囲内に入り、なんとなくではあるが、中がどうなっているかわかっていく。


「歩哨がいるみたいだが、そこまで多くはないな」

「なら、やっちまってもいいんじゃねえか?」


 そうだな、死体も隠しておけばそうそう見つかる事もないかな?

 だが、今の位置関係だと見張り台にいる二匹と、歩哨の二匹を同時に始末しないと騒がれるな。


 矢筒から二本矢を手に取る。


「よし、歩哨は俺がやる。見張り台のほうは任せた。静かにやってくれよ」

「誰にものいってんだ。こんなん余裕だっつーの」


 まーね。今の君なら余裕だろうよ。


「”無音の闇(サイレンスダーク)”」


 ぽつりとアディーラが漏らすと、彼女の姿が闇につつまれる。

 

「お頭、いつでもいいぜ」


 この闇は音を逃さないので、アディーラは念話で語り掛けてくる。

 それに答えて俺も矢をつがえ、弓を上空へとかまえる。


「ステンバーイ……ステンバーイ……」


 巡回している歩哨が、見張り台から背を向けるのをじっと待つ。


「ゴゥ!」


 合図と同時に二本の矢が闇を切り裂いて飛翔し、真っ黒い闇が見張り台めがけて真っすぐ飛んで行く。

 堕天モードの彼女は眼が”千里眼”から”暗視”に変わるので、彼女自身が闇につつまれていても問題なく見えるらしい。

 まぁ、そうできるようにしたんだけど。


 闇は見張り台を包み、一瞬だけ膨張しすぐに消える。

 見張り台の松明がほんの刹那の間だけ闇に遮られた事に違和感を覚えた歩哨が後ろを振り向き――


 その首に俺の放った矢が突き刺さる。


「グッナイ」


 狙撃に成功したらこういうんだってばっちゃが言ってた。


「周りには誰もいねぇな」


 自らが仕留めたゴブリンを音を立てずに床へと置いたアディーラが辺りを見渡して伝えてきた。

 それを受けて俺は障壁を蹴り、一気に崖上へと登る。

 

 死体を目立たないところに隠し、俺たちは先に進む。

 索敵障壁を使えば歩哨に気づかれないルートも簡単に選べるし、闇に紛れて頭上を通るという手もある。

 なんなら擬態障壁で身を隠してもいいが、そこまで見張りも多くはない。

 

 特に苦労する事もなく、マナミさん達が囚われているだろう漆喰(しっくい)の建物の前に到着した。

 こうしてみてみると、窓も扉も小さく、中から人が出にくそうな構造になっている。

 おまけに、山の急斜面にくっつくように作られてるって事は、


「よし入るぞ」


 扉に体をくっつけて押してみると、扉はゆっくり動いた。

 どうやらカギはかかってないらしい。


 スキマが出来た事で、索敵障壁(サーチウォール)を室内に張ってみるが、近場には人間の感知なし。

 アディーラに入る様サインを送り、そっと体を潜り込ませる。


「暗いな」


 見える範囲に光源はない。扉を閉めたら完全にまっくらだ。

 とはいえ索敵障壁があれば、明かりがなくても大体何があるかはわかる。

 

 どうやらここはもともと洞穴だった物を、牢屋に改造した場所のようだな。


「しんきくせぇ場所だぜ」

「牢屋なんてそんなもんだ。進むぞ」


 ともあれ歩き始めてみたものの、結構分かれ道があるな。


「お頭ぁ、これどっちにいきゃあいいんだ?」

「ちょっと待っててくれ」


 いつもは俺を中心に円形状に出してる索敵障壁を、細長い長方形に変えて進路に出す。

 一つ一つの行き先を索敵して――


 んー。これはなんか木箱っぽいなぁ。倉庫もかねてるのかここは?

 いや、比率が違うな。他にもそれっぽいものがあるあたり、これは倉庫だったところに監禁できる場所を作ったようだな。


「お! この通路の先になんか動いてるものがある! 多分そこだろ」


 この距離だとさすがに何かが動いてる程度にしかわからないが、一番可能性が高いのはそこだろう。


「おっしゃ、道案内は任せたぜお頭ぁ!」


 灯りをつけると向こうに気が付かれるので、闇の中を俺たちは歩く。

 いくつかの分岐をこえた頃、奥に明かりが見えた。


 それに混ざっているかのように声も聞こえる。

 こいつは 泣き声か? しかも赤ん坊のだ。

 

 反響して聞き取れないが、何かの話し声も混ざっているようだ。

 歩いて距離をつめ、索敵障壁(サーチウォール)の精度を上げていく。


 格子を挟んで手前に二人、奥にたくさん人がいる。

 奥の人たちは体格を考えると数人の大人と多数の子供っぽいな。

 これは……間違いないな。


「よし、この道でビンゴだ。急ぐぞ」

「あいよ」


 俺とアディーラは音を立てないように先を急ぐ。


「――らせろ!」


 なんとか聞き取れるくらいまで近づいたか。

 ふむ、どうやら赤ん坊が泣いているのが、見張りのゴブリンの癪に触っているようだ。


「いい子、いい子だから泣き止んでねぇ」


 索敵障壁(サーチウォール)の感知だと体格的に大人が赤ん坊をあやしてるようだが、泣き声は一向に止まる気配がない。

 そりゃまぁ、こんな環境じゃなぁ。泣き止めって言う方が無理じゃね?


「なぁ相棒。うるさいから、もうやっちまおうぜ?」

「そうだな。ずっと見張りやってる俺たちの身にもなれってんだ」


 おっと、こいつはまずい展開だ。


「待ちなよ! 誰も殺さないって約束したからアタイ達はおとなしく従ってんだよ!」


 お! この声はマナミさんだ。今んとこ無事でよかった。


「はっ! そんな約束俺は知らねぇなぁ!」

「別におまえらがいなくなっても、奴隷共は勝手に働いてくれるしな」

「くそっ。この外道共が! 今に罰が当たるよ!」

「はっ。そんな負け惜しみなんざなんともねぇな」


 ゴブリン達はマナミさんの発言を鼻で笑ってながしたが……

 よっしゃ、罰を当てるのは俺に任せろ!

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