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6-39 尋問のチートアイテム

 防衛エリア最奥の一角にある即席で作った牢屋に向かう。

 そこには先ほど捕えて置いたゴブリン2匹を収監してある。


 年季も何も作ったばっかなので、牢屋というには大分きれいである。

 なので、こちらとしても不快感なく尋問ができるってもんだ。


 こいつらからも情報を引き出して戦闘や救出を有利に進めたい。

 そう思って先ほどから尋問をしているわけだが……


「だから、さっきから話してるじゃねえかよ。ざっと500人だよ。俺たちの人口はよぉ」

「そうそう、正直に話したんだからさっさと解放してくれよ?」


 ちぇっ。この嘘つきめ。

 てめえらの言ってることは、アイリの話とつじつまが合わないんだよ。


 これは深刻な問題である。例え拷問して聞き出しても、それがほんとかどうかはわからない。

 現状確かめる手段がないため、こいつらの証言はまったくアテにならない。

 くそう、やっぱりアイリの話だけを信頼するしかないか?

 

 でもなぁ、せめてマナミさんと子供たちが捕まってる場所だけは知っておきたい。

 人質の場所を知ってると知らないじゃ、救出成功率はダンチだし……


「それよりよぉ。俺ぁ腹が減ったぞー」

「そうだぜぇー。いい加減なんか食えるもんくれよぉー。あ、あのカンパンってやつをくれよー」


 思考を遮るように飯を要求するゴブリン達。

 でもなぁ。交換条件で出しても結局その情報がほんとかどうかもわからんしなぁ。


「ふむ、確かに食事をするには頃合いだね」


 それまで俺とゴブリンのやりとりをただ聞いているだけだったコアさんが、ここで初めて口を開く。


「よし、ここは()()()()()もらおうか。何か作ってくるよ」

「できればとびきりうまいもんにしてくれよー」

「そうそう、ここの飯はうまいって話だからな」


 いちいち癪な反応を返す連中だな。

 だが、そんなイラつきも、コアさんがゴブリンに見えないようにウィンクしたことで吹っ飛んだ。

 


「待たせたね、食事を持ってきたよ」


 そういって再び姿を見せたコアさんは、おぼんにフタをしたドンブリらしきものを、4つ持ってきてくれた。


「さて、最初は君たちが好きなのを選びたまえ。私たちは残ったものでいい」


 コアさんはそういうと、まずはゴブリン達にドンブリを差し出した。

 半信半疑ながらもゴブリン達がドンブリを選ぶと、コアさんは残った二つをこちらに持ってくる。 


「はいこれマスターの分。()()()()よくかんで食べるんだよ」

「? ああ、ありがとうな」


 ん? コアさんは食べ合わせには結構うるさいが、食べ方についてはあまり口にしないから珍しいな。

 まぁいいや。


 障壁で簡易的なテーブルとイスを作り、コアさんからどんぶりを受け取ってフタを開ける。

 中の物をおおい隠すようにフタの裏に潜んでいた湯気が昇天し、ご本尊様が姿を見せる。


 後光のように黄色い卵をまとわせ、自身も黄金の衣に包まれたそれはまごうことなきカツ丼!

 コアさん、いま尋問中だからってベタ過ぎない? 


 でも超うまそう! 俺も腹減ってたからにおいだけで、しんぼうたまらんわ!

 まずは卵がたっぷりかかったカツをご飯と一緒に口に入れる。


「うーまーいーぞーぉー!」


 舌に触れた瞬間にかんじるたまごの甘味に、ごはんのたんぱくながらもしっかりした甘味がたまらない。

 そこに遅れてカツの衣のサックリとした感触、噛むとこぼれる肉汁にしっかりとした肉の味。


 これだけでも十分ハイクオリティだが、特にたまごに混ぜられた具材がさらなる高みに到達させている。

 この刻まれた、やたら歯ごたえのいい()()()のようなものが特においしい――


 ん? キノコ? このキノコはまさか!?


 ちらりと見ると、気づいたねと言いたげなような視線を返すコアさん。

 そのまま視線を横に移動させ、こっそりゴブリンをのぞき見てみる。


 彼らは毒を警戒していたのか、俺たちをずっと見ていたようで、カツ丼にはまだ手をつけていなかったが、俺たちが食べ始めたのを見てフタを開けて――

 

 一口入れた瞬間、空腹だったのも手伝ってか、ガツガツ食べ始めた。

 おそらくこいつを完食すると、ゴブリン達は――


 

 うん、予想通りだった


「うめーうめー、超うまかったー! ハーッハッハァー!」

「何もかもがうまい! こいつもうまい!」


 カツ丼を完食してやたらテンションが高いゴブリンと、カラになった丼ぶりを舐めまわす酔っぱらったゴブリンが出来上がった。

 

「うんうん、完食してくれて私は嬉しいよ」

「コアさん、卵にスピリタケをまぜたな」


 あのキノコは短時間に1本まるまる食うと、強い酩酊状態を引き起こすからなぁ。

 どうやらゴブリン達も例外ではなかったようだ。


「食べさせるタイミングを狙ってたけど、むこうからご飯の要求をしてくれて助かったよ」


 コアさんはそういうと鉄格子の前に立ち、両手を叩く。


「はい、君たちこっちに注目」

「あー?」


 完全に酔っぱらっていたゴブリン達は無警戒にコアさんを見ると、コアさんは指をくるくるさせる。

 もともと酔って濁っていたゴブリンの目がさらにトローンとしてきた。


「これでよし。さて君たち、先ほど言っていた事は全部ウソだよね?」

「はーい。全部ウソでーす。適当にいってもばれっこないって思ってましたぁー」

「そうそうー。ほんとのところはぁ――」


 脳が溶けたかのようにベラベラしゃべるゴブリン達。

 この情報は……アイリが言っていた事と整合性が取れている。


 つまり、かなり信頼性が高いということだ。メモしておこう。


「じゃあ次、白犬族の族長と子供たちはどこに監禁してるのかな?」

「ええっと、それは確か――」


 言った! 言いやがった! 拠点の縄張りもすでにだいたい吐かせてるし、これで相当楽になるぞ!


 その後もボスの情報やダンジョンの場所、ついでにこいつらの黒歴史などいろんな事を聞きだしていく。

 うん、まぁ黒歴史をペラペラしゃべるあたり、こいつらが言ってることはほぼ真実なんだろう。

 君たちもヤンチャしたんだねぇ……


 自白カツ丼、恐るべし。


「これで大体聞きたいことは聞いたかな? マスターは何かあるかい?」

「いや、特にもうないな」


 作戦を立てるに必要な情報は十分得られた。後はこれを元にシミュレーションを繰り返すだけだ。


「じゃあ、そろそろカツ丼代を体で払ってもらおうかな」


 コアさんはそういうと腰に差した刀を抜く。

 彼らには文字通りDPとなって払ってもらうわけか。腎臓1個よりよほどお高いな!


 まぁ、俺も止める気は毛頭ない。

 先ほどこいつらの拠点を攻略する事が決まったわけだし、放逐しても周りは荒野だから、装備がなけりゃ行き倒れるしかない。

 それならここでDPになってもらったほうが、彼らにとってもはるかに有意義だろうからな。


「そいじゃ、後任せるわ。俺は作戦を考えるから」

「はいはい、まかされたよ」


 俺が牢屋を後にすると、間もなく重いものが床に倒れる音が牢屋から聞こえ、同時にゴブリンのテンションの高い笑い声が消えた。

 彼らのDPもしっかり有効活用させてもらうとしよう。 

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