6-38 新たな仲間
召喚準備ができた事を念話で伝えると、ククノチに連れられたアイリさんを含めすぐに皆が座敷に集まってきた。
みんなやっぱり新しい仲間は気になるよな。
アイリさんもご飯を食べ、お風呂に入り、大樹の治療を受けた事で大分血色が良くなっている。
一応まだ横になって休んでもらってもよかったが、病人ではないからと固辞されてしまった。
「よし、さっそくニューフェイスにご登場してもらうとするか!」
召喚承認っと!
いつも通りどこからともなく粒子が現れ人型に形どっていく。
「おー!」
アマツが感嘆の声を漏らす中、徐々に光が収まると俺が召喚ウィンドウで作ったままの人型が姿を見せる。
「背中の白い翼がキレイですねー」
「銀と黒の髪もステキだよぉ」
口々に感想をもらすケモミミ娘達。
だが個人的に一番感想を聞いてみたい人物はまだ黙ったままだ。
「アイリさんは召喚を見るのは初めてかい?」
「人が出てくる事を見るのは初めてです。でも今までに植物の種を授かったことを思い出せば、納得はできますね」
なるほど、種も人も命がある生物という点では変わらないか。
適当に雑談をしている内に召喚も終わったようで、ヴァルキリーがゆっくり目を開ける。
開けた視界に違和感があったのか、自らの顔にかけられたメガネ……薄いピンク色のアンダーリムメガネをクイッと持ち上げる。
「この世界にようこそ。そのメガネ良く似合ってるぞ」
ガチ戦闘担当としてよんだはずだが、メガネのおかげで知性が三割増しに見える。
やはりこの選択は間違ってなかった!
「っと、名乗るのが遅れたな。俺がこのダンジョンでマスターをさせてもらっている者だ。よろしくな」
俺の自己紹介に続くように、順番に名乗るケモミミ娘達。
ヴァルキリーは一人一人の名乗りを覚えるようにうなづくと、
「こちらこそ、これからどうぞよろしくお願いします」
深くお辞儀をした後、俺の前にひざまずく。
「主殿、どうぞなんなりとご命令を!」
そういった後、頭を下げたまま微動だにしないヴァルキリー。
え? これはもしかして俺の命令を待ってんの? なんつーか生真面目なやつが来たな。
前に呼んだ三人、コアさんも入れて四人、俺も入れりゃあ五人、全員フリーダムなやつらばっかだから逆に新鮮だわこういうタイプ。
「お、おう。それじゃあ早速一つ」
「は! 何でございましょう!?」
こちらを見上げたヴァルキリーに見えるようにある場所に指をさす。
そこにはポータルと――
「座敷で呼び出した俺が悪いんだが、ここは土禁なんだ。つーわけでまずそこで靴を脱いでくれ」
「は、はぁ」
気が抜けたような返事をするヴァルキリー。
最初の命令がこんなのでごめんな。
♦
靴を脱いだ後、また俺の前にひざまずこうとしたヴァルキリーをさとしてテーブルに座らせた後、俺たちもテーブルを囲んで座り、お茶菓子をつまみつついきさつを説明する。
「成程、事情はおおむね理解いたしました。自分の任務はそのゴブリンとやらの殲滅ですね!」
説明が終わると、すぐにでも飛んで行きそうな勢いでヴァルキリーがうなづく。
「最終的にはそうなんだが、その前に君にはやってもらわないといけないことがある」
「なんなりと!」
ヴァルキリーの早く命令こいこいオーラがまばゆい。
「うむ、ではこれより貴様には地獄のブートキャンプを受けてもらう!」
ヴァルキリーをビシッと指さし宣言する。
だが、当の本人は眼をキョトンとさせ、
「偵察などではなくて、訓練でありますか?」
「そうだ」
「自分、これの使い方も心得ておりますが」
そういうと腰のホルダーに収まっていたジャマダハルを手に取り見せる。
やべぇ! 肉厚な刃がカッコイイなこれ!
……じゃなかった。実物を見るのは初めてだから、ちょっと興奮しちまった。反省。
「スキルを持たせたからそれは当然だ。だがな、戦闘経験がないとあんまり役に立たない事も実証済みなんだよ」
「そうなんだよねぇ」
オルフェが苦笑いしながら肯定し、自らの苦い思い出をヴァルキリーに言い聞かせる。
「今回は特に攻めに行くからな。ぶっつけ本番は避けたいんだ」
「成程、そういう事でありましたら喜んで!」
納得がいったのか、威勢のいい返事をするヴァルキリー。
「宜しい! それではククノチ教官! アマツ教官! オルフェ教官! 今からヴァルキリーを模擬戦でたっぷり揉んでやってくれ! 半殺しくらいまでは思いっきりやってよし!」
「え!? 半殺し!?」
「はいー、任されましたー!」
「よし、じゃあさっそくいこうかぁ!」
ククノチとオルフェに両肩をつかまれ、テーブルから引っ張り出されるヴァルキリー。
そのままズルズルとポータルまで連行されていく。
「待つであります! そんな大ケガを負ったら戦えなくなるであります!」
「ああ、それは大丈夫。ククノチが治癒魔法使えるし、再起不能になってもそれを治す回復薬もあるから」
安いモノとはとても言えないが、短期間でモノになってもらわないと困るから、金……もといDPは惜しんでられないところなのよ。
「それは大丈夫とは言わないでありますよぉぉー!!」
ヴァルキリーの悲鳴ともいえる抗議は、ポータルを通過したことで消えていった。
テーブルの上にあった茶菓子を口に放り込んだアマツもポータルから出ていき、座敷には俺とコアさんとアイリさんが残される。
「さて、こっちは作戦を練るぞ。そのためにはまず情報だ。まずはアイリさんが体験した情報の精査を――」
「仙人様?」
話をさえぎったアイリさんが俺を正面から見据える。
なになに? どしたの?
「私はもうすべてを捧げた身ですから。どうぞアイリとお呼びください」
……え?
やだなーもう、何言ってんの?
あー、これはわかってないんだな。
「いやいや、取引は打ち切ったでしょ。これはあくまで俺たちのためにやることだから、対価は別に――」
「仙人様方には二度も私たちの部族を救ってもらうのですから、この身一つくらい安いモノです」
「いやだから。アイリさん?」
「アイリとお呼びください」
にこやかに言ってるが、目が本気だ。
あれか!? さっきので変な覚悟を決めちゃったのか!?
「あ……アイリ」
「はい、ゴブリン達の拠点の話でしたね。私が知ってる限りの事を話します」
アイリさん、いやアイリは俺の返答をにこやかに受けて、とうとうと語りだした。
……はずだ。
なんつーか全然話が頭に入ってこない。
だが、重要な情報だ。聞き漏らしは許されない。
これから連中からも話を聞かないといけないからな。