6-37 議会は進化すれど進歩せず
教室くらいの部屋に5人の男が円陣を組んだようにぐるりと胡坐をかく。
みな同じ顔に、色違いの鎌倉武士が来ていたような直垂を着こなし、時が来るのをじっと待つ。
部屋の装飾も中世日本くらいの装いなのに、異様に部屋が明るいのはここが現実世界ではなく、脳内の世界だからなんだろう。
「ではこれより、ケモミミ評定をおこなう」
上座に座る赤い色の直垂を着た男がそう宣言すると、他の男たちが待ちかねたように目を開く。
「今回はダンジョンの外に出て、なおかつゴブリンの拠点に討ち入る事が決まっている。必然的に今回求められるケモミミ娘は、空を飛べてなおかつ強い種族となる」
ここで言葉を切り、各々の顔を見渡す赤い服の男。
「各々それらを踏まえ、有力な種族を述べてほしい」
「並列思考で思考速度も約5倍ですからな。きっと妙案もでるでしょう」
赤い服……いや、並列思考Aに賛同したのは青い直垂の並列思考Bだった。
そう、前回の議会では大勢いた脳内議員たちは並列思考によって集約され、5人の男達となったのだ。
「拙者、ハーピーを推しまする」
「否、ハーピーは腕が羽になっておる。武器が持てないのはいかがなものであろうか?」
「では、腕もある鴉天狗はどうだろうか?」
「悪くはない。ただ、得意能力が妖術なのはコアさんと被っているので、もう少し戦術を幅広くしたいところではありますな」
「むぅ、ならば――」
意見がでては却下され、対案が出される。
一見すれば進展がないように見えるが、集約された思考は少しずつではあるが確実に結論に向かっていく。
「今回求められてるのは戦に強い種族、ならばまさに戦乙女と書くヴァルキリーなぞどうであろう?」
「確かに、ヴァルキリーならば戦闘能力も申し分ない」
「ヴァルキリーにはケモミミがないので、つけなければなりませぬな」
真剣に頭を悩ます五人の男達。やがて一人の男が左手を右手でポンと叩く。
「某ピッタリなケモミミを思いつきましたぞ、”虎に翼”という言葉があります。ここはトラミミ一択ではござらぬか?」
「おお、それはまこと妙案にてござる!」
「拙者も賛同いたす!」
本来一番の難問であるはずの”どんなケモミミをつけるか?”があっさり片付き安堵する男達。
ここが片付けば、後は細かいディティールを決めるのみである。
「虎娘といえば金髪ですが、コアさんとかぶるのでここは白虎をイメージした銀髪に黒メッシュを入れてみるのはどうだろう?」
「戦乙女といえば銀髪なイメージがありますし、宜しいのでは?」
「でしたら拙者。褐色の肌を希望いたす!」
「褐色娘はまだおりませぬし、宜しいのでは?」
「なんか北欧から一気にインドっぽくなりましたが、ありよりのありですね」
姿が決まれば次は装備である。
「インドっぽいなら武器はいっそジャマダハルなぞいかがであろう?」
「狭い箇所での戦闘も想定されますし、宜しいのでは?」
「後は少々鎧が重そうですし、軽量化してその分を肉体強化に回しませぬか?」
「空も飛びますし、宜しいのでは?」
「おぬし先ほどから”宜しいのでは?”しか言っておらぬのー」
「反対する要素がありませぬからな」
並列思考Aのツッコミに素知らぬ顔で答える並列思考D
「何も決まらないよりはマシでしょう。後は能力を決めれば終わりだからな」
5人の打ち合わせは続く――
♦
「では、これにて決まりじゃの」
「異議なし」
「今回もなかなかおもしろい能力がつきましたの」
円陣中央にヴァルキリーの全体像が映され、男たちが満足げにうなづく。
まばゆい銀髪に対比するかのように映える黒メッシュ、引き締まった体躯を褐色肌がまとい、さらに腰にジャマダハルを備えた軽量鎧で武装されている。
そして何より銀のトラミミとしっぽが素晴らしい!
ヴァルキリーゆえに神々しさすらある!
「さて、それでは能力を決めた際に後回しにした事項を決めましょうか」
「ええ、能力発動のためのギミックアイテム。これだけは意見が割れましたからな」
「それでは、並列思考A殿から改めて主張をどうぞ」
少しだけ、ほんの少しだけ部屋の空気が張りつめる。
時には妥協も入れた男達だが、どうしても譲れない部分はあるのだ。
並列思考Aはゆっくり深呼吸すると、やがて意見を語りだす。
「よいか! ヴァルキリーに似合うメガネは丸眼鏡だ! 丸眼鏡こそ基本にして王道! ヴァルキリーだぞ! 天使と言っても過言ではない! そんな彼女には優しそうに見える丸眼鏡こそふさわしいのだ!」
「否! 否否否! 眼鏡には知性! そう、知性が求められるのです! つまりアンダーリムこそ彼女にふさわしいのです!」
「おぬしらはギャップ萌えというものをわかっておらぬ! よいか! 眼鏡をはずした素顔の瞬間にこそときめくものがあるのだ! もっともギャップを際立たせるメガネ、それは瓶底眼鏡であろう!」
「いえ、ここは戦闘の実用性を重視するべきです! 視線を悟らせないのは立派なアドバンテージでしょう! 即ち、ここはサングラスであるべきです! ミステリアスな感じがでるのもポイントでしょう!」
「拙者はメガネはないほうがいいと思うでござるがなぁ」
「「「「それはない!」」」」
一人の意見が四人に却下されたものの、他は誰も譲る気はないらしく敵意を込めた視線で威嚇する男達。
「仕方ないでござるな。拙者が立会人を務めるゆえ、戦いで決着をつけてはどうかのう?」
険悪な空気を振り払ったのは、先ほどメガネなしを却下された並列思考Eだった。
「わしらはそれで構わぬが、おぬしはそれでよいのか?」
「拙者の意見は全員に却下されたゆえ、すでに脱落しておる。お気になさらず」
並列思考Eはそう答えると、席を立ち部屋の隅へと歩みを進める。
他の男達も立ち上がり、己の敵をけん制する。
「では、最後まで立っていた者の意見を採用とします。存分に奮戦なされい!」
並列思考Eが開戦をつげると、雄たけびをあげ、拳を振り上げる男達!
決着はしばらくつきそうになかった。
古典議会から中世評定にレベルアップ
段々ネタが切れてきた!