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6-32 ケモミミ娘達の殺陣4

 コアさんはオルフェの後を追うように駆けると、オルフェが空けた穴から突入し、周りのゴブリンを切り払いながら、さらにゴブリン達がいる奥へと向かう。


 普通ならここで”出過ぎだぞ! 自重しろ!”の念話の一つや二つを送ってやるところではあるが……

 一対多数。敵はコアさんの戦い方を知らない。それなりに知性がある生物という三条件がそろっているこの状況は、コアさんにとってはこれ以上ないくらい好都合なんだよなぁ。


「幻術 月纏い」


 ポツリとつぶやいたコアさんの体が幾重(いくえ)にも重なって見えたかと思うと、それぞれが意思をもったかのように分身し、手近なゴブリンに向かって走る。


 ターゲットにされたゴブリン達が慌てて得物を構えるが、コアさんズはかまわずに突進する!

 それぞれの得物にコアさんが触れると、コアさんズの輪郭が崩れた。


 そのまま白い煙と化し、得物を抜けて本体を覆い隠す。


「なっ! なんだ!? 何も見えねぇ!?」

「アブねぇ! 武器を振り回すなよバカヤロウ!」


 煙に巻かれたゴブリン達が動いても、煙はピッタリついて覆い隠してるから、焦るのも無理はないけどなぁ。

 やがて徐々に煙はちらばり、ゆっくりシルエットが見え始める。

 だが、そのシルエットにはケモミミとシッポがついていた。


「えっ!?」


 煙がはれた時、そこに立っていたのは5人のコアさん。


「まてまてまて! やめろやめろ! 俺だ俺!」


 反射的に攻撃されそうになったコアさんが、自分を指さしてわめく。

 その声は本物のコアさんとは似ても似つかない。つまりこいつはゴブリンだ。


 それをきっかけに、他のコアさんも自分がゴブリンだという事を必死にアピールし始める。

 周辺がざわつく中、一匹のゴブリンが声を張り上げ、

 

「落ち着け! どうやら声は変わってないから、順番に声を出せば――」


 隊を落ち着かせようとしていたゴブリンの首が、突然ポロリと落ちる。


「うわっ!? うわっ!?」


 良くも悪くも注目を集めてしまっていたため、首が突然落ちた事に周りのゴブリン達がざわつく。


「ぎゃっ!? てめぇ! 何しやがる!」

「えっ!? 俺は何もしてないぞ?」

「いや! 俺は見てたぞ! 確かにこいつはおまえを殴った!」

「何適当なこと言ってんだこの野郎!」


 そこに首が飛んだゴブリンの反対側、言いかえれば最もゴブリンの視線がない場所からそんな声が上がる。

 俺は監視ウィンドウの俯瞰(ふかん)視点で見てたからわかるが、確かにあいつは持っていたメイスで前に突っ立っていたゴブリンを殴っていた。


 まぁ、さらにその前にメイスをもっていたゴブリンに、幻術にまぎれてこっそりお札をつけたわるーい狐がいるんだけどね!


 あのお札は無意識で行動させる「体動符(たいどうふ)」だな。

 あれ俺も実験台にされた事があるけど、効果自体は結構おもしろい。


 書庫でイスに座って読書に熱中していたら、こっそり張られてねぇ……

 草を踏んだ感触を感じて本から目を離したら、草原エリアに突っ立っていたんだよなー。


 いやー、あんときはもう驚きを通り越して笑っちゃったね。

 頭の中はもう”ありのままに起こったことを話すぜ”状態だった。


 コアさん曰く、体動符は”別の何かに気を取られているほど”効果絶大らしい。


 あの札の最大の特徴というか怖い所が”張られた本人にはまったく自覚がない”という所だろう、

 現にあのゴブリンも”首が落ちたゴブリンをじっと見ていた”としか覚えてない。


「てめぇの得物を見てみろ! 血がついてるじゃねえか!?」

「えっ!? なんで!? 俺は本当に殴ってないぞ! 嘘じゃない!」


 ケンカの声が大きくなり、嫌でも注目を集める。

 それに比例するかのように、周りのゴブリン達にも不可解な事が起こり始めた。


「うわっ! また首が落ちたやつがいる!」


 ある所では、ケンカを遠巻きに見ていた数人のゴブリン達の首がポロリと落ちる。


「ぎゃふっ!」

「この女狐ドサクサに紛れて後ろから刺しやがった! こいつが本物だやっちまえ!」


 別のところではコアさんの姿をしていた一人が手直にいた別のゴブリンを刺し、即座に他のゴブリンから袋叩きにされた。

 地面に倒れたコアさんの姿が崩れ、元のゴブリンの姿へと戻る。


「違った! くそっ! あの女狐め、どこにいった!?」


 そう叫んだゴブリンが白い煙に包まれ、また新たなコアさんの姿に変わった。


「わああぁー! 首なし死体が動いてるぞー!」


 首がない死体が起き上がるさまは、タネをしっていてもなんというか精神にクルな。

 あんまり見ないようにしよう。


「うわぁー! 化け物だ! あっちに化け物がいるぞぉ!」

「お前は何を見てるんだ!? そんなのいないぞ!」

 

 何か恐ろしいものが見えているのか、恐怖に顔をゆがめたゴブリンがわめきちらす。

 幻覚だね、なんか悪い幻術でもキメられたかな?


「そうだ! 周りがみんな死ねば、俺は生き残れるんだ!」

「そうか! 襲われる前に襲えば襲われない!!」

「おまえら何言ってんだ!? 気をしっかり持て! やめろ、槍をこっちに向けるな!」


 背中にお札をはられたゴブリンが他のゴブリンに向けて槍を振るう。

 うん、どれもこれも全部妖狐の仕業じゃ。


 乱心符が効くやつがいるほど場が混乱してしまっては、もはや集団としては機能しない。

 こうなるとこの人数の多さは、もはや混乱を増長させる足かせへと変わっていた。


 俯瞰視点で見ると、目立たないように移動して、いく先々で混乱を引き起こしてる怪しいゴブリンが一匹いるんだが、混乱の真っただ中にいるゴブリン達は気が付く様子がない。


 ”周りの味方が突然自分に襲い掛かってくるかもしれない。”

 そんな恐怖がゴブリン達の中に染みわたっていく。


 そして――


「うわぁぁぁぁ! くるな! くるなぁ!」


 そう叫びながら、たまたま自分と目が合っただけの味方を、自らの武器で倒したゴブリンが出たのを皮切りに――


 あちらこちらで同士討ちが始まった! 

 

 こうなってしまえば、もうコアさんの独壇場である。

 今までは目立たないようにこっそり攪乱(かくらん)をしていたが、ここからは手近なやつを片っ端から切捨て、お札を貼り付け操り、さらに混乱をあおっていく。


「さすがコアさん、見事な手並みだね」

「敵の数が多いなら、敵に減らしてもらうのが一番楽だからね」


 一の兵で千の敵を操って自滅させる。

 これも一騎当千って言えるのかな?



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