6-31 ケモミミ娘達の殺陣3
ルール無用のデスマッチが始まった!
先手をしかけたのはオルフェ!
俺には見慣れたジンガステップを交え、右左へと翻弄しながら近づく。
蹴りの間合いまで近づいたところで、オルフェは右ハイキックを繰り出した。
これまであまたのゴブリンを屠ってきた一撃ではあるが――
ゴブリンの目はしっかりオルフェの動きを捉えてたようで、軽くしゃがむと蹴りは頭の上を通り過ぎていく。
同時に腰を入れて右こぶしをオルフェに向けて放つ。
オルフェは蹴った右足を地につけると、それを軸足にして踏み込み拳を回避する。
このステップでゴブリンの横に回った形になったオルフェは、右足を高く上げるとそのままゴブリンの頭に向けて振り下ろす。
それを真横に飛んでかわすゴブリン。彼はそのままオルフェから距離を取るようにステップを踏み、最後にオルフェに対して向き直った。
一度仕切りなおした後、再びにらみ合い一進一退の攻防が繰り広げられる。
オルフェとあそこまで打ち合えるとは、なかなかやるなぁあのゴブリン。
だが、実力差はあるようで徐々にゴブリンが避ける一方に追い込まれていく。
まぁそれも当然か。俺の見立てじゃあいつの実力は、大分甘い採点をして虫怪人と同等ってところだからな。
それじゃあ、今のオルフェとタイマンでやりあうには力不足だろう。
後退を繰り返してオルフェの攻撃をさけているために、ゴツイゴブリンはロープ際、いやゴブリン際まで追い詰められる。
自身に向かって放たれた前蹴りを真横に跳び、ギリギリのところでかわした。
だが、その代償に決定的なスキが生まれた。
オルフェがそのスキを見逃すはずもなく、体勢を横に向け一気に間合いを詰め――
「今だ! やれっ!」
その声にオルフェの後ろにいた連中が、剣を振り上げ襲い掛る。
おっと、一騎討ちは終わりか? ならばこちらもワナを!
……いや、その必要はないな。
後ろにいたゴブリンが剣を自分に振るより早く、オルフェは後ろに踏み込み相手の懐に入り――
「破っ!」
気合と共に、相手に背中と肩を叩きつける!
まともにくらったゴブリンは、真横に重力が働くのが当然とばかりに後続を巻き込み、かなたまで吹っ飛んでいった。
ぶつかられたゴブリンもさらに別のゴブリンにぶつかり、ボウリングのピンのごとく数十人単位でぶっ飛び倒れ伏す。
うん、今は蹴り技主体のオルフェだけど、もともとは拳法スキルをもってたからねぇ。
必要に応じて格闘スタイルを変えられるのもオルフェの強みだよなぁ。
それにしてもオルフェの鉄山靠はすげぇわ。くらったゴブリンが飛んだ距離は間違いなく今日の最高記録だろうな。
あんなん障壁ありでも、絶対食らいたくないわー。
くらったゴブリンが”全身を強く打った”みたいなことになってるもん。
だが、足を止めてしまった事で、正面のゴツイゴブリンに対してスキをさらしてしまった。
ヤツは絶好のチャンスとばかりに、渾身の力を込めて右パンチをオルフェに向けて振るう!
少し体を落とし足に力を込め、顔面コースだったパンチをひたいで受けたオルフェ。
にぶい音が響き、手ごたえを感じたゴブリンがにやりと笑う。
しばし時が止まったかのように動かない二人だったが……
「なっ!? 力が抜けてく!? 体がしぼんで!?」
数秒もしないうちに、その沈黙を破ったのはゴブリンのほうだった。
ヤツが言った通り、筋骨隆々だったはずの体が徐々にしぼんでいく。
オルフェのひたいを殴った右手も徐々に下がっていき、胸のあたりまで下がったところでようやく止まった。
その姿は他のゴブリンとなんら遜色はない。上半身裸って違いはあるけど。
あー、なるほど。そういう事ね。こいつはオルフェの額を殴ったら縮んだ。
言い換えればオルフェに直に触った。
つまりあいつの筋肉は魔力で強化した姿だったんだな。多分動体視力とかもそれでドーピングしてたんだろう。
それが触ると魔力を無効化するオルフェにふれた事で解除されたと。
あーあ。これはやっちまいましたなぁ。
オルフェは自分と同じ格闘タイプで強い奴と戦うのを、待ち望んでいたフシがあったのに……
「なぁんだ、君ってただの見掛け倒しだったんだぁ」
その声を聞いた元ゴツイゴブリンが、身を振るい恐怖に顔を歪ませ、おそるおそる殴った右手をひっこめようとして――
その右腕をオルフェの左手ががっしり掴んだ。
「あ、あれ? もしかして効いてませんでしたか?」
「んー? 効いたよぉ、少しね」
左腕一本でゴブリンを軽々もちあげ、ゴブリンに見えるように右こぶしを硬めてにこやかに笑うオルフェ。
そのひたいはちょっと赤くなっている程度であった。
「そ、その右手をどうするおつもりで?」
「えー。そんなのわかってるでしょ? なんで聞くのぉ?」
オルフェの返答を聞いたゴブリンが暴れ出すが、オルフェはビクともしない。
「わかってもわかりたくない時があるんですぅー! 嫌だぁー!! 死ぬ前に一度巨乳美女ゴブリンにもみくちゃにされて――」
「うるさいよぉ」
オーマイゴット。
ヤツの遺言は、オルフェの拳が顔面にめり込んだことで中断された。
あいつは最期に何を言いたかったんだろうか?
「ぴしゅる」
よくわからん断末魔をあげ、顔面を陥没させて吹っ飛び、アローウォールに激突し体を壁にめり込ませるゴブリン。
その姿はさながらひかれたカエルのようであった。合掌。
「あっ、アローウォール壊しちゃった!」
「それは気にすんな。そんなもんは周りのゴブリン達をDPにすればすぐペイできるからな」
まぁ、この辺は必要経費だろ。
「わかった、頑張るよぉ」
オルフェはそう言って念話を切ると、再びゴブリン達に向かっていく。
結局オルフェが一人で全部なんとかしてしまった事で、ゴブリン達はもはやどうあがいてもオルフェには勝てないと悟ったのか、逃げ出すものもいる。
かくして、蹴られたら即死の鬼ごっこが始まった。