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6-26 招かれざる者たち

「――スター? マスター? 寝てる所に悪いけど起きてくれないかい?」


 ――んー? 誰かが俺を呼ぶ声がする。

 もう朝か? まだ寝入ってそんなに立ってない気がするんだが。


 まぶたが重い。 目を開けなきゃ……また……眠く――


「侵入者がきたよ」


 !!


 その言葉に、まだ眠りたいという甘ったれた気持ちを布団と一緒に跳ね飛ばす!

 そのまま両頬に一発喝を入れる!


 甲高い音とともに両頬に激痛が走る!

 いてぇ! ちょっと力を入れ過ぎた! 半端なく痛いがこれで完全に覚醒した!


「他の皆は?」

「もうとっくに起きてダイニングルームにいるよ」

「オッケー! 俺もすぐいく」

 

 装備を整えるのはまだいい。廊下をダイニングルームに向かって駆け抜ける!

 同時に監視機能を起動させ、侵入者の確認を――


「!?」


 侵入者たちの顔ぶれに、見知った顔が一人混ざっているのが見えた。

 なぜ!? いや、今は理由より対策だ!


「またせたな! これから作戦会議だ!」


 ダイニングルームに入るなり、すでに椅子に座っていた皆に宣言する。

 息を整える必要もない。この程度の距離なら全力でも息一つ乱れないくらいのスタミナはついてるからな。


「まずはコアさんから聞いたかもしれんが、侵入者はこいつらだ」


 言いながら俺の後ろに障壁を出し、監視機能で見えた入り口の様子をそのままイメージして映し出す。

 俺を見ていた皆の視線が上を向き、後ろに移る。


「あれ? あのロバに乗ってるのってアイリさんじゃない?」

「でも、周りの人たちは白犬族じゃないですねー」

「肌が緑色っちゃねー」


 ケモミミ娘達が口々に感想を漏らす。


「ご主人、これどういうことなの?」

「俺に聞かれたって、俺だって見たままの事しかわからんよ」


 だから俺たちが出来ることは、この映像から推測する事だけだ。


「まず、アイリさんの後ろにいる連中だけど、ありゃゴブリンだな」

「もはや懐かしいともいえるね、気に障る連中だったよ」


 頬づえをつき、うんざりした様子でコアさんがつぶやく


「彼らが来たことがあるんですかー?」

「ああ、過去に襲ってきたことがあって返り討ちにしたんだ」

「へぇー」


 冷えた声でククノチが相づちを打つ。アマツとオルフェも敵視するように映像を睨む。


「まぁ、見た感じから推察すると、今回もほぼ間違いなく襲撃だろうな」


 断定してしまったが、根拠はいくつかある。


「前回きた連中の装備は良くて鉄剣だったが、今回は革鎧を身に着けているが大半だし、武器も剣や槍、杖にメイスに大盾なんかも見える。前回が斥候だとしたら、こいつらはちょっとした小隊のレベルだな」


 ダンジョン探査にしては、大人数かつ重装備すぎる。こいつらはここに集団で戦う相手がいる前提で編成されていると見た。つまり俺たちのことだ。


 得物がバラバラって事はそれぞれに役割が与えられてるって事だろう、俺達みたいにな。


「あの人、あいつらに僕たちの事を売ったのかなぁ?」


 オルフェが気を悪くしたように映像のアイリさんをゆびさす。

 うーむ、以前だったらそんな事をオルフェは思う事もしなかったはずだが、マンガでそういう展開もあるという事を知っちゃったからなぁ。

 とはいえ、間違いは訂正してやらねばなるまい。


「オルフェ、アイリさんは俺たちを売ったわけじゃないと思う。アイリさんをよーく見てみろ。特に足に注目してな」

「んー? あっ! これよくみたら足を固定されてるじゃん!」


 身を乗り出して映像を見たオルフェが叫ぶ。


 うん、俺も最初は(あぶみ)だと思ったが、ロバに足を括りつけられて拘束されているんだよな。

 そこに気づいてから改めてみると手綱もないし、マントで見づらかったが腕も縄っぽいもので制限されているように見える。

 逃げ出されないように、極論自害されないようにしていると考えると、まず思いつくのは――


「まぁ、これは俺たちに対する人質って考えるのが妥当かな」


 もちろん共謀して俺たちを騙そうとしているって可能性もなきにしもあらずだが……

 可能性を考えだすと止まらないから、まずは素直に解釈するべきだろう。


「それで僕たちはどうすればいいのぉ? あいつら全員倒せばいいじゃん」

「それは短絡的過ぎるだろ。まだ時間はあるしちょっと考えさせてくれ」


 オルフェの言う「あいつら」には間違いなく、アイリさんも含まれている。

 ダンジョン防衛という点からだけで見れば、彼女の生死は論点ですらない。

 

 だが、真相を無視して全てを闇に葬るには謎が多すぎる。

 最低限アイリさんを助け出せれば、彼女からも情報を引き出せるだろう。


「とはいえ、どうするかな?」


 あごに手を当てて考える。

 ワナで迎撃するのは論外。あの数をまとめて始末できるような大仕掛けのワナは、アイリさんも巻き添えにしてしまう。


 やはり接触するしかないが、人質がいる上にあの数と正々堂々相対するのは得策じゃねぇな。

 となると、地の利を活かした方法が望ましいんだが。

 

「うーん」

「悩んでるようだねマスター、今こそこれを使う所じゃないかい?」


 思考をさえぎるようにコアさんが一冊のノートを差し出す。

  

「あ、そうか。今まさに使うべき所だよな」


 このノートは俺たちが今までに試した防衛・攻撃方法の手段と結果、考察と反省がビッシリ書かれている血と汗の結晶である。

 ほんとに勢い余って血を流したことがあるほど、ガチでいろいろ試したからなぁ。


 だが、今は懐かしさにかまけている場合ではない。

 コアさんからノートを受け取り、パラパラとめくる。


 ホントにこうしてみると、いろいろ試したなぁ。

 とはいえ、人質がいる状況なんて想定してないし、基本的には相手を殲滅する手段しか書いてないなコレ。


 幸い、連中は長い通路を警戒しながら進んでいるため、まだ時間的な余裕はある。

 一つ一つ吟味しながらページをめくっていき――


 ある作戦のページで目が止まる。

 これなら、応用すればいけるんじゃね? 


 土台が決まれば、後は集団の数に人質がいる事、俺たちができる事を考慮していく。


 。。。


「よし、作戦は決まったぞ」


 連中を映していた映像から、作戦に使うワナがある場所に切り替える。

 さらに障壁を出し、図を使って作戦の内容。想定される状況などを事細かに話す。


 脳内に描いた状況をそのまま説明できるってほんと便利や!

 

「これを基本に念話で指示は出すけど、想定外の事態が起きたら、柔軟かつ臨機応変に対応してくれ」

「はーい」


 作戦を話し終わったところで、再び監視ウィンドウで連中の動向を探る。

 うん、特に変わったところはないな。大体想定通りの所を想定通りの速さで進んでいる。


「質問はないな? では”地獄の壁”作戦を開始する。 総員戦闘準備!」


 敬礼と共に駆け足でダイニングルームを後にするケモミミ娘たち。

 まぁ、まだ時間はあるし、目的地はみんな同じなんだけど。

 気合を入れるのは重要だね。


 さてさて、現時点だと分からないことだらけだ。

 何が起きてもいいように準備だけはしっかりしておきますかね。

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