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6-25 爆熱ロウリュウ2

 ウチのダンジョン名物である温泉エリアには、源泉が流れ落ちる崖に取り付けられた3つの部屋がある。

 

 1つめはドライサウナ、日本にある大半のサウナと同じものだ。

 アマツ曰くこの高温低湿のサウナは、海から上がって冷えた体を温めるのにちょうどいいんだそうだ。

 後はオルフェも結構好きなようで、仕事の終わりによく二人で入っているのを見かける。


 2つめはスチームサウナ、

 温度が控えめで多湿なこのサウナは、ククノチが好きで入浴した時はよく入っているようだ。

 なんでも、我慢して出た後のワインが美味しいから入っているらしい。

 

 そして3つ目のサウナ。

 こここそが今回のロウリュウを行う会場となる。



 皆の仕事も一段落した昼過ぎ頃に、俺たちは全員そろって温泉エリアに向かう。

 朝のミーティングの際に出欠の確認は取ったが、全員が二つ返事で行くと答えたあたり、何かしらの興味は持っているのだろう。


「ご主人。今日はみんな湯あみ着をきるんだねぇ」

「別に君たちは裸でもいいけど、俺はロウリュウサービスをする立場だからな」


 俺は湯あみ着をつけた上で右手にアロマ水が入ったバケツ、左手に大きめのタオルを持って歩いている。


 今回思いっきりタオルを振り回すから、最低限の身なりを整えないとな。

 タオルを使うから、正確にはアウフグースっていうんだが、説明が面倒なのでウチのダンジョンではロウリュウで統一しておこう。

 

 適当に話しながら歩けば、すぐに目的地にたどり着く。


「そういえば、このサウナだけは主さん以外は使った事がないっちゃねー」

「別に制限してるわけじゃないんだが、ここはちょっと上級者向けだからなー」


 目的地、メディケーションサウナ前に到着し、アマツがぽつりともらす。


 サウナに入るだけなら温度湿度が制御されているドライサウナやミストサウナだけで十分だが、ここは自分でサウナ石に水をかけて湿度や温度を管理しないといけないからな。

 手間と言えば手間だが、それがいいんだよ!

 

「ほれ、みんな入った入った」


 サウナのドアを開けると、薄暗い部屋に光が差し込み、部屋の中央にある積まれたサウナ石が光を反射し、重圧な存在感を放つ。

 

「くらーい」

「この暗さがいいんだよ。瞑想するのにピッタリだろ?」


 そう、この部屋は外の明かりをほぼ遮断し、かろうじて段差と中央のサウナ石がわかる程度の明かりしかない。おまけにほぼ無音。


 だから、ロウリュウを浴びつつ瞑想するのにうってつけの部屋なのだ。

 なんかこうしてると仙人っぽいだろ?

 

 床にアロマ水が入ったバケツを置き、壁に沿うように作られた腰掛に皆を座らせる。


「始める前に再確認だ。体調に異変を感じたら、すぐに外に出るんだぞ」


 ダンジョンモンスターが熱に当てられた程度でどうにかなるとは思わんが、念のためな。


「私たちも脱水症状は起きるからね。冷たい飲み物は外にひととおり用意してあるから問題ないよ」


 さすがコアさん。ケアも万全だね。

 でも俺は知ってるぞ、あんたはシチュエーションを求めていろいろ飲み比べてみたいだけだっていうのをな。


「よし、早速始めよう」


 部屋に備え付けてあるひしゃくを手に取り、アロマ水をくみ取る。

 そしてサウナ石の上までアロマ水を持ち上げ、ゆっくりアロマ水を落としていく。


 アロマ水がサウナ石によって一気に熱せられ、蒸気となって立ち昇る。


 一杯、二杯、三杯とアロマ水を汲んではかけてを繰り返す。


 ケモミミ娘達も黙ってその様子を見ているので、アロマ水が蒸気となる小気味のいい音だけが部屋中を支配していく。

 この徐々に熱くなっていく空気がたまらなく好きだ。


「おおー、なんかすっごく熱い空気が流れてきたっちゃねー」

「それにいい香りがするよぉ。ご主人、これなんの香り?」


 上の方に座っていたアマツとオルフェに蒸気が届いたようで、口々に感想を漏らす。


「今日は初めてだからな、王道のオレンジ系のアロマをDPで出して使ってみた。このアロマ水にはリラックス効果と……えーっと、リラックスする効果が期待できます」

「適当ですねー」

「気にすんな。リラックスできれば十分だろ?」


 行きつけのところでもアロマ水に関しては、適当な説明しかされなかった記憶しかない。

 まぁ、アロマ水はこんなもんでいいだろ。


「では、これからもっと空気を拡散させていきまーす」


 肩にかけていたタオルを右手に持ち直し、空気が拡散するように回していく。

 上に溜まっていた蒸気がタオルが生み出す風にまき散らされ、部屋中に染みわたる。


「うわー! 熱くなってきましたねー!」

「うん、じっとりと汗がでてきたよ」


 ケモミミ娘達が口々に感想を漏らす中、俺はサウナを歩きながらタオルを勢いよく振り回す。


 汗をかくケモミミ娘達はいろいろ色っぽいんだろうが、暗くて良く見えねぇ!

 明るいドライサウナでやるべきだった!


「熱くていっぱい汗をかくけど、香りもいいし気持ちいい! これがロウリュウなんだねぇ」 

「いや、オルフェよ。おまえはまだロウリュウの真の力を知らない」


 俺自身もすでに汗だくだが、ロウリュウの本領はここからだぞ?

 タオルを広げ、空中に漂う熱い空気を集めてからめ――


「え? ご主人ロウリュウの――」

 

 オルフェの会話をさえぎり、彼女に向けてタオルを振るう!

 仙人の力で放たれた熱波は、大砲の砲撃のような轟音を響かせ、オルフェに直撃する!


「わぁ! 熱い! すごい! 汗が一気に噴き出てきた!」


 熱波にポニーテールをなびかせて、オルフェが自身の汗だくの腕を見てはしゃぎだす。


「この熱波サービスをこれから存分に味わってもらうからな!」


 ケモミミ娘達の歓声にこたえるように、俺は再びタオルを振り回す――



「ではではー、お先に失礼させてもらいますねー」

「いい汗かいたし、そろそろ私もおいとまさせてもらおうかな」


 どちらかというと、ロウリュウよりその後の飲み物の方を楽しみにしていただろう二人が、軽くお辞儀をしてサウナを後にする。


「ふぅ、うちもそろそろ限界っち、これで止めておくとよ」


 その後も熱波を送る事数回、ようやくアマツが満足してサウナを出ていった。

 これで残るは――


「ご主人、熱波もっとちょうだいよー!」


 なんかやたらとロウリュウの熱波を気に入ったオルフェのみ。

 おまえは元気な子だなぁ。


 すでにサウナに入って結構な時間がたってるのに、まったくへばっている様子はない。

 そういえば初めて温泉作った時も、こいつは源泉に近い熱いところを好んではいってたな。


 元が地獄の番人だからか、熱さには強いのか、だが……


「すまん、俺の体力のほうがそろそろやばいんで、後10回仰いだら終わりにさせてくれ」

「んー。わかったよぉ」


 仙人になったとはいえ、限界はある。

 少し物足りなげに答えたオルフェだが、へばる俺の様子を見たのかそれ以上の事は言わなかった。


 残った気力を振り絞り、熱波に変えてオルフェに叩きつける!


「んー。いい風だよぉー」

「10! よし、今日はこれで終わりな」


 ふー、あっちぃ。 俺も早くここを出て、キンキンに冷えた牛乳をグッと喉に流し込みたい。

 ひたいを拭いつつ、外に出ようと出口に向かって歩みを進め――


「あ、ご主人。お礼に今度は僕がご主人にロウリュウをやってあげるよぉ?」


 うわ。後ろにいるオルフェが、ものすっごく機嫌がいいと分かる声色で悪魔の提案をしてきおった!

 正直言うと俺は早くここを出たいんだが……


 とはいえ、今回は熱波を送るほうだったから、俺も久しぶりに熱波を浴びたい気持ちもある。

 せっかくなので、ここはご厚意に甘える事にしよう。


 オルフェにタオルを手渡し、手近なところに腰かける。


「えっと、まずはお水をサウナ石にかけて」


 オルフェはそういうと、あまってたアロマ水をサウナ石にかける。

 すでに蒸気で熱くなっている部屋の気温がさらに上がっていく。


 うぉぉ……これは、今までに味わったことがない熱さだな。

 仙人になったからこそ耐えれているようなもんだが、普通の人間なら耐えられないぞこれ。

 というか、オルフェはこれでも平気なのか。どんだけ熱さに強いんだ。


「次にタオルを回してっと」


 オルフェが手順を確認するようにつぶやき、タオルを回し始める。

 馬頭の全力で振り回されるタオルが、サウナに熱波の暴風を巻き起こす!

 なんて丈夫なタオルだ! よくちぎれないな!


 自身の腕を見てみれば、汗が途切れることなく吹き出し、傾ければ滝のように流れだす。

 これは冷や汗ではないと信じたい。

 

「じゃあ、ご主人いくよぉ」

「おう! かかってこいやぁ!」


 きたる最強の熱波を全身で味わうために、立ち上がり両腕を広げてみせる!

 オルフェはそれに答えるかのように、タオルを両手で持って振り上げ――


「せいっ!」


 気合一閃! こちらにタオルを振りかぶる!

 同時に全身に熱い衝撃!

 ついでにオレンジのいい香りが脳にキタ!


 しかし、この衝撃はやばいな。今まで受けたどの熱波よりも熱く、強く、脳にクル。

 だが、悪くない!


 強烈な追い風を受けて加速する帆船のごとく、俺の心のビートも加速する!


 受けた熱波を味わっているさなか、第二派、三派と次々と後続が飛び、そのたびに衝撃を味わう。

 イイネイイネ! 暗いはずのサウナに光が見える!

 新しい世界が見えそう!


 なんかふわふわしてとにかく気持ちがいい!

 これが……整うという事か!


「!? ご主人!? ごしゅ――」

 

 オルフェの声が遠くに聞こえる。

 でも、だんだんその声も遠く――



 ――次に気が付いた時、俺は座敷に寝かされていた。

 診てくれたククノチが言うには、脱水による熱中症で結構危ない状態だったらしい。

 

 なるほど、見えてた世界はあっちの世界だったのか。こえぇ。


 オルフェが床に頭をこすりつけて謝ってきたが、自身の体調を考慮せずに受けた自分に原因があるから不問とした。

 今後はトビすぎない程度に楽しむことにしよう。

  

ロウリュウをするときは体調を見極めて

水分補給はしっかりとりましょう。


場所によっては、かなり熱いので・・・

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