6-21 ダンジョンは年中春だから酒が飲めるぞ2
ククノチの開花宣言から早数日、あっという間にこの日がやってきた!
「ククノチ、今日でいいんだよな? 桜は咲いてるんだよな?」
ダイニングルームでの朝食中、はやる気持ちを抑え対面に座るククノチに聞いてみる。
「はいー、今まさに満開で見ごろですよー」
「宜しい! 諸君! 今日は全力で花見を満喫するぞ!」
「おー!」
「というわけで今日のお仕事は手早くやってね」
最近はケモミミ娘達も仕事を部下とかにおしつ……いやいや任せる事を覚えたらしく、そこまで忙しそうにしている様子はないんだけど。
どのエリアもククノチとアマツとオルフェをトップに縦社会ができてきてるっぽい。
まぁこの子達の最優先事項はダンジョン防衛だから、例え数日間不在でもしっかり回るこの状態が一番いいんだろうな。
「じゃあ、私は宴会用の料理を作るからマスターも手伝ってくれるかい?」
「モチのロンだぜ。大体昼過ぎくらいから始めようと思ってるから、みんな協力ヨロシクネ!」
「ご主人テンション高いなぁ」
ククノチの開花報告を聞いてから、今まであえて果樹園エリアを見ていないからな。どんな風景ができているのか楽しみでしょうがない。
朝ご飯を食べた後、約束通りコアさんのお弁当作りを手伝ってれば、あっという間に時間は過ぎていく――
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「コアさん! お弁当の用意は!?」
「マスターも作ってたじゃないか。ちゃんとここにあるよ」
苦笑しながら重箱の入った袋を見せるコアさん。
「ククノチ! 飲み物は冷えてるか!?」
「はいー! ご主人様に出してもらった日本酒もビールもカクテルもキンキンに冷えてますよー!」
今日は思いっきり酒が飲めるという事でククノチもテンションたっかいなー!
でもあんまり飲みすぎんなよ!
「オルフェ! アマツ! 宴会芸の準備は万端か!?」
「あんまり盛り上げられる自信はないけどねぇ」
俺もあんまり宴会芸に自信はないから大丈夫!
「よし、イクゾー!」
「おー!」
みんなが集まったダイニングルームから意気揚々と出発する。
会場までは農地区画を経由して、徒歩5分。近い!
さぁ、このポータルを抜ければ会場だ!
――会場に足を入れてまず見えた光景は、色とりどりの花が咲き乱れる桃源郷。
そんな表現がぴったり合う空間だった。
桜が満開なのはもちろん、リンゴやウメなど一緒に植えた樹たちも自身を見せびらかすように咲き誇っている。
多少時期が合わないはずの樹にも花が咲いているのは、ククノチがなんやかんや調整したんだろう。
いつも通りの雲一つない青空や澄みきった空気も実にうまい。
このエリアに吹かせている風も花の香りを十分に乗せ、一呼吸するごとに肺が清浄な空気を取り入れ体が浄化されるようだ。
「いやこれはすごいな。日本のどこの名所にも負けてないぞ」
「ふふふー。いいお酒を飲むために頑張りましたー」
ククノチが胸をはって答える。
欲を言えば弘前城や姫路城みたいな天守があると、また映えるのだが……
さすがに城まるごと作るのに必要なDPは捻出できない。
でも、逆に言えばDPさえあれば作れる辺り、このダンジョンは規格外と言わざるをえない。
城は無理でもせめて橋や川、石垣くらいは増やしたいなー。本来ここは果樹園だから、作ると歩きにくくなっちゃうけど、景観は重要な要素である。
暇を見てちょっと作ってみよう。
「マスター? 突っ立ってないで花見の準備しておくれよ、今日はしっかり団子も用意してあるからね」
「むぅ、もう少し感傷にひたらせてくれてもいいじゃないか」
コアさんの催促で現実に戻らされた。
持ってきたゴザを桜の木の下に敷き、荷物を下ろして広げる。
「今日は花見だからね、お弁当も定番の物にしてみたよ」
コアさんはそう言って、持っていた重箱を一つ開ける。
俺は中身を知ってるが、他の3人は知らないからな。
「まずご飯もの、おにぎりといなり寿司だよ。おにぎりの中身はいろいろあるから、食べてからのお楽しみだね」
花見の余興という事で、コアさんにロシアンおにぎりを提案してみたが却下された。
わざとマズイものを作るのは、コアさんの矜持が許さないらしい。
「キャベツの中にご飯が入ってるの?」
「そうだよ。おにぎりは本来ノリを使うけど、ないからキャベツで代用したんだ」
緑色のおにぎりといなり寿司は色の対比が鮮やかで、実に食欲をそそる。
相当量を作ったが、中身に数種類のバリエーションがあるのでこれだけ食べてても飽きがこない。
「次のお重は肉系だね。唐揚げにソーセージ、ニンジンの肉巻きだよ」
「ソーセージってこれですかー? なんか変な形をしてますねー」
「これはタコさんソーセージだ」
ククノチがタコさん型に切られたソーセージを指さして聞いてくる。
お弁当に入るソーセージならタコさん型が定番だと思ったんだが
「タコさん?」
「ああそうか。そういえばまだ海洋エリアにタコはいないから、実物を知らんのか」
それは盲点だった。
障壁に俺が知ってるタコを映して、4人に見せる。
「ほれ、これがタコだ」
「何これぇ! こんなん食べれるのぉ!? 」
画像を見るなりオルフェに真っ向から否定された。
オルフェさん軟体系は苦手ですか?
「いやいや、タコ焼きを筆頭に刺身にタコわさタコ飯とか、いろいろ調理法があってどれもうまいぞ」
「へぇ、そんなにおいしいんだ」
あ、聞かれちゃいけない人に聞かれちゃったかも。
「ねぇ、マスター」
「オーケーオーケー、いい機会だし、タコもイカも海に入れようか。それでいいかコアさん」
ピッとサムズアップで返すコアさん。許された。
目線を移し、アマツに目を向けると、同じようにサムズアップをしてくれた。
「海の子達の事なら、うちに任せてほしいっちゃよー」
「あ、ついでに貝とかノリも追加していいか?」
「どの子も面倒みるっちゃよー」
「こういう時のアマツは頼りになるね、期待してるよ」
「へへー」
コアさんになでられてニパッと笑うアマツ。
今は魚とサンゴくらいしかない海だが、段々にぎやかになってくるな。
アマツがこの多様性に対応できるかは少々心配だが、本人がやる気だしてるし信頼しよう。
「さて、海産物に新しい希望が見えたところで、重箱の最後の中身を見せよう」
コアさんはそう言って2つ目の箱をずらし、3つ目の中身を見せる。
「3つ目はサンドウィッチだね、こっちもいろいろ種類があるから好きなのを選ぶといい」
キャベツとロースカツのサンドを筆頭に、テリヤキ風ソースがたっぷりつけられたチキンサンド、タマゴキュウリサンドやベーコントマトなど、サンドウィッチと言われて上がる食材は大体カバーできている。
こうしてみると、本当に豊かになったもんだ。
「後は甘味として、花見団子をたっぷり用意したよ」
「甘い物ー♪」
コアさんが別の袋を開けて、竹皮につつまれた団子が溢れんつまった中身を見せる。
アマツが一つ拾って竹皮を開けると、中には竹串に刺された赤白緑の団子が入っている。
「お好みで、このみたらしとチョコレートソースをつけてもいいよ」
花見団子ってタレとか必要だったっけ?
まぁいいや。ウチはウチだ。
「それじゃ食べ物の紹介も終わったし、カンパーイ!」
「マスター、早いよ」
「そうですー。飲み物の準備が出来てませんよー」
いや、いつも音頭を取る前に言われてるから先取りしてみたけど早すぎたか。
乾杯を仕切りなおし、盛大に花見が始まった!
とはいえ、一人は食べ物をがっつき、一人は酒をたしなみはじめ、一人は団子をひたすら食べている。
この子達は花より団子だなぁ。




