6-19 真 収穫祭!
あれからさらに数日。ついにこの日がやってきた!
コアさんを除いた俺たち4人はダイニングルームにて、料理が来るのを待ちわびながら雑談に興じていた。
「いよいよ今日が収穫祭なんですねー」
「そうそう、コアさんすごい張り切ってたよな!」
「ご飯だけでも美味しかったのに、今日は何を作ってくれるんだろうねぇ?」
精米を渡した翌日には、ついに食卓に銀シャリが出るようになったのだ!
あのクソ熊を倒して出したカレー以来、実に数年ぶりとなる米は懐かしさもあって、ついつい丼ぶりで5杯はおかわりしてしまった。
だって、コアさんが作ったおかずとの相性が抜群で美味しいんだもん。しょうがないよね!
「うちは今日こそデザートが出てくるって信じてるっちゃよ」
アマツが祈るようにつぶやく。
基本的にケーキを作るのに向いてない強力粉とあの砂糖じゃ扱いにくいのか、まだデザートが出てきたことはない。
甘い物が好物なアマツにとって、待ってもデザートが出なかった日々はつらいものだっただろう。
「きっと大丈夫だ。あのコアさんが諦めるはずがないからな」
俺の言葉に全員がうなづく。
ちょうどそのタイミングで、話題にあがった人物がフードラボに繋がるポータルから姿を見せる。
「そんなに信頼してくれてるなら、答えないといけないね。料理が全部できたから持ってきたよ」
そう言いながら、コアさんは持ってきたものをテーブルに置く。
一同の視線があつまり――
「おおおおーー!」
お米の上に一口大に切られた魚の身!
これはもしかしなくても――
NI GI RI ZU SHI!
魚の他に鶏肉や豚肉、野菜が乗ってたりしてるが、そこはご愛敬。でもどれもおいしそう!
よくを言えば軍艦巻きも欲しい所だが、ノリがないからしょうがない!
「気持ちはわかるけど少し興奮しすぎじゃないかな? まだ料理はあるのに最初からそんなに興奮してたら身がもたないよ」
「いやー。数年ぶりの寿司についやっちまったZE!」
「そして、寿司にはこれだよね」
そういうとコアさんは胸元から小瓶を取り出す。
――だから何で君は胸元に物を入れるんだ!
オルフェを見てみろ!
表情が消えてるじゃないか!
でも声には出さないけど!
そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか、コアさんは小皿に小瓶の中の物をたらしていく。
出てきたのは黒い液体……だと!?
まさか……これは――
指につけてなめてみる。
――しょっぱい。
「これは、醤油!?」
ちょっと記憶にある醤油の味とは違う気もするが、これは間違いなく醤油だ!
「ふふ、マスターを驚かせようと思ってね。ククノチにも協力してもらって試作してみたんだ」
「醸造の部屋を作ってもらったお返しに頑張ってみましたー。ドッキリ大成功ですー」
ハイタッチをかわす二人。いつの間に作ったんだ……
「まだ改良の余地はあるけど、ともあれこれで日本調味料の”さしすせそ”はコンプリートだね」
「ああそうか、確かにこれでコンプだな」
ついにここまで来たかと思うと、感慨深いものがある。
コアさんはそんな俺の様子を見ると微笑み、フードラボへと入っていく。
戻ってきた時には、何か黄色い物を山盛りにもった皿を持ってきた。
「次は揚げ物だよ。衣がつけられるようになったからね」
皿にはまだ油がはじける音が聞こえる鶏のから揚げと、ロースカツがピラミッドのごとく山盛りでつまれていた。
色はまさにコンガリきつね色。どれもコアさんの金色のしっぽに負けないくらい鮮やかに輝いていて、とっても美味しそう!
隣には山積みされたキャベツの千切りがある。
まさに雪解け水がしたたる春の新緑に染まるみずみずしさの富士山や!
「次は吸い物、これは先日食べれなかった豚汁を作りなおしたよ」
飯には味噌汁。鉄板だよなぁ!
どれもおいしそうな料理を前に俺の気分は上々!
「そしてこれが最後、デザートのドルチェピザだよ」
コアさんがポータルから出てきた時点で、甘い香りがただよい始める。
「おおー! これをずーっと待ってたっちゃよー!」
待望のデザートが出てきたことではしゃぐアマツ。
「ずーっと」のところでためるモーションをつけるのがアマツらしいし。なによりかわいい。
コアさんがテーブルにピザを置くと、目と鼻孔に甘い感触がダイレクトに入ってくる。
アメリカンサイズの大きさのピザの上に、焼けた色とりどりのフルーツが所せましと並べられている。
黒糖で作られたシロップがおしげもなく塗られ、天井の魔法の光を受けて美味しそうな光沢を放つ。
よく見るとフルーツたちの下には、なにか黄色いチップがまかれている。
「コアさん、このチップってもしかしてコーンフレークか?」
「その通り。チップをまいてサックリした触感を出してみたんだ」
確かにトウモロコシも収穫したから材料はそろってるけど、これも作れるもんなんだ。
シリアルも市販の物しか知らないしなぁ。
「後はトッピングとしてソースを3種類用意してみたよ」
コアさんはそういうと、一緒に持ってきた3つのビンを指し示す。
これだけでも十分美味しそうなのにトッピングがあるのか!
「一つ目はフルーツジャム。甘い酸味が欲しいなら、これをかけるのがオススメだよ」
コアさんは一番右に合った、中身が黄色いビンを持ち上げて説明してくれた
俺はこれ以上甘いのはいらないけど、特にアマツの目が輝いておられる。
「次にこの白いのはカスタードだよ。本来は薄力粉を使うけど、今回は強力粉で代用してある。フルーツのとは違う甘さを味わいたいなら、これを薄くぬるといい」
カスタードか、特にコーンフレークと相性がよさそうだな。これはちょっと付けて食べてみたい。
コアさんはカスタードの説明を終えると、最後の黒い液体が入ったビンを開ける。
醤油ベースかと思っていたが、匂いが違う。
いや、この香りはまさか――
「マスターは気が付いたみたいだね。この黒いのはチョコレートソースさ。甘味の中に苦みが欲しいならこれをつけるといい」
「コアさん、ついにチョコレート作ったのか!?」
コアさんは俺の問いにニッコリうなづき、ソデから袋を出してテーブルに置いて開いて見せる。
「ここに試作品のチョコがある。カカオの苦みで、砂糖の雑味を大分ごまかしてるから、ほとんど気にならないレベルだと思うよ」
「ほろ苦くて甘くておいしい!」
コアさんの説明をさえぎってチョコを頬張ったアマツが、手を頬に当てて感想をもらす。
今のアマツは速かった。おまえ普段そんなに俊敏な動きをしないのに、やればできる子だな!
俺も食べてみたいから、少しは残しておいてくれよ。
全ての料理を運び終えたコアさんは、満足したかのように席に着く。
「どうだい? 全部ウチのダンジョンで取れたものだけで作って見せたよ」
「ああ、みんなのおかげでここまでの物がつくれるようになった。本当にありがとう」
深々と頭を下げる。
「というわけで、収穫祭です! 今日はみんなで飲んで食って英気を養いましょう」
ケモミミ娘達の拍手を受け、大物コメディアンの真似をして止める。
止めようとしたけど止まらなかった。そうか、みんな知らないからあの動作をしても止まるわけないか。
「では乾杯と行きましょう。ククノチくん。例の物を」
「はいー、今日のために用意したワインですー。今までで最高の出来ですよー」
ククノチがテーブルの下に置いてあったワインを取り出す。
そのセリフだと毎回変わりそうね。
「では、みんなにいきわたったかな? それではー、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
こうして3回目の収穫祭が賑やかに始まった!
実際の収穫祭の様子は全カットです。
皆様のご想像にお任せしますよ。