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6-16 一夜明けて、別れの時

「ご主人ー。夜明けがきたよー」

「む、そうか。今まで見張りありがとな。最後に例の手はずを頼んだ」

「はーい」


 入り口付近にいる白犬族のみなさんが安心して寝るためと、夜明けをメドに起きて出発したいというマナミさんの願いをくんで、オルフェにはダンジョン外の見張りを頼んでいたのだ。


 こういう時、DPがあれば睡眠がいらないという特性は便利だよな。

 俺自身も進化してからは、睡眠が必須というわけではなくなったようで、1徹くらいはまったく問題なくなった。


 自室を出てダンジョン入り口へと向かう。

 俺の移動中にオルフェが起こしたのか、何人かが起きて出立の準備を始めている。

 十分に休息がとれたようで、昨日に比べると、みな顔色が明るい。大変結構!


「ああ、きてくれたね」

「仙人様、おはようございます」

「はい、おはようさん」


 オルフェを通じてここに来るという事を伝えたからか、マナミさんとアイリさんが出迎えてくれた。


「皆の準備ができたら早々に出発させてもらうよ。いつまでもいると未練がましくなっちゃうからねぇ」

「仙人様方には何度お礼を申し上げてもたりません。本当にありがとうございました」

「ああ。旅の成功を祈る。いくつかみやげを用意したから受け取ってほしい」


 振り向いて合図を送ると、ロバ数頭と丸々太ったブタをつれたオルフェがやってくる。


「まずはこいつらだ」


 白犬族がつれていた家畜は弱っているやつもいたから、そいつらはこちらで引き取る事になっている。

 代わりにウチの元気で大きいロバと、道中の食料用に豚をまるっと一頭あげよう。


「すまないね、ウチの家畜は元気になったらこきつかってやっておくれよ」


 ウチの場合は間違いなく繁殖させてから、コアさんが食べると思う。

 そしてうまけりゃみんなで食う。


「まだあるぞ。コアさん、アマツくん。例のものを」

「はいはーい」


 声をかけると、ダンボール数段を乗せた手押し車を押すコアさんとアマツが姿をみせる。

 段ボールを一つ地面に置いて開けると、中にはビッシリつまった缶詰。


「これは保存食、缶詰って言うんだけど知ってるかな?」

「いいえ、見た事ありません」


 アイリさんが首を振って答える。

 この世界はまだ缶詰は流通してないか。


 一つ手に取り、開けて見せる。


「中にはカンパンと氷砂糖という保存食が入ってる。カロリーも高いし、開けなければ相当な期間日持ちするぞ」

「それは便利でありがたいけど、こんなにもらっちゃっていいのかい?」

「あ、これなかなかおいしいです」


 それはまぁ、()()()()があったからねぇ。こんな事口には出していえないけど……


 缶詰をさしだした右腕をそのまま横に振ると、すかさず隣りにいたコアさんがカンパンと氷砂糖をつまんで口に入れる。

 ついでにアマツも氷砂糖を取り出し、口の中で転がす。

 君たちはほんとに食べ物に対して、ガマンができないな!


「それに、この()()()()()ってやつも、こんなにもらっちゃっていいのかい?」

「ん? 段ボールは知ってるのか?」


 缶詰を知らんのなら、段ボールもと思ってたが、こっちは出回ってるのか? 


「ああ、似たようなものは交易先で見た事があるね。木箱に比べて軽いから重宝されてるよ」

「なるほど、段ボールも全部持って行ってくれてかまわないぞ」

「目的地で売り払えば、いい値になるからね。準備金にさせてもらうよ」 


 段ボールが貴重な異世界っていうのもおもしろいな。

 そう考えると、そろそろここを出て回ってみるのも面白いかもしれない。


「それで、最後はこれだ」


 みやげはまだあるからな。話題を切り替えよう。

 念話で合図を送ると、曲刀をまとめて持ったククノチが姿を現す。

 そしてククノチに連れられて姿を現したのは ――


「おや、あんたたちそんなにしょぼくれてどうしたんだい?」


 マナミさんが出てきた4人――

 昨日ククノチがツタで薙ぎ払った連中に声をかける。


 4人は所々包帯を巻いてあり、肩を貸され足をひきづりながら歩いているものもいるが、数日立てば後遺症なく全快できる程度には治療を施してある。


「おいおい、あんたがけしかけておいて何しらばっくれてんだよ」

「なんだ、やっぱりバレてたんかい」


 悪びれる事もなくあっさり白状するマナミさん。


「この先こいつらが変な暴走をすることだけが、気がかりだったからねぇ。自信過剰で強さの目利きができないこいつらを礼がわりにくれてやろうと思ってね」


 なるほど、コアさんからダンジョンの説明を聞いて、そこに思い至ったわけか。

 マナミさんの言葉に震える4人。どうやら自分達が捨てられたという事に気づいたようだな。


 不安要素の排除と、俺たちへのDPという形での返礼という一石二鳥の作戦。

 冷酷かもしれんが、元日本人の俺の価値観で判断しちゃいけないな。


「あの、仙人様……」

「なんだ? どうした?」


 男の内一人がおずおずと手を上げる。


「俺たちなんで生きてるんスか? アニキもいないし結局負けたんじゃ?」

「ああそうか、おまえら気絶してたから、てんまつを知らないんだな。じゃあ教えてやるよ」


 震えた声のまま質問する男に対して、振り向き人差し指を立てる。


「君たちはククノチのツタにあっさり薙ぎ払われたが、最後の曲刀投げでククノチに決定的なスキを作ったんだ。確か……おまえだな?」

「うっす。あまりにも不甲斐なくて、やけくそで投げたっス」


 なんだ、やけくそだったのか。まぁ最後っ屁というのはそういうもんか。


「で、アニキとかいうでかいやつだが、君たちが作ったスキを無駄にして見捨てて逃げた。だからその後ククノチに処刑された」

「そっすか」


 淡泊な反応が返ってきた。囮にされる事もしょっちゅうだったのか?

 あの性格じゃ当然か。


「もし、アイツが逃げじゃなくて攻撃をしてたら君たちは勝ってたんだよ。だから、おまえらは判定勝ちってところだ。判定でも勝ちは勝ちだからな、約束通り見逃した。オーケー?」

「うっす! 完璧に理解したっす!」

「ああでも、仲間のカタキを打ちたいってなら――」

「いえ! そんな気は毛頭ありません! 仙人様の裁定に感謝感激っす!」

「そうか、せっかく拾った命なんだ、今後は大切に使えよ」

「押忍!」

 

 彼らの勇ましい声を聞いて、マナミさんの方に向きなおる。


「まぁ、そんなわけだ。こいつらをつれていってやってくれ」

「ふぅん。鼻っ柱を折られてちったぁマシになったかねぇ? ケガが治ったら今までの分もまとめて働いてもらうよ?」

「ありがとうございます族長代理!」


 こいつらは鼻が折られたどころか、心をミキサーでスムージーにされたレベルだったが……

 更生した彼らの今後に期待しよう。



 ダンジョン外につながるポータル前にて、馬車や荷台が次々と外に出ていく。

 お礼や手を振る白犬族のみなさんに答えて、俺たちも手を振って返礼する。


 やがて、最後の馬車もポータルを通り過ぎ、残されたのはマナミさんとアイリさんの二人のみ。


「白犬族代表として深くお礼申し上げます。我ら一同このご恩決して忘れません」


 俺たちの前にひざまずき、恭しくお礼の言葉を述べるマナミさん。


「やめてくれ。そんな大したことしてないし、何よりマナミさんにゃ似合わないな」

「なんだい、せっかく族長代理としての役目をはたそうと思ってたのに」


 俺の物言いに顔を上げて文句を言うマナミさん。

 その横でクスッと吹き出すアイリさん。


「何だい? アイリもなんか言いたいことでもあるのかい?」

「いえ、何でもありません。早く行きましょう姉さま」


 マナミさんはため息一つ着くと立ち上がり ――


「じゃあ、アタイらは行くけど家畜の面倒を頼んだよ。引き取りに来たときは何かお礼を持ってくるからさ」

「ああ、気長に待ってるぞ。持ってくるものはうまいもんにしてくれ」


 マナミさんはコアさんを一瞥すると、納得するように苦笑して振り返る。

 そのままアイリさんをつれてポータルをくぐり、行ってしまった。


「行っちゃったね」

「そうだなぁ。オルフェ、家畜の世話の方は大丈夫か?」

「ウチの豚より素直だし大丈夫だよぉ」


 預かったからにはしっかり世話しないとな。


「さて、まずはみんなお疲れさん。これでまたいつも通りだ」

「うち早くお風呂入りたいっちゃねぇ」

「私は朝食を作らないとね」


 こういう会話をしていると1日だけとはいえ、日常が戻ってきたなぁという気がする。


「そうそう、今日のミーティングは新しくDPで出したい食べ物について話すぞ。みんな出したい物考えておいてくれ」

「はーい」


 そうして1日が始まり、みんなそれぞれの場所に散っていく。

 1日でも早く白犬族から返礼が来ることを期待しつつ、俺はアマツと一緒に朝風呂を満喫するべく歩みを進めていった。  


 

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