6-14 ワンサイドゲーム
連中が硬直してるスキに、
腰の矢筒から矢を三本、ゆびで挟んて取り出し――
――弦につがえ即座に放つ!
うち二本は大きくはずれたが、一本は直撃コース!
とはいえ、さすがに自分に向かって弓を構えられたら警戒するのか、万全の体勢で身構えられる。
避けたら後ろに当たる可能性もある以上、妥当な対策だな。
戦士のなりそこないとはいえ、矢を払う訓練は受けてたのかうまく矢の軌道に剣をあわせているな。
まぁ、これが普通の矢だったら、払われて終わりなんだろうが……
矢が剣に触れる直前――
突然矢がしなり、フォークボールのように下側に軌道を変え――
――ふとももを打ち抜く!
「ぎっ!?」
ふとももを打ち抜かれて漏らした悲鳴が通路に響く!
そこに外れていたはずだった矢の一本もしなる。
軌道を変え、真横から首に突撃し貫く!
もう一本の矢もしなり、ほぼ直角にL字型に軌道を変え――
――真横にいた別の一匹の首めがけて一直線!
「へっ?」
自分に来るとは思ってなかったのだろう、間の抜けた声をあげた喉をそのまま射抜かれ倒れ伏す。
「なんだよそれぇ!? 聞いてねぇぞ!?」
当たり前だ、言ってないもん。
仲間の身に起きた惨状を目の当たりにして、一匹が叫びだす。
おっと、ついに精神的に耐えきれなくなったヤツがでてきたか。
そこを見逃さないのがコアさんである。
一気に接近し、どこからともなく取り出した札を叫ぶ男の額に貼り――
「そうだね、君は悪くない。悪いのはあっちの誘った連中だよね」
誘惑するようにささやく。
男は焦点の合わない目をこちらに向け、立ち尽くしていたが――
「ああ、そうだ。俺がこんな目に遭ってるのも、誘ったあいつらが悪いんだ……」
そうつぶやくとくるりと振り向き、かつての仲間たちに向けて剣を振るう!
パニックはパニックを呼び、混乱と怒号が広がっていく。
「後一押しかな? これはオマケだよ」
コアさんはそういうと胸元から取り出した札を、俺が射抜いて仕留めた白犬族の死体に貼り付ける。
おいおいおい、まさか――
うぁ! 本当にそのまさかだった!
札を貼り付けた死体がゆっくり動き、腕を持ち上げ、地に手を付き頭を上げ、落ちていた曲刀を拾ってゆっくり立ち上がる。
「さぁさぁ、敵はあっちだよ」
コアさんの声に答えるように、死体はゆっくり振り向くと連中に向かって歩き出す。
「ぎゃああああぁぁ!!」
「来るな! 来るなぁ!」
動く死体をみて通路に悲鳴が響く。いや、さすがにこれにはちょっと同情するわ。
敵が増えた事より精神に来るぞコレ。
俺も初見だから、心臓がちょっとバクバクしてる。コアさんそんな事もできんの!?
「もう嫌だ! 助けてくれぇ!」
「あっ! おい! 勝手に逃げるな!」
あんなんやられたら、さすがになけなしの士気も崩壊するわな。
あのでかいリーダーが鼓舞するも、一回崩れた士気がそうそう回復するはずもなく、リーダーの横をすり抜け逃げ出していく。
残念だけど君たちはすでに一線をこえているのだ。逃がすわけにはいかないな。
「アマツ、封鎖しろ」
念話でアマツに伝えると、逃げる連中の前に合った小川の水がせり上がり、通路一杯に50センチくらいの厚さの水壁が白犬族の退路をふさぐ!
連中は驚きスピードを落とすが、しょせん薄い水の壁である。
その事にきづいた者は駆けるスピードを上げ、壁を体当たりして破ろうとし――
「~~~~~~~!!」
「!?」
水壁に触れた瞬間。声にならない悲鳴をあげ、全身を震わせる!
異常を見た後続はたたらを踏んで急停止するが、飛び込んだものはけいれんしたまま徐々に全身を水の中に取り込まれていく。
やがて、水壁の中に完全に取り込まれ、中で力なく浮かぶオブジェと成り果てた。
「なんなんだよここはぁ!」
一部始終を見ていたリーダーが発狂するように叫ぶ。
壁に挟まれ見えない位置にいるアマツが、水を操り電流を流しているのだが、タネがわからなきゃ下手なホラーよりよっぽど怖いな。
まったく だからどうなっても知らないぞって警告してあげたのに
電流水壁を前にもう連中には戦う気力も心もないようだが、これからどうするかな?
「ご主人様ー。残りは私に任せてもらってもいいですかー?」
あれ? ククノチからの念話がきた。
「ん? どうした? 今どこにいるんだ?」
「アマツちゃんの水壁の後ろですー」
なんでそんなところにいるんだ?
「私も戦ってみたいんですー。任せて頂けませんか?」
「でももう連中やる気が折れてるみたいだけど?」
「そこは考えがあるので、大丈夫ですー」
ここからでも監視ウィンドウなら状況がわかるし、正直もう持て余してた部分もあるので任せてもいいか。
「ありがとうございますー。じゃあアマツちゃん水壁を解いてもらってもいいですかー?」
同時にとかれる水壁。壁が崩れ周囲に盛大な水音をまき散らす!
これが遊園地だったら、ライトアップされるなりでさぞ奇麗な光景だったんだろうが……
「ひぃっ!?」
とかれると思ってなかったのか、音に驚き悲鳴がもれ尻もちをつき、後ずさるものもいる。
この場においては、大きな音は恐怖でしかないな。
「んふふー」
その先に一人佇む緑色の影。その正体はもちろんククノチさんだ。
「た、助けて下さい! どうか許してください!」
「えー、でもあなたたちはご主人様の忠告を無視しましたよねー?」
心が折れてるからか、ククノチの姿をみるなり許しを請う者もいるが、あっさり突き放しおった。
「でもチャンスはあげてもいいですよー。みんなまとめて私と戦って勝てたら、見逃してあげてもいいですよー」
「本当か!?」
「ですよねぇー。ご主人様ー!」
ああ、これでやる気を出させるわけね。何勝手な約束してるんだとは思ったが、一度任せるといった以上は好きにやらせよう。
「いいだろう! ククノチに勝てたら見逃してやるよ!」
俺の返答に沸く男たち。哀れな、俺やコアさんが使ったような能力を、彼女が持っていないわけがないのに……
とはいえ、男たちにとってはまさに地獄に放たれた蜘蛛の糸なんだろう。
ククノチは手のひらからトゲ付きのツルを出し、それを握りしめると地面に叩きつける。
甲高い破裂音が通路に響き、同時に空気も張りつめていく
先ほどまで心が折れてたとはいえ、無傷の戦士のなりそこないがリーダーを含め5人いる。
今はククノチがあげた希望で士気も持ち直し、円陣を組んで作戦会議といったところか。
やがて男たちは円陣を解き、ククノチをにらみつける。
「さぁ、どこからでもどうぞですー」
相対するククノチは挑発するように微笑む。
この状況、以前の連中ならククノチをなめてバラバラにかかっていったのだろうが、今の彼らは動かない。
彼らもわかっているのだろう。数だけなら圧倒的に有利な立場だが、追い詰められたネズミは自分たちだという事に。
そして、猫を噛むためには一瞬のチャンスをものにしなければならないということを。
今の彼らは間違いなく戦士の顔をしている。覚悟を決めたな。
彼らは通路一杯に広がると剣を構え、顔を見合わせる。
そしてうなづき――
一斉に駆ける!
「おぉりゃぁぁぁぁ!」
注意をひくためか大声を上げ、一番右側を走っていたリーダーが曲刀を、ククノチに向かって思い切り投げつける!
おそらく円陣を組んだ際に拾っておいたのだろう。
ククノチも反応しムチで曲刀を払う!
そこに間髪入れず二人がジャンプし上から、そして左右から一斉に剣を向けて襲いかかる!
ムチなら多少食らっても死なないと踏んで、誰かがダメージを与えればいい相打ち覚悟の特攻か?
普通ならムチを振るった後の体勢のククノチは、全員を迎撃することは不可能と思えるが……
男たちは覚えているだろうか?
ククノチが右手から自身のツルを出してムチとしていた事を。
コナカナ様よりレビューを頂戴しました!
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