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6-12 夕食情報交換会

「お待たせしました、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

「へぇ、そっちの夕餉(ゆうげ)も見た事ないけどうまそうだねぇ」


 アイリさんの豚汁とトマトスープを温めなおし、ついでにこちらの夕食を持参して座敷に戻る。

 この二人にはある程度こちらの手札をさらしてもいいだろう。

 その反応で外の世界の文化・文明レベルもある程度予想できる。


「この麺が蕎麦、こちらの揚げ物が天ぷらって言うんだけど知ってます?」

「蕎麦というのは初めて聞きましたが、似たような麺ならありますね」

「この天ぷらというのは揚げ物の一種かい? 油は貴重だから、めったには食べれないねぇ」

「ほう、お二人とも料理についてちょっと詳しく聞かせてもらってもいいかな?」


 それまで我関せずと、初めて食べる蕎麦をじっくり味わっていたコアさんが目を輝かせて会話に飛び込んできた。


「この人は未知の味の追及に命をかけててね。本題に入る前にどうか話してやってくれないか?」

「成程ね、その探求の結果がこの味ってわけかい。いろんな味が混ざってるのはわかるけど、美味しいって事以外はわからないくらいさね」


 トマトスープを口に入れながらマナミさんがポツリと感想をもらす。


「そうですね、私たちの間でよく作られていたものと言えば 」


 アイリさんが郷土料理も含めていろいろレシピを上げていく。

 コアさんは身を乗り出しアイリさんに質問していくが、俺はそんな様子を眺めながら蕎麦をすすっていく。

 あ、無意識でやっちまったけど、この辺マナー違反とかにならんのかな?


 話半分くらいで聞いているが、アイリさんが上げる料理のレシピはちょっと多彩すぎないか?

 というより、地球の世界中のレシピがバラバラにあげられてる気がするぞ?


 今は肉料理に絞ってレシピを上げているようだが、さっきのはどう聞いてもケバブだったし、今話してるのはどう解釈してもハンバーガーだぞ。


「なぁ、アイリさん。俺からも質問いいか?」

「なんでしょうか?」

「このレシピは全部白犬族が考えたやつなのか? 結構多彩だと思うんだが、そちらにもコアさんみたいな人がいたとか?」


 地球のレシピと同じという部分は伏せて、遠回しにこんな質問をしてみる。

 アイリさんは少し考えるそぶりを見せて――


「いいえ、もちろんご先祖様が考えたレシピもあるでしょうが、私は聖域からの”恩恵(ギフト)”が大半だったと考えてます」


 おっと、新しい単語が出てきた。ギフトねぇ。

 料理話で大分場も和んだし、頃合いとみて強引に話題を変えてしまおう。


「聖域ですか、そういえばマナミさんはここの事をそう言ってたけど、ここと同じようなものがあるのか?」

「ああ、集落の近くにある森の中にあるよ。こんな立派な広さはないけどね」


 まぁ、ダンジョンがここ一つだけと考える方が不自然か。


「入ると中央に丸いご神体がある部屋と、奥に供物をささげる部屋があるのさ」


 なるほど、俺たちで言うダンジョンコアと迷宮の胃袋しかないのか。

 横目でコアさんを見てみると、天ぷらを黙々と食っていた。ご同業より天ぷらですかそうですか。


「供物をささげて、ご神体に祈るとさまざまなギフトを授かります。私たちは少なくとも過去数百年前からやっているみたいです」

「ギフトって今までどんなものがあったんだ?」

「記録によると、”植物の種”や”神器”だったり、”何かの作り方”など、いろいろあったそうです」

「アイリの得意な織物も、元々はギフトだったって話だねぇ」


 こっちに当てはめるなら、知識の強化と召喚だな 

 だが、聞き違いじゃなければ中二病をくすぐられるワードが出てきた!


「神器って何? なんでも切り裂く剣とか百発百中の槍とか?」

「いえ、私たちがもってるのは無限に水が湧き出るツボです。なんでも深刻な水不足が起きた時に授かったとか」

「出てくる量は決して多くないけど、あたいらがここまで強行できたのも神器のおかげさね」

 

 なるほど、確かにそりゃ神器だわ。

 よく考えてみれば荒野を渡るなんて、水を長期的に確保できる手段を持ってないとできないよな。

 

 それにしても神器ねぇ、地球の物資が出せることに気を取られて今まで気にしたこともなかったけど、俺もこういうの出せるのかな?


 興味はあるがこれは話の後でも十分試せる。そして聖域はダンジョンの使い方の違いってのがわかった。

 となればもう一つの疑問もある程度解決したようなもんだが、一応確認しとくか。


「今話してるこの言語も、もともとはギフトだったりするのか?」

「そうですね、言葉が通じず種族間戦争が絶えなかった頃、共通となるこの言語を与えられたことで和解したという伝承があります」

「裏付けっていうわけじゃないけど、他種族と交易する時は大抵この言葉で通じてるねぇ」


 知識の強化に日本語があったから、それを与えられたと考えればスジは通る……のか?


「それを聞いてくるってことはアンタは違うって事かい? アタイらにとってはそれが常識だったんだけどねぇ」


 こちらに興味の視線を飛ばし聞いてくるマナミさん。

 鋭い。いや、ちゃんと話を聞いてれば当然浮かぶ疑問か。

 

 ちょうどいい。俺が地球から来たことを明かして、他に転生者がいないか聞いてみよう。


「うーん、伝承に思い当たる話はありませんね」

「アタイもそんな話は聞いた事がないねぇ。仮に見慣れないものがあっても、ギフトだと思ってたしね」


 ふーん。俺が転生者としては、始祖っていう可能性があるのか。


「後はマナミさん達でいう、聖域についてなんだけど」


 言葉を濁しながら隣りに座ってる人物に視線を移す。

 しっぽを振りながらゆっくりお茶を飲んでるこの妖狐は、まさに君たちで言うご神体の化身みたいなもんなんだが……


「ん? マスターが話したなら、私の事を話しても問題ないかな」 


 俺の視線に気が付いたコアさんが、二人に向けて自身について語りだす。

 二人は真面目に話を聞いていたが、コアさんができる事について話していくと、表情がこわばっていく。


「え? 聖域ってそんな事もできたのかい!?」

「うう、全部知ってれば私たちもこんな目に会わなかったのに」


 全部聞いてうなだれ、机に突っ伏す二人。


「あー、ウチのコアさんもそうなんだが、”聞かれないと言わない”は同じようだな」

「少なくとも私の視点から見れば、定期的に供物というエネルギーは与えられてるみたいだしね」


 ダンジョンコアにとっては知識やモノを与える方が副産物っていうわけか。

 

「帰れたら有効活用すればいいじゃないか」

「まぁ、この話を聞けただけでもここに来たかいがあったってもんだよ 」

 

 どっと疲れがでたような表情でマナミさんが声を絞り出す。


「断った俺が聞くのもなんだけど、戦争が終わるまでの疎開先のアテはあるのか?」

「一応、交易先で仲が良かったところに行こうとは考えてるよ。普段は荒野をさけるけど、人数と食料の都合上直進するしかなくてねぇ」


 ウソでも行く当てがないって言われなくてよかった。


「食い止めてくれた戦士の皆さんともそこで合流する手はずになってますが、どうか皆無事でいてほしいです」

 

 非戦闘員をつれて撤退戦よりは、お互いに生き残れる可能性も高いんだろうな。

 

「正直。途中で行き倒れる人間がでる事も想定してたけど、これでなんとか全員がたどり着ける算段がついたよ。本当に仙人様たちには感謝しきれないね」


 さらっと怖い事言ったな。いや、これもリーダーに必要な素質かもしれんな。


「さて、感謝のついでにお願いというか取引があるんだけど、聞いてもらえるかい?」

「聞きましょう」


 その後もマナミさんとのいくつかのやりとりを経て、夕食会はお開きとなった。

 

伏線のようで伏線じゃない。でも伏線になるかもしれないそんな話

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