第三十二章 同居生活九日目 昼~夕方
今回もよろしくお願いします。
「ったく、コロンにあとでなんていわれるか…。」
「ふふ…いいじゃない。とりあえず楽しみましょ。ね?」
「やれやれ…。」
俺は家から出たあと、リルと一緒にショピングモールに来ていた。ここはコロンと服を買いに来て、リルと一番最初にすれ違った場所だ。
「雄我、覚えてる?私とここですれ違ったのよね?」
「ああ、覚えてるよ。」
そうだ、ここで俺とコロンはリルと出会ったのだ。正確にはすれ違った訳だが…。
「なんだか懐かしいわね。ふふっ…。」
「そうだな。」
でも、今はリルが俺の隣にいることが日常なのだ。ここでの出会いを懐かしいと感じてしまうと同時に嬉しく思った。
「ふふ…嬉しそうな顔ね?」
リルにそう言われて、頬が緩んでいるのに気付いた。
「ま、まぁな…。」
「私と二人っきりでデートできるのが嬉しいの?ふふっ…。」
「ばっ、ちげぇよ!ここで出会ったから…その…。」
しまった。リルが突然そんなことを言うから、声を上げてしまった。
「ん~?なにかしら?ふふっ。」
リルは楽しそうに俺の顔を見つめている。
「出会えてよかったなってことだよ!」
言い終わると同時に、俺はそそくさと歩き出す。リルに遊ばれている。とにかく恥ずかしい。
「あらあら、待ってよ~。」
リルがそんなことを言いながら追いかけてきて俺の腕に自分の腕を組んだ。
「お、おい…。」
「いいじゃない。今は二人きりなんだから、ね?」
リルに文句を言おうとしたが、リルの上目遣いにドキドキしてしまって、断れなかった。
「勝手にしろ。」
「やった!ふふ…。」
リルは嬉しそうに笑いながら俺に擦り寄ってくる。
なんだか調子が狂う。いつもと違って二人きりだからか、すっかり遊ばれている。
いつもの俺じゃないような感じだ。まったく…。
「ねね、雄我、私あれが食べたいわ。」
そういいながら、リルが指差したのはクレープ屋だった。
「仕方ないな…。」
「やった!」
リルは嬉しそうに笑っている。その笑顔はいつもみんなでいるときと違って、なんだか無邪気な笑顔だった。
いつもとは違うその笑顔に少しドキッとさせられる。
「雄我!早く早く!」
気付くとリルはもうクレープ屋に向かって駆け出していた。
「おい、待てって!」
慌ててリルを追いかける。
「えっと…これにしようかしら。」
リルが選んだのは一般的なクレープだ。生クリームとチョコソース、ホイップクリームにイチゴ…フレークも入っていたか。なかなか美味しそうである。
「ふふ…美味しいわ。ありがとね、雄我。」
「どういたしまして。」
リルは美味しそうにクレープを食べていく。最近は神王と戦ったり、攫われたりしてたからな…。
そんな非日常の中にいたからか、こうしてリルと出かけてクレープを買ってあげたりするなんてことが奇跡のようにさえ思える。
平和な日常というのがここまでありがたいものであるとは思わなかった。きっとあんな非日常を体験しなければこんなことは思わないだろう。
当たり前のことが当たり前にできる。それがどんなに幸せなことか…。
「雄我、あーんして?あーん。」
そんなことを考えているとリルが俺にそう声をかけてくる。
「ん、あーん。」
リルが差し出してきたクレープをほおばる。期待通り美味しかった。
って、待てよ…。これってリルの食べかけな訳で…つまり、間接キス的なことになるんじゃないだろうか…。
「美味しい?」
「ああ、美味しいよ。」
だが、そんなことを言えば、どうせ遊ばれるに決まっている。だからあえて何も言わなかった。
「あら、クリームついてるわよ。」
そう言いながらリルが顔を近づけてくる。
そして、リルは戸惑うこともなく、俺の頬についたクリームを舐めとった。
「ふふ、甘いわね。」
「なっ…!」
心臓が高鳴る。とっさのことで反応ができなかった。
「お、おま、何してるんだ!」
「え?クリームを舐めとっただけでしょう?」
「いやいや!普通そんなことしないから!」
やばい、周りの人からの視線がヤバイ。
「い、いいから行くぞ。食べ終わったろ。」
「はいはい。」
そんな感じで俺たちはまた歩き出す。
とにかく俺は急いでリルと共にその場から離れた。
やれやれだ…。どうしてこんなことになったのか…。
「ふふっ、なんだか、本当にカップルみたいね?私たち。」
そんなことを言いながらリルは笑っている。
「楽しそうだな、たくっ…。」
「あらあら、雄我は楽しくないの?」
「そういうわけじゃないが…。」
なんというか、リルはこういうところが抜けている。ヒヤッとさせられるのではなく、とにかくドキッとさせられるのだ。
まぁ、常識を外れた行動とまでは行かないが…。
◇◆◇◆◇
リルとショッピングモールを回って、噴水のある広場に出た。
クレープ屋でクレープを食べた後、服を見たり、小物を見たりしていたら、もう時間は夕方になっていた。夕日が眩しい。だが、その眩しさには、温かみがあった。
「綺麗な夕日ね。今日は楽しかったわね、雄我?」
夕日を見ながらリルがそんなことを言ってくる。
「ああ、そうだな。」
「今日は本当のカップルみたいだったから、私も少しドキドキしたわよ?」
楽しそうに、リルはそう言ってくる。
「本当か?お前、そんな様子なかったけど。」
「失礼ね。私だってドキドキするわよ。」
本当だろうか。いつも遊ばれていただけに感じるし、そんな様子はなかった。リルがドキドキしていたというなら、少しはそんな様子が見たい。
そんな風に考えたせいか、俺の中に少し悪戯してみたいという感情が湧き上がる。
「ん?どうしたの?」
リルが俺の顔を覗き込んでくる。俺はそのまま自然な動作でリルの肩に手を置きつつ…
軽く口付けをしてみた…
「ん!」
リルは驚いたように俺から離れる。
その顔は茹で上がったかのように真っ赤になっていた。
「な、な、なにするのよ!」
リルが珍しく声を荒げている。
「はは、お前もそんな顔するんだな。真っ赤だぞ?」
俺は畳み掛けるように言葉を繋ぐ。なんだか勝った気がして、楽しい。
「ば、ばか!」
リルはそのまま駆け出してしまった。やれやれだ。
俺はリルを追いながら駆け出した。帰ってからゆっくりするとしよう。
だが、あんなふうにキスなんてことができるとは、俺も変わったものだ。それがいいのか悪いのか、そんなことは知ったことじゃない。
「待てよ!もう帰るぞ~。」
そんなことを言いながら、リルを追いかける。
あんなふうに真っ赤になったリルがとにかく可愛らしかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回も印でくれると嬉しいです。




