遺跡の主
「えーっと……ここはこっちか」
遺跡の中は、まるで迷宮のように幾つもの道別れがあったが
ノアは迷わぬよう分岐点には地面に印を残し進んでいた。
「なるほど……これを辿れば出れるわけね」
「道しるべさ、基本だよ」
得意げに言うノアに、ここ数日彷徨っていたアリアはムッと頬をふくらませる。
「そんなことよりも、貴方、ここには1人で来たの?」
「え?そうだけど……」
「蛇にやられそうななってたのに、無茶したわね、私がいなかったら死んでたわよ貴方」
「うっそれは……あんな魔獣出るなんて聞いて無かったし……助けてくれた事は本当に感謝してる、ありがとう」
痛いところを突かれ、しどろもどろになるノア。
「まっ私がいれば大丈夫よ。よかったわね」
今さっきまでムッとしていたのに今度は急に上機嫌になったなとノアは思う。
「君はいったい何ものなんだよ……」
「それがわかれば苦労しないわ」
「はは……そうですか……」
はぁと肩を落とすノア。
なんてことのない会話をしながら進むうち、
天井や壁の隙間からあの光の泡がどんどんと溢れてきた。
いつしか光の泡は壁いっぱいに広がり、もはやランタンの光すら入らないほどの光が道を照らしていた。
そしてその道をすすむと、ノアが最初に通った最も大きな空間へ辿り着いていた。
「本当に不思議な場所だな……」
ノアが呟くと、アリアも周囲を見回した。
その空間は天井の割れ目から光の泡溢れ出しと初見では気づかなかった水源にまるで滝のように流れ込んでいた。
「そうね。目が覚めたときから、ここにいたのだけれど…変なとこよね?」
「でも綺麗だ」
「そうね」
ノアは一度通ったはずの場所だったが、まるで初めて来た場所の様な豹変ぶりに暫し、目を奪われていた。
そんなところに泡の1つがふわふわとアリアの元まで飛んで来きた。
アリアが手を広げると光の泡は手のひらで止まった。
「なんなのかしら、これ」とアリアが呟いた瞬間、泡は割れ、同時に奥から地響きのような音が聞こえてきた。
「何か来るわね……」
アリアは何かを感じているようだ。
違う、明らかに空気が重い。まるで、何かに睨まれているような気すらした。
いつしか光の泡は消え去り、ランタンの光のみが暗闇を照らしていた。
「アッ……アリア、何か……」
言いかけたとき、奥の水源で何かが動いた。
水面が大きく揺れる。
次の瞬間、巨大な影が水の中から姿を現した。
蛇のように長い身体。
全身を覆う荒々しい鱗。
そして、頭には一本の太い角が生えていた。
その巨体が空間を埋め尽くすように這い出してくる。
「我の眷属を殺したのはお前か」
低く、重い声が響いた。
「ここは我の寝床、誰の許しを得て、好き勝手に暴れているつもりか」
喋った?……俺は息を呑んだ。
これまで出会った魔物とは、まるで違う。
目の前にいるのは、ただの魔物ではない。
アリアが一歩前に出た。
「あなた……蛟ね」
「何?」
「龍になりかけの蛇」
その言葉に、巨大な生き物の目が細くなった。
「我を蛇と呼ぶか」
「違うの?」
「我は龍である!」
空気が震えるほどの咆哮が響いた。
「この地に棲まう龍を愚弄するか!」
「ア……アリア、あまり刺激しない方が……」
「だって事実だし……」
「ただの生餌が!……ただではおかん!!」
蛟が大きく身体をうねらせ、咆哮を上げた。
咆哮は空間を震えさせ、パラパラと埃がまった。
「逃げるぞ!」
「えっ?」
ノアは咄嗟にアリアの手を掴み、走り出した。




