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地獄選記  作者: まんじ
16/17

五章三話「虚ろの頂」

五章 三話(5/22改訂案)


「虚ろの頂」



私が閻魔大王となって、感じたこと。


それは——虚しさだった。



地獄の頂点。


絶対者。



だが。


そこに満足は無かった。



「……退屈だ」



私は玉座に座りながら、小さく呟いた。



どれだけ優秀な魂が来ようと、結果は見える。


どれだけ強い者が現れようと、私には届かない。



そんなある日。



私は、一人の男に興味を持った。



「……ほう」



その男は、己の感情に蓋をしていた。



怒り。


悲しみ。


苦しみ。



本来なら、人を突き動かすはずの感情。


だが奴は、それら全てを押し殺し、合理性だけで生きていた。



だというのに。



その奥底には、地獄でも上位に食い込めるほどの激情が眠っていた。



「面白い」



私は久しぶりに高揚した。



奴は生前の行いにより、大叫喚地獄へ堕ちる運命となっていた。



私は、奴の行く末を観察することにした。



◇◇◇



「試練達成を確認」



ついに奴は、大叫喚地獄を突破した。



そして。


報酬選択で、奴は迷いなく言った。



「【2】だ。」


「俺は、お前らにも怒ってる」



さらに奴は、こうも言った。



「テメェもそのうち殺す」



どこまでも楽しませてくれる。



確かに優秀だ。


だが、能力だけで言えば精々——等活か衆合の門番になれる程度。



他の地獄を突破するのは不可能。


そう思っていた。



だからこそ。



「無間地獄へ挑戦する、か」



私は笑った。



地獄の中で、最も試練が困難な階層。



あそこで散っていく姿を見るのも悪くない。



——そう思っていた。



◇◇◇



だが。



「ほう…」



奴は無間地獄を突破した。



それどころか。


門番にまで成り上がった。



私は玉座で頬杖をつきながら笑う。



「なるほど」


「そう来るか」



地獄の規定に従い、突破した階層の名前を一文字加えた新たな名を私は奴へ与えた。



「今日から貴様は——叫無」



無間地獄を制した門番。



叫無。



「さて」


「次はどんな風に私を楽しませてくれる?」



久しぶりだった。


未来が読めない感覚は。



◇◇◇



そして。



叫無以外にも、私の興味を惹く存在が現れた。



そいつは——私にも届き得る力を秘めていた。



「……なるほど」



調べると、そいつは生前——


私の父を殺した男だった。



だが。


今となっては何も感じない。



怒りも。


憎しみも。


既に過去の感情だ。



それよりも。



「どんな地獄を見せてくれる?」



そちらの方が興味深かった。



奴は生前の罪により、無間地獄へ堕ちた。



そして。


面白いことに、叫無とも因縁があったらしい。



私は二人を観察した。



叫無。


殺人鬼。



どちらも規格外。



だが。


能力だけなら、叫無は負ける。



だから私は楽しみだった。



敗北した時。


叫無がどんな顔をするのか。



絶望するのか。


怒るのか。


壊れるのか。



考えるだけで笑えた。



だが——



「……無に還った?」



予想外だった。



殺人鬼は、敗北ではなく“無”によって消滅した。



現世で、奴を想っていた存在。


それは母親ただ一人だった。



だが。


その母親は既に日本には居なかった。



誘拐され。


海外へ連れて行かれ。


工作員を教育する為だけに生かされていた。



さらに。


奴の母親の情報を使い、姿を似せた工作員が日本へ送り込まれていた。



奴は、その偽物を実の母だと思い込み——殺した。



そして本物の母は。


その事実すら知らないまま病で死んだ。



最期まで。



「どうか、あの子が幸せでありますように」



そう願いながら。



結果として。


現世から、奴を想う者は消えた。



それが——“無”。



存在そのものが消滅する現象。



転生すら無い。


痕跡も残らない。



完全なる消滅。



救済だと思う者もいるだろう。

だからこの事実は地獄で

私のみが知れ、理解できる。


門番と私は想い人が居なくても存在できることも。



それにしても…

奴は最後まで——愛されていたことに気づけなかったな。



それが、たまらなく愉快だった。



「くくっ……ははは……!」



私は久しぶりに声を出して笑った。



だが同時に。


少しだけ残念でもあった。



興味深い玩具が、一つ消えてしまったからだ。



「まあいい」



「これからは叫無を楽しむとしよう」



それから。


どれほどの時間が流れただろうか。



地獄に時間の概念は薄い。



だが。


私はずっと待っていた。



退屈を終わらせてくれる存在を。



私のいる空間に久方ぶりに足音がした。


足音は私の目の前で止まった。



「待たせたな」



私は、自然と笑っていた。



「約束通り——お前を殺しにきた」

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