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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
21/60

新学期のはじまり

第二幕スタート!

最初から重めのストーリー展開ですが、よろしくお願いします。

青く澄み渡る晴天の中、桜の木々に囲まれた校舎は賑わいを見せていた。今日から新学期が始まるのである。正門、校庭、下駄箱、廊下。男子の学ラン、女子のセーラー服。見えるもの全てが懐かしく感じる。此処に来ること自体が本当に久々なのだという実感が湧いてきた。


初仕事まで残り一ヶ月を切った。約半年振りに中学校へ行けたが、嬉しさより不安の方が勝っている。

織火が「両親が亡くなった関係で、ショック状態が続いていた」と学校側に説明を通してくれたらしいけど、皆には色々と聞かれるに違いない。



廊下を歩いていると、至る所から視線を感じた。二年生は殆ど不登校だったのだ。注目を浴びても陰口を叩かれてもおかしくない。予想出来ていたことなのに、どうも居心地が悪い。自然と足取りも早まった。

「水音君」

教室まで一歩前という所で、唐突に話しかけられた。聞き覚えのある声がして、衝動的に振り向く。一箇所ぴょこんと跳ねた寝癖に、眠たげな目。彼は……。

楓季(ふうき)君! 久しぶり」

「やあ。事情は聞いていたけど、元気そうで何よりだよ」


秦野(はだの)楓季。今まで何度か同じクラスになり、小学校からの付き合いがある。性別に関わらず、全員に対し“君”を付けて呼ぶのが特徴だ。朧げな性格に反し、中学では風紀委員として厳しく服装チェックをしていた。

今年度も風紀委員なのか尋ねようと口を開いたが、慌てて閉じる。彼の腕に生徒会の腕章が安全ピンで留められていたからだ。

「楓季君、生徒会に入ったの?」

「うん。お蔭で生徒会長やってるよ。これで『風紀委員の楓季君』って名前を卒業できると思うと嬉しい」

彼はそう言ってヘラヘラ笑う。


誰に対してもフレンドリーな楓季は皆に好かれていた。多くの友人に囲まれて、人の輪の中心でいつも笑っている。その外側にいた私は、それが誤魔化す為に作った表情なのだと知っていた。

私も似たようなものだ。皆の空気を汲んで、其処に馴染もうとする。自分の素が出るのは家族の前だけであり、友達と一緒の時は仮面を被る。

それを互いに認識している。秘密を共有し合い、本当の自分を知る友達だ。


私は一言だけ告げる。

「まだ笑えないの」

彼の顔から笑みが消えた。怒っている、と言っても過言ではない。

「そういう水音君はどうなの」

聞き返された。脳髄まで刻まれていた記憶が巡り巡って蘇る。ぶわっと冷や汗が出た。

「……ごめん。訊いた私が悪かった」

「別に良いよ、お互い様だしね。そろそろ始業式だから僕は会場に行くけど、水音君は教室に用事あるんだっけ?」

彼にまた愛想笑いが浮かぶ。私は頷いた。

「あまり過去を引き摺るなよ」

それだけ言い残して、彼は行ってしまった。

……言われなくても分かってる。

そう返すつもりだった。でも声は出ない。


彼がいなくなり、また視線を感じた。急いで教室に駆け込むと、クラスメイトが一瞬だけ私を見たが、すぐに目を逸らしてしまう。逃げるように席に着く。

ここ最近で忘れていたけれど、私の現実は、いつもこうだった。友達も頼れる人もいない。楓季以外は。

【白天】には美煉や麦たちが、友達がいる。頼れる人達がいる。

これまでは家族の元へ帰るのを楽しみにしていたが、今は違う。私は【白天】に戻ることを望んでいる。

以前にも増して、帰りたいと思った。



始業式が終わり、担任の先生の紹介後に即下校となった。

【白天】に帰るには移動スキルを使用しなければならない。けれど白天士の存在は知らない人も多く、人目の付かない場所を選ぶ必要がある。騒ぎになると面倒なので仕方ない。

何処がいいか校舎の辺りを彷徨(うろつ)いていると、中庭に楓季の姿があった。桜の木の下に座っている。膝上に生徒会のボードを置き、何か書いていた。横に通学鞄がある。


「楓季君」

「……やあ。また会ったね」

楓季は私に気付き、隠すようにボードを鞄に仕舞う。それが気になって「何かあったの」と尋ねた。

「ここ数日で連続して殺人事件が起きている。どれも市民の住宅で発生、凶器なし。犯人の指紋も検出できなかったらしい」

聞いた瞬間、悪魔の仕業だと直感した。私の家への襲撃と状況が酷似している。

織火の指示通り、情報を集めなくては。

「連れ去られた人とか、いる?」

「ああ、いるよ。行方不明者として届け出もある。よく知ってるね」

「うん。まあ、ね」

途切れ途切れにそう言う。何とか勘繰られずに済んだ。

「父親が警察官でさ、この事件の捜査を担当しているのを教えてくれたんだ。僕も少しは力添えしたいと思って」

「将来は警察官志望?」

「いや、どうかな」

どちらとも取れる曖昧な返し。彼の瞳には迷いがあった。

それにしても、警察官の息子だとは初耳だ。この事件の担当ならば、新しいことも分かって来るはず。これなら情報収集も難なく出来そうだ。


「他に共通点はない?」

「随分と興味があるんだね。ミステリー小説にでもハマってるの?」

私は首を縦にブンブン振って肯定した。

……真っ赤な嘘だけどね!

彼は物珍しそうな目で私を見つつも、話を続ける。

「そうだな……発生時刻が夕方三時から六時までの間。かつ誘拐された人は全員が成人男性であることぐらい」

「なるほど」

悪魔の条件と驚くほど一致している。段々と確信が持ててきた。

「状況が昨年の事件とも似通っていて、関連性の調査中らしい。それも解決の鍵になるかもしれない」

昨年の事件。きっと私の家の襲撃のことだ。事後処理は木織がやったそうだが、警察にはどう説明したのだろうか。

脳内で彼是(あれこれ)考えていると、彼が鞄を手に立ち上がる。先程と瞳の色が一変していた。

「この話はもう忘れて。水音君は関わらない方が身の為だよ」

彼なりの脅しなのだろう。けれど私に動じるつもりはない。更に人が亡くなり、攫われるのは阻止したい。

どちらかと言うと楓季の方が心配だ。人間を上回る身体能力で襲いかかる悪魔に、白天士以外が敵う訳がない。そもそも恐怖で身動き一つ取れないこともある。私の場合がそうだった。

「楓季君も気を付けて」

「ご心配どうも」

楓季は背中を見せながら手を振り、遂に姿も見えなくなった。


中庭に人気が無くなる。このタイミングで【白天】に帰ろうと思ったが、報告が先だ。セーラー服の袖を捲り、腕時計を覗かせる。「依雲ちゃん」と呼んで接続すると、数秒で出てきた。いつものメイド服姿である。

「水音さん、学校お疲れ様です。どうかなさいましたか?」

「あのね……」

私はこの街で発生した連続殺人事件について、事細かく説明した。一応、楓季の名は伏せておく。

「確かに水音さんの予想通り、その事件は悪魔が引き起こした可能性が高いですね。織火様にも念のため通達しておきましょう」

「ありがとう。助かります」

「いえいえ。今日は生家の方に花彩様がいらっしゃるでしょうから、話が出来るかと思います。此方へ帰る前に行ってみてください」

花彩が実家にいる。貴重品は特に置いてきていない筈だ。何で今になって実家に?

気になる所はあるけれど、この目で確かめるのが最速の方法だろう。

「分かった、行ってみる。後はお願いね」

「了解です。お気を付けて」

依雲との通信を切り、久々の通学路を歩き出した。

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